オイシックスが惚れ込んだ、車いすラグビーの魅力

2019/8/27
2018年7月オイシックス・ラ・大地株式会社CEOの高島宏平氏が、日本車いすラグビー連盟の理事長に就任した。なぜ数ある競技から車いすラグビーを選んだのか。連盟にどんな課題があり、どう改革しているのか。NewsPicks Studios CEOの佐々木紀彦が聞いた。

「一番強い団体はどこですか?」

佐々木:なぜ、高島さんが車いすラグビーの理事長に?
高島:車いすラグビーに携わるようになったきっかけは公益社団法人経済同友会 東京オリンピック・パラリンピック2020委員会の委員長になったことが大きいです。
団体を通してパラリンピックの各団体と企業のマッチングイベントをやっていたら「あれ? 高島さんのところは何もやらないの?」みたいな感じになりまして。
そりゃそうだと思い、「一番強い団体はどこですか?」と聞いて回ったんです。
高島宏平/オイシックス・ラ・大地 CEO、日本車いすラグビー連盟 理事長
1973年神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻修了後、マッキンゼーを経て、2000年6月にオイシックスを設立。2017年10月、「大地を守る会」と経営統合し、新会社社長に就任。2018年1月にはらでぃっしゅぼーや株式会社のグループ化を発表。
いくつか回って特別いいなと思ったのが車いすラグビーで。観客にキャーキャー言われてたんですよ。そんな障害者スポーツ、珍しいなと思って。
佐々木:それは競技に対して? それとも、ビジュアル?
高島:イケメンが多いんです。
ヒゲがあったり長髪だったり、ワイルドな風貌の、言ってしまえば「チャラい」選手も多くて(笑)。そういう選手が、ガンガンぶつかり合って、汗が飛び散るんですよ。
余談ですが、イケメンがいる理由がちゃんとあります。車いすラグビーの選手は、頸椎に損傷があるような、障害の度合いでいうとけっこう重い人が多いんです。
ではなぜそうなったか。
実はバイクやサーフィン、スケートボードでのけがが原因だという人がたくさんいらっしゃって。そもそもおしゃれに気を使っていた人の割合が大きいわけですね。
何より一番いいと思ったのは強いことですね。日本は今世界ランク3位で、昨年の世界選手権では優勝もしました。パラリンピックでもメダルの期待が持てる、魅力ある競技です。

意思決定スピードをあげる組織改革

佐々木:理事長として、どんな仕事を?
高島: 予算を立てて、各担当者がスピーディーに意思決定できるようにしました。
創業者であるご夫婦が想いを持って進めてこられたのもあって、「予算」という概念がなかったんです。お金を使う時につど許可を得る必要がありました。それだと非効率なので、是正したという形です。
また、広報にもテコ入れをしました。
「強い」という魅力と裏腹なところがあるのですが、強化にばかりお金が使われて知ってもらう努力ができていなかったので魅力を言語化して拡げることに力を割いています。
佐々木:具体的には?
高島:オフィシャルアンバサダー制度を作りました。
乙武洋匡さんや『伝え方が9割』の佐々木圭一さん、モデルの田中里奈さんなど、旧知の素敵な方々にアンバサダーになっていただいています。
実は今日、佐々木(紀彦)さんにもアンバサダーになっていただきたくて。書類持ってきてるんですよ。
佐々木:これは断れませんね(笑)。
高島:ありがとうございます。こんな感じで、応援してくれる人を増やしています。
さらに、これまで営業チームがなかったので正式に作りました。
佐々木:主な収入は何でしょうか?
高島:補助金とスポンサー収入です。
予算全体は、僕が入って倍にしようとしています。1億だったものを、2億にという目標ですね。
試合の入場料もいただければいいんですが、会場となっている体育館の使用料が入場料を1円でも取った途端に跳ね上がるんです。現状の収益ですと、取らない方がいいという判断です。
あとは今、READYFORの米良はるかさんにも入ってもらっているので、今後はクラウドファンディングもやっていきたいなと思っています。
佐々木:かなり力が入っていますね。オイシックス・ラ・大地ならではの貢献もありますか?
高島:リオ大会のとき、選手にレトルト食品を送る形で食事の支援をしたのですが、それがすごく喜ばれました。リオの食堂はあまりおいしくなかったそうで、うちが送った和風のおかゆばかりを食べていたと言ってくれています。
あとは、選手の栄養管理の面ですね。
車いすラグビーはすごくはげしいスポーツなんですけど、下半身は使わないじゃないですか。カロリー消費量はそんなになんです。
つまり、普通に食べると太ってしまう。アスリートの中でも特殊な栄養管理が必要なので、栄養士さんに入ってもらって、試行錯誤しています。

日本に差別はないが、「区別」がある

佐々木:パラリンピックの開催は、日本にとってどんな意義があると思いますか?
高島:意義があるようにしていかないといけないなと思います。
車いすラグビーの選手たちからよく聴くのは、日本の場合、差別はほとんどないけど明確な「区別」があると。車いすの人や障害者の人を、そういう人として扱ってしまう。これは海外に比べて遅れている点だと思います。
たとえばうちの連盟は、選手だけじゃなく事務局やボランティアといったスタッフ側の人にも、車いすの方がたくさんいらっしゃる。
そうなるともう、区別がなくなるんですよね。人柄とか仕事での頼りがいとか、そういうことしか気にならない。そういう社会にしていけたらと思いますね。
その一環で今年から、健常者の大会をはじめたんです。健常者が車いすに乗って戦うんです。将来的には、障害者と健常者が分け隔てなく出場し、戦う大会ができればと思っています。
佐々木:社員の意識も変わりましたか?
高島:変わったというか、忘れている感じですね。
パラスポーツは、きちんと座ってパチパチと拍手して「偉いね」「がんばってるね」とお行儀良く応援しないといけないイメージがあるかもしれませんが、車いすラグビーにそんな余裕はないです(笑)。
みんな立ち上がって大声出して、優勝したら泣いて、それがいいなと思いますね。スケートボードやサーフボードと同じで、競技に必要な道具として車いすがある。社員たちも、そういう認識です。
競技用の車いす、100万円もするんですよ。それがガッチャンガッチャンぶつかる。大迫力です。
佐々木:今日お話聞いて、観てみたくなりました。
高島:ぜひ。超高齢社会になるこれからの日本には、すっごく元気だけど歩行だけが不自由といった人も増えていきます。ぼくや佐々木さんだってそうなるかもしれない。
だから今のうちに区別をなくしておいた方がみんな生きやすくなると思うので、そのきっかけの一つになればと思います。
(編集・執筆:今井雄紀、写真:岡村大輔)