【池上高志】なぜ「人工知能の父」は、今も私たちを魅了するか

2019/8/21
コンピュータサイエンスの世界で、アラン・チューリングほど尊敬される数学者はいないだろう。
コンピュータの生みの親とされるのは、原子爆弾の開発にも寄与した天才数学者ジョン・フォン・ノイマンだ。しかし、それでも現代の数学者たちは、口々にチューリングの名を挙げるのだ。
チューリングといえば、映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』において、第二次世界大戦中にドイツ軍の暗号エニグマを解読したという話がよく知られている。
しかし本来、彼が今も称賛されるのは、「チューリングマシーン」という、現代のコンピュータの礎となる“コンセプト”を提示したからこそ、だ。
あのスマートフォンも、どんなスパコンも、理論的には、全てがチューリングマシーンと同じものだ。そう聞けば、少しはその凄さが伝わるだろうか。
では、チューリングはどんな大仕事をやってのけたのか。
人工生命(Alife)研究の第一人者・池上高志氏が、チューリングの「3つの論文」をひもとくことで、チューリングの偉業を解説する。

人間の脳は「数学」か?

池上 数学者チューリングの代表的な論文は、3本ある。
1つ目は1936年、彼が23歳のときに提出した「計算可能な数について」(On Computable Numbers, With an Application to the Entscheidungsproblem)だ。