【平井卓也】政府が力をいれる日本発「データ利活用」とは

2019/9/7
今回は、デジタル時代に不可欠であり、「21世紀の新たな資源」とも言われる“データ”に注目し、その自由かつ安全な利活用によって社会課題の解決や新ビジネスの創出を目指す政府の取り組みについて、ご紹介したい。

データ利活用社会の到来

近年、タブレットやスマートフォンの普及は著しく、総務省の情報通信白書によればスマートフォンの世帯保有率は約80%となっている。また、クラウドやAIなどの技術の進化により、膨大なデータを効率的に収集し、効果的に活用することが可能となり、それによる国民生活の安全・安心や利便性の向上、新しいビジネスへの期待が高まっている。
デジタル時代には、データは「新たな資源」として、従来想定していなかった新しい価値創造をもたらす源泉になる。実際に、世界規模でこの「新たな資源」を積極的に活用する、いわゆる「プラットフォーム事業者」がビジネスを拡大してきた。
こうした事業者は、例えば、「調べものをする(検索)」「連絡を取る(コミュニケーション)」「ものを買う(消費)」などの活動をサイバー空間で行うことを可能とするサービスを消費者に提供している。こうしたサービスは、日常生活の利便性や効率性を向上させることに加え、災害時の連絡手段としても重要な役割を果たすなど、デジタル技術の恩恵を実感させてくれるものとなっている。
その一方で、「第4次産業革命の第1幕では、プラットフォームを海外に握られたのではないか」との見方がある。すなわち、これらのデータに基づくビジネスは、利用者が増えれば増えるほど新たなデータが蓄積し、データが蓄積すればするほどサービスがより便利になって利用者が拡大するという、ポジティブ・フィードバックが掛かるため、先行する海外のプラットフォーム事業者を逆転することは難しい。

デジタル時代の「第2幕」に向けて

このようなサイバー空間での競争を「第1幕」だとすると、「第2幕」の競争の場は、健康・医療・介護、製造現場、自動走行、農業など、「現場(リアル)」での複雑なオペレーションを必要とする分野に移行するという予測がある。
そして、「現場」の複雑さが増すほど、これまでの日本企業が培ってきた「カイゼン」「すり合わせ」「現場力」などの強みをデジタル分野で発揮できる可能性があると期待される。
日本企業が培ってきた強みを生かしつつ、データ活用の基盤整備や、それに対応する新しい規制の設計、官民のデジタル・トランスフォーメーションの促進など、デジタル時代の「第2幕」に対応した政策を進めることが、少子高齢化・人口減少や天然資源に乏しいといった課題を抱える日本が持続的に成長するために必要である。
そして、社会的課題を解決しつつ経済成長を持続するための「鍵」は、まぎれもなく「新たな資源」たるデータである。
デジタル時代の「第2幕」では、国民や企業が自由・安全にデータを利活用できる環境の整備と、これまでにも紹介してきた官民のデジタル化の推進が、政策の大きな方向性だと考えている。
Photo:iStock/gremlin

データ利活用促進に向けた政策

私は2000年の衆議院議員初当選以来、一貫して、IT政策を政府や政治の立場から推進してきた。なかでも、データ利活用の制度作りは、最も重要な挑戦の一つであった。
私が起草に携わり議員立法として国会に提出し、可決成立した「官民データ活用推進基本法」は、官民の協働によるデータ利活用の環境整備を理念としており、個人データの円滑な流通を促進するために、行政機関や民間事業者などが個人データを個人の主体的な関与の下に適正に活用することができるよう、基盤の整備を行うことを国の任務とした。
この点を含め、同法は、例えば、以下のような基本的な施策に対し、国が必要な措置を講じることとしている。
これらの施策は、内閣官房IT総合戦略室が毎年度取りまとめて、同法に基づく政府の基本計画である「官民データ活用推進基本計画」に反映させ、フォローアップを行っている。
また、IT政策担当大臣に就任してからは、本年5月に、デジタル社会に向けた制度的な基盤を整えるべく、「デジタルファースト」「ワンスオンリー」「コネクテッド・ワンストップ」という3原則を柱とする「デジタル手続法」を国会に提出し、可決成立した。
本年6月に開催したIT総合戦略本部では、社会全体のデジタル化による日本の課題の解決や、日本が提唱し、先日のG20で合意した、信頼のある自由なデータ流通「DFFT(Data Free Flow with Trust)」のコンセプトを含めたデジタル時代の国際競争に勝ち抜くための環境整備を図るための政策を「デジタル時代の新たなIT政策大綱」としてまとめた。さらに閣議において、政府全体のIT新戦略として「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」を決定した。
このIT新戦略では、全ての国民がデジタル技術とデータ利活用の恩恵を享受するとともに、安全で安心な暮らしや豊かさを実感できるデジタル社会の実現を目指しており、DFFTを含めた「データ利活用」とデジタル手続法を起点とした「デジタル・ガバメント」を両輪として実行しつつ、「社会実装プロジェクトの推進」およびインフラからデジタル格差対策までを含む「社会基盤の整備」に取り組むこととしている。

日本発のデータ利活用に向けて

しかし、このような制度や基盤が整備されたとしても、データの利活用に対する個人の不安や不満、事業者の躊躇(ちゅうちょ)が直ちに払拭されるものではない。
こうした不安や躊躇を解消し、パーソナルデータを含めたデータの円滑な流通を実現するため、内閣官房IT総合戦略室においてデータ流通の仕組みについて集中的に検討を行い、日本発のデータ利活用モデルとして「情報銀行」や「データ取引市場」などの考え方を整理した。
「情報銀行」とは、個人の同意のもと、個人情報を含むパーソナルデータを預かり、あらかじめ指定した条件などに基づき個人の代わりに妥当性を判断したうえで、第三者の事業者にパーソナルデータを提供する仕組みである。個人は「情報銀行」を活用することで、個々の事業者ごとに判断することなく、安心して個人の属性や趣味嗜好(しこう)に適したサービスなどを受けることができる。
この「情報銀行」を社会実装するために、一般社団法人日本IT団体連盟が、国のガイドラインに基づき情報銀行の認定事業を開始し、今年6月に民間企業2社に対して第1弾となる「情報銀行」を認定した。この認定は、パーソナルデータ活用の新たなモデルを、日本から世界に向けて発信するという点において大きな意義がある。
今後、「情報銀行」の認定事業者が増えていくことで、観光や金融(フィンテック)、介護・ヘルスケア、人材などのさまざまな分野において、安全・安心なデータ利活用の実現が期待される。
また、「データ取引市場」とは、データ保有者と当該データの活用を希望する者を仲介し、売買等による取引を可能とする仕組み(市場)のことである。このデータ取引市場については、昨年9月に一般社団法人データ流通推進協議会から取引運営事業者の認定基準が公表された。
この認定基準の目的は、安全で効率的、利便性の高いデータ取引市場を実現することであり、透明で公正な市場運営が行われることで、データ取引に対する社会的な信頼を高めることにある。
この一連の取り組みにおいて注目すべきは、国が枠組みを作り、民間団体がその枠組みの下に自主的に事業の運営を行っている点にある。
社会全体のデジタル化という観点からも、民間主導によって新しいビジネスモデルにチャレンジすることはもちろんのこと、官民が適切な役割分担のもと連携して、日本発の新たなデータ利活用モデルの創出を推進することで、積極的なビジネス展開が起こることを期待している。

官民協働での「データ利活用社会」に向けて

私は、昨年10月の大臣就任以来、“現場の話を聞く“、“現場の情報を共有“するという信念のもと、スタートアップや、IT企業や研究者等と直接意見交換を行う「HIRAI Pitch(平井ピッチ)」を開催してきた。今年8月までに地方や海外(パリ)開催を含め、延べ160人以上との間でさまざまな観点から活発な議論を重ねてきたが、とりわけ「データの利活用」は、今やあらゆる分野に共通する喫緊の課題であるとの認識を深めている。
今後も、現場の声をしっかりと傾聴しながら、我が国が目指す「Society 5.0」の実現に向けて、全ての国民が不安なくデジタル化の恩恵を享受できる「データ利活用社会」を目指し、取り組みを進めていきたい。