コーチが語る、ウインブルドンJr.を制した望月慎太郎の可能性

2019/8/30
現在熱戦が繰り広げられている、テニスの四大大会最終戦である全米オープン。
昨年は男子シングルスで錦織圭選手が準決勝進出、女子シングルスでは大坂なおみ選手が日本人史上初のグランドスラム制覇を果たすなど、日本人選手の快進撃にテニス界は大いに盛り上がった。
そしていま、注目を集めているのは現在16歳の望月慎太郎選手だ。
望月選手はこの7月に実施されたウインブルドン・ジュニアにて、これまで日本男子ジュニア選手が誰も獲得できなかったグランドスラム・シングルスのタイトルを獲得した。
この望月選手を現在IMGアカデミーで指導しているのが、プロピッカーの中村豊氏だ。全米オープンジュニア部門が開幕間近のいま、中村氏に望月選手の可能性について聞いた。

望月選手について

──先日、望月慎太郎選手がウィンブルドン・ジュニアで日本人男子として初めて優勝しました。中村さんは以前から望月選手を指導されていたとのことですが、今回のことをどのように捉えていますか?
中村 望月選手はいま16歳ですが、彼は13歳から盛田ファンドの奨学生としてIMGアカデミーでトレーニングしています。今年のフレンチオープンが彼にとって初めてのグランドスラムジュニアの大会だったのですが、そこでベスト4になりました。そして、2大会目であるウィンブルドンでは優勝という快挙を成し遂げました。
実は彼のテニス自体は、IMGに来てからの3年、特に大きく変わったことはありません。
彼のテニスをじっくり見たことがある人もまだ多くないと思うのですが、彼は体がそこまで大きいわけではありません(175センチ、63キロほど)。
フォアハンドがすごく強いわけでもないし、サービスがすごく速いわけでもない。ただ、そういったハンデを彼は頭脳で補っています。とても視野が広く「相手が◯◯にいるから、自分は◯◯をしないといけない」ということがとてもよくわかっている選手です。
また、彼は「相手に強打されたとき、その力をうまく利用して逆襲する」といったカウンターが非常に上手です。
彼の体格は世界で見ると小さい方なので「その体格にあわせてどうすれば勝てるか」を考えてこれまで一緒に試行錯誤してきましたが、今回このように結果が出たことは一つの過程としてとても評価できるし、今後が楽しみな選手であることは間違いありません。
中村豊/IMG ACADEMY アスリートの専門家
アスリート育成から健康に関するスペシャリスト。主要3項目(トレーニング、栄養、リカバリー)から成るフィジカルプロジェクトを提唱。 現在は米国フロリダ州に位置するIMGアカデミーに拠点を置き、テニスから他アスリートの育成に関わっている。海外で幅広いネットワークを持つフィジカルトレーナー。 錦織圭選手を支援した盛田ファンドのアドバイザー・顧問、将来有望なジュニア育成にも関わっている。 過去には女子テニスWTAのマリア・シャラポワ選手(2011年から18年)、LPGAゴルファーからサッカー選手の指導育成に携わっていた。
──望月選手の性格など、人間性はどのようなタイプなのでしょうか。
まず言えることは、彼はとにかく真面目な選手です。そして、僕たちコーチ陣が思っている以上に頑張れる選手です。例えばビープテストという心肺機能を測るテストがあるのですが、彼はもう本当にぶっ倒れるぐらいまでやります。
また、IMGという厳しい環境で育ってきていることもあり、プロの世界の厳しさや競争に対するハングリーさも持っています。一般的な16歳よりはるかに成熟している大人なのは間違いないでしょう。
実は彼は小学生のころは全国でベスト8が最高だったくらいで、錦織圭のように「超エリート」だったわけではありません。
彼がIMGに来たときもまだまだ発展途上の段階で、そんな状態の彼から出てきた言葉も当初は「いいテニスをすればいい」といったような、僕からすると「きれいごとを言っているな」と感じる部分もありました。