150cm前後の「小柄な女性」たちが支えるSNS発の次世代ブランド

2019/9/19
自社で企画・製造した商品を、自社サイトやECサイト、SNSを通じて直接ユーザーに販売するD2C(Direct to Consumer)ビジネスが興隆している。なかでもSNS発のまったく新しいブランド創出を実現したのが、身長150㎝前後の女性のためのアパレルブランド「COHINA」だ

「小柄な女性に似合うサイズの服がない」という可視化されていなかった課題に向き合うCOHINAはInstagramを通じてファンコミュニティとブランドを同時に立ち上げた。そのSNS戦略について、ブランド発起人の清水葵氏と田中絢子氏に話を聞く。
小柄ゆえの悩み。洋服のサイズがない
──COHINAは、2017年11月の創業から「Instagramで売る」を前提にしてブランドをスタートさせました。このビジネスを立ち上げた経緯から聞かせてください。
清水 田中とは高校時代からの友人で、よく社会のことや自分たちの将来について会話する仲でした。きっかけは、ある企業から内定をもらって就活を終えた大学4年のある日、「何か自分たちで新しい事業を始めたいね」という話になったこと。
 ただ、私たちは2人とも、もともと洋服に強いこだわりがあったわけでもないし、アパレル系の仕事をしたいと思っていたわけでもないんです。
 最初は世の中の“不”を解決するビジネスを作りたいと思って、いろんなアイデアを出していましたが、最終的にたどり着いたのが「小柄女性向けのアパレルブランド」でした。
 たまたま2人とも小柄で、「自分に合う洋服のサイズがない」ことは日々課題に感じていました。
 身長が150㎝くらいになると、価格やテイスト、欲しいと思えるようなちょうどいい洋服を見つけられないんですね。
 たとえば、7分丈のスカートを10分丈で着ざるを得ないし、パンツも必ずお直しが必要。裾を切ると本来のデザインとは変わってくるので、シルエットがとにかくカッコ悪い。
 だから理想のおしゃれができないモヤモヤを抱えて日々を過ごしていました。
田中 サイズがしっくりくるのはキッズ服なんです。でも、20歳を超えてキッズ服は着たくない。そんな、女子大生同士のカフェでの会話からCOHINAは始まりました(笑)。
 まずは、知り合いを通じて数十人の小柄の人に聞き込みをしてみると、全員が私たちとまったく同じように「自分に合うサイズの洋服がない」という悩みを抱えていたんです。
 それならミニマムでひとまず始めてみようと、デザイナーやパタンナー、工場、モデル、カメラマンなど何もツテがない中で走り始めました。
最初から販売チャネルはInstagram
──COHINAはInstagramでコミュニティを形成し、直接ユーザーにアイテムを販売していますが、最初からInstagramで販売しようと考えていたのでしょうか?
田中 リアルな店舗で洋服を売ることが想像できなくて、Instagramで物を売ることのほうがイメージできていました。
清水 私たち自身が、Instagramで洋服を見たり、何かを検索したりするのは日常なので、最初から自社サイトでの販売とSNSでの集客を考えました。
 むしろ、ミニマムで始められる形はそれしか思いつかなかったんですよね。商品もいきなり大量生産できませんし、見せ方や売り方は自分たちが思う通りにやりたくて。
田中 もちろん、手っ取り早いのはすでにあるECプラットフォームに出店することですが、私たちには手数料がハードルでした。
 表現にもこだわりたいし、提供できる価値を自分たちでコントロールしたかったので、画一的なフォーマットに落とし込むのは窮屈だと思ったんです。
清水 だから、販売チャネルを自社サイトとInstagramに限定して、2017年11月のプレオープンを目指しました。
 最初のアイテムとして開発を始めたのは、着まわしがしやすいシンプルなシャツとロングスカートのセットアップです。
 このときにコミットしていたのは、とにかく毎日のようにInstagramを更新すること。
 ストーリーズで開発の様子を伝えたり、ライブ配信で「どの色が好きですか?」と、見てくれている人たちとコミュニケーションを取っていました。
最初のアイテムとして開発したセットアップ
 とはいえ、最初からファンの方々のコミュニティがあったわけでも、インフルエンサーに出演してもらっていたわけでもありません
 私たちの投稿やライブ配信を偶然見つけてくれる人が少しずつフォロワーになってくれて、その人たちと双方向のコミュニケーションを続けていたら、気がついたらコミュニティができていました
──初期の頃のユーザーはどんな方だったのでしょうか?
清水 SNSに強いとかECで普段から洋服を買っているというような、いわゆるアーリーアダプターではなくて、本当に洋服のサイズがなくて困っている方たちでした。
 私たちもそうですが、小柄な人は洋服のサイズが合わないから、ECでアパレルを購入するのはとても難しいんですね。
 150㎝以下のモデルさんを起用するブランドもないので、実際の着丈のイメージがわきません。だからECでの購買経験はほとんどない。
 だからこそ、150㎝前後の私たちがライブで提案するアイテムを見て、「これなら、私もぴったりのサイズで着られるかもしれない」という期待感を持って、試しに買ってくれたのだと思います。
田中 ブランドを公開した初日、Instagramのフォロワーは数千しかいませんでしたが、用意したアイテムが次々と売れたのはうれしかったです。
 それまでのストーリーを見てくれて、楽しみに待っていてくれた方が多くて、「COHINAで買いたい」という明確な意思があることを確認できました。
双方向で濃度の高いコミュニケーション
──ブランドの立ち上げとコミュニティの形成が同時に始まったんですね。
田中 まさにそうです。オンラインで出会った人が、出会った順に伝道師になってくださいました。そうなった理由の一つが、ライブ配信を365日継続したこと。
 大みそかもお正月も関係なく配信し続け、私たちとお客様がリアルタイムのやり取りをする状態を毎日作ったことで、お客様もライブを見てくれることが習慣化したと思うんです。
 また、ただ洋服を売るだけでなく、商品開発にもお客様に参加していただきました。
清水 ライブ配信やストーリーズで「何に困っていて、どんなものが欲しいか」を直接聞き、それを元に社内で商品企画をするようにしました。
 たとえば花柄のワンピースを作るとしたら、ある程度型が決まったタイミングでお客様に見せて「どの花柄がいいですか?」と聞く。
 他にも、色や形、どんなアイテムがいいかなど、あらゆる場面でお客様に直接聞いて商品に反映させています。
ライブ配信中の様子
田中 私たちは自分たちの世界観を発信したくてブランドを作ったのではなく、本当に困っていた課題を解決するためにブランドを作りました。
 だから「皆さんの意見を教えてください」というスタンスで運営しているんですね。
 お客様も、自分の意見がアイテムに反映されていく様子をライブ配信で見られますし、それが販売されるのを心待ちにしてくださっている。
 だから継続してライブ配信を見る方が増えていきました。
 そうしてInstagramでの発信を始めて1年がたった頃、「COHINA専用のInstagramアカウント」を作ってくれるお客様が増え始めました。
 そのアカウントでライブ配信中にコメントをくれたり、購入したアイテムを投稿したり、お客様同士で情報交換をしていたり。
 私たちがリードしてコミュニティを作ったのではなく、お客様からリアルタイムでフィードバックをもらって改善するというサイクルを継続してきた結果、お客様同士がどんどんつながり始めて、結果的にコミュニティが大きくなっていったんです。
自分に投影しやすいビジュアルと見せ方
──ビジュアルや見せ方にどのような工夫をされているのでしょうか。
清水 私たちは共感で成り立っているブランドなので、広告でも投稿でも疎外感を与えないようにしています。
 155㎝以下といっても、140㎝や150㎝などさまざまな身長の人がいらっしゃいますし、体形もさまざま。
 だから、140〜155㎝までのモデルさんを起用して「143㎝が着こなすカジュアルパンツ」といった文言とビジュアルを載せるようにしています。
 特に広告では、“143㎝”など身長を記載することで、オーガニックの投稿だけでなくターゲットになる潜在顧客にも広く届くよう工夫しています。
田中 アイテムごとに見せ方は変えていて、たとえばシャツなら「OLさんにオススメのコーディネート」としてまとめることもあります。
 みなさん、さまざまな人生があるので、ライフスタイルに合わせたシーンで提案していますね。
清水 それから、たとえイメージ写真だったとしてもスラッとした外国人モデルなどは起用しません。
 提案するシーンやコーディネートも雑誌のようなかっこいいビジュアルではなく、あくまで「普段使いしやすそうだ」と身近に感じてもらえることを意識しています。
田中 ライブ配信に関しても、現在は10〜15人が毎日入れ替わりで配信をしているのですが、身長や体形はもちろん、OLさんや美容師さん、ママさんなどライフスタイルの違う人に出演してもらっています。
 そうすることで、お客様は「私のライフスタイルと近いAさんの配信を見よう」「私の体形と近いBさんが参考になる」など、自分に投影しやすいんです。
清水 自分と似た身長や体形の人が着るとどんな着丈や見た目になるのかが想像しやすいので、ライブ配信中は「この服を着てください」という試着リクエストも多いですね。
 ちなみに、この10〜15人はCOHINA のモデルとして普段から協力してくれている人や、Instagramやオフラインイベントでスカウトした人、それから「やりたい」と声をかけてくださったお客様で構成されています。
 もちろん、身長が低いのでもともとモデルをやっていた人は一人もいませんが、高い熱量でいろんな人が関わってくれています。
日本から世界へ、オンラインからリアルへ
──現在、1カ月に20〜30アイテムを作っていると伺いました。今後の展開としてはどのようなことをお考えですか?
清水 7人の社員とインターン生、フリーランスなどの外部パートナーと作っているので、その人数で月20アイテムはなかなか大変です(笑)。
 だけど、10代から60代まで顧客層が広がり、ニーズも増えたので応えたいと思っています。
 というのも、普通サイズを着こなせる人はいろんなブランドを組み合わせてコーディネートできますが、COHINAのお客様はそうはいきません。
 全身・全コーディネートを「COHINAでそろえたい」という方はたくさんいらっしゃるんです。
田中 実際、「クローゼットの中身をCOHINAに入れ替えています」とおっしゃる方も少なくなくて。
 今までの人生でオシャレができなかったぶん、ぴったり合うサイズの洋服でオシャレを楽しみたいと思えるようになった方の要望に応えたいと思っています。
清水 COHINAは2017年11月に1アイテムから小さく始めた事業ですが、2019年3月には月商5000万円を超えました。これはお客様に信頼され、ブランドが愛されてきた証拠。
 日本全国はもちろん、アジアの他の国でも小柄で洋服のサイズが合わずに困っている人はたくさんいるはずなので、もっと広げていきたいと思っています。
田中 今後の展開としてなるべく早いタイミングで実現させたいのは、お客様とのリアルの接点を増やすこと。
 ポップアップショップの店頭にライバーさん(※ライブ配信をしている人)が立つと、その人をめがけてお手紙を持ったお客様が大勢いらっしゃるんです。
 「ずっと会いたかったです」と。
ポップアップショップ
 ソーシャルでつながっているからこそ、リアルで会えたときのうれしさやテンションの高さは大事にしたい。今はポップアップショップを月に1回実施していますが、今後は増やす予定です。
 加えて、アメリカのD2Cブランドにも同じ動きがありますが、私たちも常設店舗を構えてお客様との接点を増やすべく、準備を進めているところです。
生き残るのはユーザー起点のブランド
──COHINAは今までになかった新しい手法でブランドを立ち上げました。今後、どういうブランドが生き残っていくと思いますか?
田中 世の中を見て思うのは、本当に必要なものが作られていないな、ということ。
 ショッピングに出かけても、洋服はどのブランドも似たものばかりなので、そのお店で購入する理由を見つけられないんです。
 ブランドはユーザー起点で始まってほしいし、そういうブランドが生き残るのかなと思います。
清水 ユーザーの意見や希望が取り入れられるスピードが速ければ速いほど、強いブランドなのかなと思います。
 洋服にしても、買い方や着こなし方などの体験の一部始終に対して、「もっとこうだったらいいのに」とユーザーは何かしらの課題を感じています。
 私たちはInstagramでユーザーが悩みを共有しやすい場を作り、「質問をして聞き反映する」という行動を毎日続けてきたから、お客様も信頼してどんどん意見を発信してくださるようになりました。
 ライブ配信や毎日の投稿によってつながったオーガニックなファンの方々と、潜在顧客層にも広く届ける広告を通じて新しくCOHINAを発見してくれた人たち、この2つが合わさることで、どんどんコミュニティの輪が広がっています。
 その結果、今までファッションに興味を持てなかった人が興味を持てるようになるという態度変容を起こせたし、自分の意思ではどうしようもなかった“身長”の課題を解決できました。
田中 キッズ服じゃない、大人っぽい服をジャストサイズで着こなすというのは、小柄な人にとって人生が変わる体験なんです。
 だからこそ、お客様と一緒に作ってきた「課題解決型アパレルブランド」をもっと広めて、一人でも多くの人に「ぴったり」な感動、諦めていたオシャレができる体験を届けたいと思っています。
(文:田村朋美、編集:呉琢磨、写真:岡村大輔、デザイン:九喜洋介)