【打倒アマゾン】英国発「リアル書店の救世主」が米へ進撃

2019/8/19

書棚の「1度の傾斜」にもこだわる

書店の本棚の「棚板の理想的な傾き」は何度か?
米大手書店チェーン「バーンズ・アンド・ノーブル」の再建に向けて、近々動きだすその男、ジェイムズ・ドーントは、このテーマについて何週間にもわたって激論を繰り広げたことがあるという。相手はイタリア人のショールームデザイナーだった。
ロンドンでも指折りのレストランを舞台にした何度かの会食は、おおむね打ち解けた雰囲気の中で行われた。ただし、この意見の対立は別だ。
デザイナーは、棚の底面を床から4度上向きにすべきだと主張した。
いや、違う。ドーントは反論した。正しい答えは3度だ。
確かに傾斜角が4度なら、本の背にほんの少しだけ余分に光が当たることになり、より目立ちやすくなる。目線の下にある棚の場合はとりわけそうだ。しかし、わずかな負荷がかかることにより、本は徐々にたわんでいってしまう。
「彼はディスプレイを優先しました。私は書籍のコンディションを優先したのです」
どれほど奇妙な議論をしていたかは十分わかっていますよ、と言いたげな笑いを浮かべて、ドーントはそう振り返った。
「でも、私の書店ですから。結局、角度は3度にしました」
「私の書店」とは、イギリス最大の書店チェーンである「ウォーターストーンズ」のことだ。
現在55歳のドーントが、ウォーターストーンズの経営を担うことになったのは2011年。当時、同社は倒産の瀬戸際にあった。
穏やかな口調にいたずらっぽい笑顔、鉄の意志を併せ持つドーントは、小さな点(書棚の角度)から大きな点(経営モデル)まで、あらゆる死角を見直して、死のスパイラルからウォーターストーンズを救い出した。
ジェイムズ・ドーント(Suzie Howell/The New York Times)

瀕死の書店の「奇跡の復活」