「クラウドSIM」が叶える夢の通信環境。「どんなときもWiFi」が売れる理由

2019/9/13
 データ容量無制限でソフトバンク・ドコモ・au の3キャリアのネットワークに自動接続し、月額3480円(※クレジットカード払い限定2年プラン)でインターネットがサクサク使えるという、夢のようなWiFiルーター「どんなときもWiFi」が全国を席巻している。
「どんなときもWiFi」を1台持つだけで、離島でも移動中の新幹線でも、なぜか圏外になりやすい渋谷駅周辺の地下鉄でも、データ量や料金を気にせず高速インターネットに接続できる。「動画を見すぎて通信制限がかかった」「実家に帰ると電波が弱くて困る」といった悩みも解消される。
 しかも、日本を含む世界107カ国で、新たに端末を契約したりSIMカードを入れ替えたりする手間もなく、これ1台でそのままインターネットが使えるのだ(※海外利用時には別途料金が必要)。

「つながりやすさ」の秘密

 このサービスを開発したのは、福井県にあるオールコネクト社。「どんなときもWiFi」の事業責任者、加藤はる奈氏はこう語る。
「当社はWiMAXなどのWiFiルーターやインターネット回線等を販売する通信代理店を長年続けているのですが、お客様に通信制限がかかってしまうことや、回線によってつながりにくいエリアが生まれることを、売る側として課題に感じていました。
 つながりやすさに加えて、インターネットを使う人のニーズは、体感速度と容量と値段の3つ。このうち体感速度はどの商品もほぼ同じなので、『どんなときもWiFi』では容量と値段を追求しました」(加藤氏)
2011年入社。コールセンターで営業・販売のノウハウを学び新規商材の立ち上げを担当。コールセンターで管理職を6年勤め、2017年にMVNO事業の事業部長に就任。
 こうした課題を解決するために採用されたのが、「クラウドSIM」という技術だ。
 SIM(Subscriber Identity Module)とは、加入者情報などを記録した領域や部品のことで、たとえば携帯電話ではICカード化されたSIMを差し込み、契約した回線を利用する。言ってみれば、ネットワークを使うための「鍵」のようなものだ。
 従来のSIMカードでは一つの通信端末に一つの回線が割り当てられていたが、「どんなときもWiFi」は物理的なICカードではなく、SIMをクラウド上で管理する。
 国内外のSIMをクラウドサーバーに集め、カードを差し替えることなく自動で切り替えるため、今いる地域でもっとも良好な通信回線を自動検知して最適なSIMカードを割り当ててくれる。だから、「いつでもどんなときもつながる」というわけだ。

通信容量無制限なのに月額3480円(※)

(※クレジットカード払い、24カ月の料金)
「どんなときもWiFi」が破格の料金で容量を無制限にできたのも、クラウドSIMがあったからだ。
 通信各社のスマホやWiFiルーターの料金プランを比較しても、容量無制限で使えるプランの相場は7000円前後。通常、データ使用量は上限が決まっていて、使いすぎると速度が制限されるか、追加料金がかかる。
 だが、契約ユーザーが1000人いても1000人が同時に通信するわけではない。その時々で、ユーザーが使うデータ量はさまざまだ。
 クラウドでSIMを管理すれば、今現在通信していないユーザーのSIMを割り当てることができる。契約ユーザーの利用状況に合わせて回線をシェアすることで、容量無制限のサービスが成り立つのだ。
 今は同じサービスを提供する競合はいないに等しいが、クラウドSIMの技術を使って追随する企業は現れるかもしれない。しかし、「ユーザーファーストのネットワーク品質を維持した上で同じような価格設定をすることは難しいだろう」と加藤氏は言う。
「オールコネクトでは、目先の利益よりも長期的に契約ユーザーになってもらえることに価値を見出し、価格を抑えるための涙ぐましい企業努力をしています(笑)。これは、当社の社風なんです」(加藤氏)

福井の雪深さに断念した訪問販売

 そもそも、スマホや通信回線、電力などをWebで販売していた販売代理店が、なぜ自社商品の開発に至ったのだろうか。
 さかのぼること2005年、オールコネクト社は福井県でインターネット回線の訪問販売をする会社として誕生した。しかし、雪深い福井の冬に訪問販売は向いていない。そこで「インターネットでインターネット回線を販売する」ビジネスにシフト。
「当時、インターネット回線をインターネットで販売する会社はほとんどありませんでした。しかし、通信回線やスマホ、WiFiルーターなどインターネット環境は一つではないことが、結果的に会社を伸ばしました」
 こう語るのは、取締役の斉藤鋭一氏だ。
2008年入社。Webマーケティング部門で広告運用等を経験し、その後、事業本部で携帯電話、MVNO事業の立ち上げ、拡大を指揮。現在は複数事業を統括する本部長を務める。2019年取締役就任。
 以来、制限された環境やトラブルに直面しても、もっともパフォーマンスを上げられるビジネスモデルに柔軟に変えていくことで、オールコネクト社は成長した。
 WiFiルーターに関しては事業者の中でもかなり早いタイミングから販売を開始したこともあって、WiMAXの販売数は今でも日本トップクラスを誇っている。
 さらに、インターネット回線とセットで提案すると相性の良い保険や電力、ウォーターサーバーなど販売商品を拡大。付帯ビジネスを広げていくことで、“できあがったブランド”で、なおかつサブスクリプションモデルの商品を販売する強力なノウハウを得る。
「東日本大震災の影響で、それまでのメイン事業であった固定インターネット回線の工事がストップし、手数料が入らない状態になったことがあります。
 その際は、一時金で支払われるショットビジネスに加え、MVNO事業というストックビジネスをはじめることで、経営基盤を強化しました。震災が2011年3月で、その年の6月には販売を開始したというスピード感も私たちの強みですね」(斉藤氏)
 オールコネクト社が創業からずっと大切にしてきたのは、変化し続けることだ。環境変化やトラブルに対応するのはもちろんのこと、事業が順調に推移していても、その環境をあえて壊して新しい挑戦をして変化を起こす。それが競合に負けない優位性を作ってきた。
オールコネクト社に掲げられている企業理念。この考え方をベースにすべての社員が行動する。
 そして、この変化を続ける企業カルチャーこそが、「どんなときもWiFi」を生み出したのだ。
「『大容量で使える』ということと、『どんなときもWiFi』のように『無制限で通信できる』こととは、ユーザー心理的にも大きく違うと考えています。動画サービスのように通信を利用するビジネスなどは、共に拡大する可能性があるのではないでしょうか」(斉藤氏)

諦めかけていた、容量無制限のWiFiルーター

今までさまざまな商品のMVNO事業・代理店販売をしてきた実績がある同社は、その知見から「どんな商品設計なら、どれくらい売れて、どれくらいカスタマーセンターに電話がかかるのか」などがデータですべてわかっていた。
 WiFiルーターの販売代理をする中で、もっと売り上げを伸ばすための答えは「本当に容量無制限を実現させること」だ。だが、製品開発の知見がなかったため、自社では実現しないことだと何年も諦めていたそうだ。
「クラウドSIMの仕組みを使えば、容量無制限のWiFiルーターを作れることを知りました。最初は半信半疑でしたが、知れば知るほど『自分たちで作れるかもしれない』と思うようになり、半年の開発期間で商品発売までこぎつけました」(加藤氏)
 サービスの料金にしても、さまざまな商品とその売れ行きの傾向をデータで持っているからこそ、絶妙な肌感覚で設定できたという。ただ、販売ノウハウはあっても、ブランドはどのように立ち上げるのか、売る前の行程が未知の領域だった。
「そもそも、自社ブランドの作り方は社内で誰も知りません。プロダクトは作れても、ネーミングはどうするのか、プロモーションはどうするのかなど、わからないことだらけでした。だから、餅は餅屋だと思ってわからない領域はプロに一任。もし失敗したら依頼した自分たちが悪いと腹をくくって。
 ただ、商品名は『どんなときもWiFi』でいきましょうと提案されたときや、初めてのテレビCMにタレントを2人起用することを提案されたときは正直不安でいっぱいでした(笑)。でもそれが結果的には成功要因となったのです」(斉藤氏)

ユーザーファーストだから支持される

「どんなときもWiFi」は、WiFiルーターの領域ではかなりの後発だ。しかし、オールコネクト社は長年の販売代理事業で可視化されていたユーザーの本質的な課題に真摯に向き合い、解決するために知見を生かしたことで、多くの人から支持を集め続けている。
 公式には発表されていないが、Webのオーガニックの検索数は1日約1万3000件。発売当初は想定の数倍のペースで申し込みを受け、半月以上在庫切れを起こしてしまうという失敗もあった。
 販売代理店としてさまざまな商品を取り扱ってきた同社でも、開始当初からここまで売れた商品はなかったという。
「今後5Gが開始となり5G搭載の機種を作るかどうか検討中ですが、まずは国内3キャリアだけではなく、提供できるSIMの種類を一つ増やして4キャリアのSIMから最適なものを自動的に使えるようにしたい。
 国内3キャリアのエリアカバー率はそれぞれ99.7%なので、どうしても圏外になる人や場所があります。一人でも多くの人に快適なインターネット環境を提供できるよう、企業努力を続けたいです」(加藤氏)
 通信制限にストレスを感じる、出張が多くてネット環境が不安定など、通信環境に課題を感じている人は、どんなときもつながる「どんなときもWiFi」を試してみてはいかがだろうか。
※「どんなときもWiFi」の販売元は、オールコネクトの子会社である株式会社グッド・ラックです。
(取材・構成:田村朋美 取材:大高志帆 編集:宇野浩志 写真:早坂佳美、後藤渉 デザイン:Seisakujo)