[深セン/上海 6日 ロイター] - 台北に本拠を置くロボット掃除機メーカーの松騰実業(マツテック)はこれまで10年以上も、フィリップス<PHG.AS>やハネウェル<HON.N>といった欧米企業とOEM(相手先ブランドによる生産)契約を結び、中国に設立した工場から米国などの海外市場に製品を出荷してきた。

こうした戦略が実を結び、同社は世界第2位のロボット掃除機メーカーに成長した。

しかし今、同社は激化する一方の米中貿易摩擦の犠牲になった多くの企業の1つに名を連ねている。

米政府が中国からの輸入品に25%の関税を適用したため、昨年の米国における売上高は20%も落ち込み、中国にある11の組み立てラインのうち2つの閉鎖に追い込まれた。

この輸入関税により、松騰は2017年に「ルンバ」を製造するアイロボット<IRBT.O>との訴訟に巻き込まれて既に幻滅を感じていた米国市場に完全に見切りをつけ、昨年12月に事業戦略を転換。自社ブランド「Jiaweishi」をアリババ<BABA.N>やピン多多(ピンドォドォ)<PDD.O>の電子商取引サイトで販売することに注力するようになった。

15年に立ち上げたJiaweishiを今までそれほど重視してこなかった同社だが、深センにある2つの子会社の幹部を務めるテリー・ウー氏は「米中摩擦がわれわれを目覚めさせた。海外市場だけに頼ることはできず、むしろ中国で自社ブランドの足場を築くべきだと気がついた」と語った。

さらにウー氏は「OEM企業でいるのは、毎年適度に雨が降るのを当てにしている農家のようなものだ。自前のブランドを構築し、やや価格を引き下げ、外国ブランドと同品質の製品を提供しないという手はない」と付け加えた。

実際のところ、中国に生産拠点を持つ米国市場向けの事業比率が高い企業にとって、他国に生産を移管するという方法を除けば、自社ブランドの推進以外に戦略上の選択肢は乏しい。

これを長い目で見ると、大手外国企業にとっては市場競争が激化することを意味する。

ベイン・アンド・カンパニーのパートナー、ジェーソン・ディン氏は「かつて提携相手やサプライヤーだった中国企業がライバルになりつつある」と指摘し、外国ブランド側も対応を強化する必要が出てくるとの見方を示した。

<電子商取引を活用>

ワイングラスなどを製造する年間売上高8億元(約120億円)の安徽徳力(Anhui Deli)も、米国の関税で痛手を受けている。

マーケティングディレクターのCheng Yingling氏は「今年になるまで、米国はわれわれにとって一番の成長市場だったが、貿易戦争のために顧客が発注をためらうようになり、米国からの多くの注文が取り消された」と打ち明けた。

同氏によると、米政府が今月発動した追加関税によって中国のガラス製品の関税率は40%に達し、業界にとって大打撃になっているという。

ところが中国国内の電子商取引を通じた販売が好調なことから、そうした痛みはある程度和らげられている。最近はピン多多と手を組んだことで、新しいガラス容器の売り上げは毎月5万個強と、実店舗経由で売った場合の想定の約3倍に達した。

安徽徳力はパキスタンに新工場を設立することも決定し、来年1月から稼働する見通しだ。

ただ生産拠点を中国国外に移すには時間がかかるし、さまざまなリスクも伴う恐れがある。

松騰や米ウォルマート<WMT.N>に「Onn」というブランドでテレビを供給している深セン市兆馳(Shenzhen MTC)の両社も一部の生産をベトナムに移管することを検討したが、トランプ政権が6月にベトナムも追加関税対象に加えると示唆したため、結局断念した。

深セン市兆馳は、ピン多多との提携も始めた。

ピン多多は貿易摩擦を商機とみなして、昨年12月に製品開発に関するコンサルティングサービスを始動させ、中国国内ですぐにも事業を拡大したがっている企業に積極的な売り込みをしている。

深セン市兆馳のバイスプレジデント、デービッド・ファン氏は「ピン多多の方からわれわれに声をかけ、消費者向けのメーカーのビジネスモデルがほしいと言ってきた。彼らが中小都市で非常にうまく事業を展開していることや、(他の電子商取引企業と比べて)家電メーカーの提携相手が少ない点を考慮し、一緒にやっていくことを決めた」と説明した。

一方松騰のウー氏は、中国市場に目を向ける新戦略が大成功を収め、Jiaweishiのブランドで既に10万台を超えるロボット掃除機を販売したと胸を張った。いったん閉鎖した2つの組み立てラインも再開するつもりで、来年初めまでに3つのラインを追加する計画だ。

同氏は「中国には大きなチャンスがあると思う。ロボット掃除機の普及率は米国が17%なのに対して中国はわずか1.5%しかない。結局のところ、ここには10億人以上(の消費者)がいるのだ」と話した。

(Pei Li、Brenda Goh記者)