不動産の“異端児”が仕掛ける「セルフ内見」サービスの衝撃

2019/9/11
不動産業界の“異端児”が賃貸契約の常識をくつがえす画期的なサービスを9月24日にスタートする。その名は「OHEYAGO(オヘヤゴー)」。スマートロックの活用によって、部屋を借りたい人が内見から入居申し込みまでをスマホ1つで行える、これまでにない賃貸サイトだ。

手掛けるのは賃貸分野のPropTech(不動産テック)の先駆者であり、2018年にGA technologies傘下に入った「イタンジ」。私たちにとって最も身近な賃貸という巨大な不動産市場の変革に挑む同社は、どんな未来を描いているのか。代表の野口真平氏の構想を深掘った。

部屋探しに「ワクワク」を取り戻す

──部屋探しの問題を解消する「OHEYAGO」とは、どんなサービスなのでしょうか。
野口 「どんな部屋に住もうかな?」と部屋を探しているときの気持ちを思い出してみてください。部屋の広さや綺麗さ、利便性の高さ、街の雰囲気など、みなさん要望はさまざまですが、新しい暮らしを想像しワクワクしていると思います。
 本来、部屋探しは心躍る体験です。しかし、残念ながらその過程において、がっかりした経験を持つ方は少なくありません。
 すぐ内見したいのに、「日程調整に時間がかかる」。まだ部屋は空いていると言われ店舗に行ったのに、「埋まってしまったと告げられる」。「想定より高い手数料」を提示され、納得できないまま成約までいたってしまう。
 せっかくの楽しい時間を急速に奪う問題を解決し、賃貸契約において最高の体験をデザインしたい。そんな思いで立ち上げたのが、OHEYAGOです。

「今見たい、すぐ契約したい」を可能に

 「OHEYAGO」は、スマホで内見予約から入居申し込みまでを完結できるセルフ内見型賃貸サイトです。
 サイトで気になる賃貸物件を見つけたら、内見したい日時をカレンダーからワンクリックで予約。内見には不動産会社の同行が不要で、ユーザーはスマホに送られてくる電子錠で部屋のスマートロックを解錠し、気に入ればその場で入居申し込みができます。
 保証会社の審査までをワンストップで実施するため、スピーディーな契約が可能になりました。
 ある調査では、部屋探しをしている人の60%程度が17時以降、つまり会社帰りや帰宅後の時間帯に問い合わせをしています。
 しかし、従来の賃貸検索ポータルサイトの場合、気になる物件に問い合わせをし、仲介会社からの返事を待って双方のスケジュールを合わせて店舗に出向き、内見を行う流れが通常でした。この場合、店舗の営業時間に合わせる必要があるため、多くの人が土日にわざわざ出向くことになります。
 そうすると貴重な休日がつぶれてしまううえ、このタイムラグの間に目当ての部屋が埋まってしまうことも少なくありません。賃貸はシーズンによって繁閑の差も激しいため、繁忙期にはアポを取ることすら難しくなります。
 「OHEYAGO」を使えば、会社帰りに見つけた部屋に、その足で内見に出向くことも可能です。仲介側が案内する負担も減らせるため、仲介手数料は業界の一般的な価格より安価な、家賃の半月分に抑えています。

賃貸契約の新しい“当たり前”を作る

──店舗に出向いて、鍵を受け取り、内見し、鍵を返して、紙の書類を書いて……。賃貸契約において、これらは当たり前のプロセスだと思っていましたが、改めて考えるとたしかにとても不便です。
 これが飲食店や美容室であれば、ポータルサイトでお目当ての店を探し、そのまま予約するのが通常です。そんな現代の常識が、不動産業界では通じない。
 その理由は、現在の賃貸ポータルサイトが担うのは集客だけで、その後のプロセスには仲介や契約を手掛ける仲介会社と、部屋を管理する管理会社が関わっているからです。
 仲介会社はお客さんからの内見希望が入っても、自らの判断で予約を受けることができず、物件を管理する管理会社に電話やファクスで連絡を取り、都合をすり合わせなくてはなりません。そんなことをしている間に、人気物件は別の仲介会社からの申し込みで埋まってしまう。
 間に多数の業者が介在することが、サイトでは掲載中の物件が埋まっていて「騙された」と感じる利用者が多い要因のひとつにもなっています。

業界の非効率な経営にも一石

 我々は「イタンジ」という社名のイメージもあって、業界の“ディスラプター”と称されることもあるのですが、既存のビジネスを壊すつもりはありません。
 目指すのは、消費者の選択肢を増やすこと
 たとえば、どんなに行列ができていても新幹線のきっぷは窓口で買いたいという方は一定数います。彼らを無理やりネット予約に誘導する必要はなく、重要なのは窓口に並びたくない人に新しい選択肢を提供することです。
 部屋探しにおいても、仲介店舗でその地域にくわしい担当者にじっくり相談に乗ってもらいたいというニーズは当然あり、そういう方が店舗に出向ける選択肢も必要だと考えています。
 また、少子高齢社会を迎え、家賃相場の下落や物件の供給過多が指摘される時代において、経営体力の乏しい不動産会社は、そのビジネスモデル自体が成り立たなくなってしまうという業界の課題もあります。
「OHEYAGO」は消費者の利便性だけでなく、管理と仲介の双方を手掛ける不動産会社にとって仲介コストを削減し、採算を改善できるツールにもなるのです。

「不動産業界を変える」大きなビジョンを共に

──イタンジは昨年、GA technologiesグループへの仲間入りを果たしました。
 我々のビジョンは、「テクノロジーで不動産取引をなめらかにする」です。
 「不動産業界にテクノロジーで革命を起こす」とうたうGA technologies(以下、GA)とは、目指す未来図が共通しています。
 賃貸に強いイタンジと、中古物件の検索から売買・管理までを一気通貫で担うGAが手を組むことで、その未来の実現により近づくと確信を持っています。
 イタンジはエンジニア主体の組織として成長してきましたが、技術一辺倒ではなく、リアルな不動産の現場を知ることで課題を発見し、それを解決するサービスを提供することを重視してきました。
 GAから営業や管理のノウハウを得ることによって、より良いプロダクトのイメージが見えてきたのは大きな収穫です。

業界に共感を広げ、いかに物件数を増やすかがカギ

──「OHEYAGO」普及に向けた課題は。
 消費者の利便性を飛躍的に向上させるプラットフォームが最後に選ばれることは、すでに他業界のAmazonやBooking.comなどが証明しています。
 それでも、サイトから選べる物件の選択肢が少なくてはお客様の期待に応えることができないので、掲載物件数を確保することが急務です。
 賃貸物件を管理する管理会社にメリットをしっかり説明し、参加をうながす地道な活動が普及の大きなカギになる。我々のビジョンに共感していただく管理会社を増やす活動を共に担ってくれるメンバーを今、求めています。
 これまで物件確認の自動応答システム「ぶっかくん」や、入居申込書のWEB受付システム「申込受付くん」、ブロックチェーン技術を活用して賃貸借契約をオンライン上で可能にする「電子契約くん」といったBtoBサービスに注力し、業界の不便や課題を解決するプロダクトを一つひとつ浸透させてきました。
 業界内において一定のプレゼンスを確保した今だからこそできる集大成として、消費者向けのプラットフォームを世に送り出そうとしています。
 消費者の利便性を劇的に高め、業界の課題も解決できる「OHEYAGO」で、ようやく勝ち筋をつかんだという強い手ごたえを感じています。

業界の変革を最前線でリードする

 実は我々は過去に二度、消費者向けのサービスをローンチし、撤退するという苦い経験を持っています。
 2つ目に手掛けた無店舗型の不動産仲介サービス「nomad」は、ユーザーから高く支持いただき、累計15万人以上の方に利用いただきました。しかし、収益性が低く継続が困難になり、撤退という悔しい判断をしました。
 また、大手を含めた複数の企業が「アナログな不動産業界をテクノロジーで変える」と息巻いて参入しては、夢破れ去っていくのを何度も見てきました。
 多くの方に共感を得られても、その成功がとてつもなく難しい挑戦であることは誰よりも理解しています。でもだからこそ、「我々がやるんだ」という強い使命感も抱いています。
 かつてスティーブ・ジョブズは、有名なスピーチで「点と点が将来結びつき、道を切り開く。それを信じよ」と、コネクティング・ドッツの考え方を説きました。思い起こしてみると、イタンジの過去の失敗と成功の歴史がすべてつながって「OHEYAGO」のサービスに活きています。
 人々のためになり、多くの人に喜んでもらえるサービスであること。業界が大きく変わるタイミングにおいて、第一線に立てること。
 今、イタンジには夢中になれる環境がたくさんあります。変革期ならではの困難はあっても、イタンジで得られる経験はそれを上回るメリットがあると自負しています。
 近い将来、20兆円規模に届こうとしている巨大な不動産市場を消費者目線で塗り替える。熱狂的な挑戦に、我々は心の底からコミットメントしていきます。
(構成:森田悦子 編集:樫本倫子 写真:的野弘路 デザイン:砂田優花)