収入保険料約3.5兆円。明治から続くメガ企業は「多様性マネジメント」で生き抜く

2019/8/19
東京海上グループは創業から140年たちますが、企業活動の根幹は一貫して変わっていません。
いちばん大切にしているのは「社会と人の『いざ』というときを支える」こと。そして、それができる企業であり続けるために、時代に合わせて変化をし続けていくこと。
この理念は、設立発起人の一人である渋沢栄一氏の「世のため人のため」「論語と算盤」の考えとも合致します。
会社の規模がどれだけ大きくなっても、どの地域においても、企業のコアバリューとして「社会と人の『いざ』というときを支える」という理念を共有しています。
これらは「何のために働くのか」「何を目標とすべきか」という、社員が迷ったときの指標としても機能します。さらにこの理念を基礎として「To be a Good Company」というビジョンも生まれました。
つまり、私たちの企業活動は、創業からずっと「コアバリュー」思考で発展してきているんです。バリューを大切にするからこそ、時代とともに柔軟に変化を受け入れることができる。そうして140年間を走り抜いてきました。
実際に、病気や災害、事故などによりお客様がお困りの事態が発生したとします。
我々としては、全力でサポートをするため、具体的には保険金の支払いを適正かつ迅速に行わなければなりません。そのためにも、「グローバル展開」は重要になります。
保険金をお支払いする立場としては、国内だけで事業展開をするのでは、安定した経営基盤を持続的に維持することは難しくなっていきます。特に日本のように地震や台風といった自然災害が多い地域では、お客様はリスクと常に隣り合わせです。
どこかの国で災害が多発した際、災害被害の少ない国の収益でそれをカバーする。そうやって世界中に拠点を設け、さまざまなリスクを万遍なく引き受けることで、地理的にも事業的にもリスクが分散され、適正かつ迅速な保険金の支払いができる。そして私たちも持続可能な成長を遂げることができるのです。
また、異なるエリアでのビジネス展開においては、各マーケットの特色も違ってくるので、必要となる保険商品やサービスもそれぞれですし、事業をマネジメントするうえでの課題も異なります。
各地域に合わせたベストベネフィットを提供するためにも、世界各地に拠点を置き、その拠点を強くするための体制整備は必須と考えます。
私は30代の約10年間、ほぼ人事部領域を担当していたこともあり、人材育成や就労環境の整備に苦心してきました。
経営陣や労働組合、その他の関連組織と多くの議論を重ねるなかで、年齢やポジションに関係なく自由に仕事やキャリアパスが選べる社風の醸成や、個人が主体的に個性や能力を最大限発揮しながら、組織が一丸となって一つのゴールを目指すチーム・ビルディングの重要性に気づきました。そして、それらを実現するための制度や環境を整備してきました。
それらの経験を踏まえ、マネジメントで特に注視すべきは「多様性」だということに気づいたのです。
東京海上グループは創業時から海外展開をしてきましたが、昨今はより積極的なM&Aを推進している背景もあり、以前にも増して多様なスキルやキャリアを持つ人材が働く組織となってきました。
国籍、性別、年齢が違えば、当然ですが生まれ育ったバックグラウンドもカルチャーも異なります。その上でグループの理念を共有しながら、同じベクトルでビジネスを進めていくには、どうすればいいか。
まずはお互いのアイデンティティーを尊重することが絶対条件です。それを理解した上で、そこからは遠慮せず、とことん踏み込んで議論する。
日本人の多くに見られる「あうんの呼吸」は、グローバル企業では通用しません。思ったことやアイデアは、「積極的に発言する」「希望や考えはしっかり伝える」。
多くのM&Aを経て、グローバル規模で優秀な人材が多く入ってきましたから、議論を重ねることの重要性や、異なるバックグラウンドの人たちによるアイデアの化学反応の精度は上がってきています。
それらをさらにグローバル全体で共有することで、また新しいアイデアが生まれる。こうした一連の流れが、持続的な成長を加速させるカギにもなります。
今後もグローバルシナジーが生まれる環境の整備を、より積極的に推し進めていきます。
近年、特に注力しているのが、テクノロジーの活用です。「保険会社がなぜテクノロジー活用?」と思うかもしれません。
例えば、ドローンで災害規模を計測したり、人工衛星やAIの活用によって迅速に保険金支払いを実行するなど、保険分野は「テクノロジー活用」でお客様や社会に利便性をもたらすことができる領域は広いのです。
最近では、これまでは人が行っていた仕事、特に事務仕事などのバックオフィス業務をロボットに任せるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)技術も導入しています。ロボットやAIなど、テクノロジーで自動化できることは自動化し、効率化する。
一方で、保険業務はあくまで「ピープル・ビジネス」です。ロボットやAIではなく、「人でしかできない」業務の領域が非常に多い。
東京海上グループデジタル戦略の一部
例えばお客様が事故を起こしてしまった際には、ロボットのチャットではなく、人の声で対応しなければなりません。電話先の声から動揺しているお客様の心を読み取り、その上で真摯(しんし)に寄り添いながら丁寧に、落ち着かせながらも的確にサポートしていくことは、人にしかできないことなのです。
商品を設計する営業業務に関しても同じです。
まずはじっくりお客様とコミュニケーションをし、生命保険であれば、これからどのような人生を歩まれたいと考えているのか。損害保険であれば、どのようなビジネスの未来を描いているのか。コンピューターでただ打ち込むだけでは見えてこない、お客様の考えの奥底にあるニーズをくみ取り、その上で的確なサポートや具体的な商品を提案することは、先と同じくAIやロボットではまだできない領域です。
保険の仕事の根幹は、本音や心底レベルでのコミュニケーションが求められるビジネスなのです。
東日本大震災時のメンバーの働きも「ピープル・ビジネス」を体現していました。
東日本大震災後、下草刈りのボランティアに参加する社員たち
全国の従業員たちは自分の担当業務に関係なく、震災発生後すぐに現地入りしました。被害に遭われた方と直接会い、話を聞き、どのようなサポートを望まれているのか、私たちにできることは何か、迅速にヒアリングし、実行していきました。
そうした仕事は、どんなにテクノロジーが進化しようと人間に代替してできることとは思えません。
テクノロジーで仕事を効率化することを目的にはしても、「導入すること」だけが目的になってはいけない。
今手がけているビジネスの課題はどのようなものであり、それを解決するにはどうしたらよいのか。お客様のバリューをさらに高めるには、どのようなアクションをすればいいのか。その解としてテクノロジーが活用できれば使う。その意識を基盤にし、テクノロジーの導入を進めていきます。
繰り返しになりますが、「私たちは何のために仕事をしているか、どのような社会的意義を持つ企業なのか」という企業活動の根幹については、「社会と人の『いざ』というときを支える」ということに集約されます。
そこは140年間一貫して変わっておりませんし、これからも変えてはならないと思っています。
その根幹と、これまでに述べた4つのポイントを軸に、会社の体制もビジネスモデルも商品も、すべての領域において、今後も改革を続けていきます。
グローバル規模でも、たびたび「What is our business for」という言葉を意図的に取り上げ、改めてコアビジョンの共有と確認を徹底しています。
逆の言い方をすれば、このコアビジョンの部分さえ押さえていれば、あとは変革していけないものは何ひとつありません。自由にイノベートできる環境なんです。
シリコンバレーにもデジタル戦略の拠点「デジタルラボ」を設置。
そして、お客様も含めたあらゆるステークホルダーの方々を巻き込み、「多様性」をテーマに間口を広げて活動していきたい。私たちが次に取り組むべき課題や解決策なども、これまでにない視点からのアプローチが図れますし、それが新たなアイデアの創出につながるかもしれません。
当グループは、同じような考えを持つ企業様とは積極的にビジネスをご一緒させていただきたいと考えております。
また、私どもの理念や姿勢に共感する方は、ぜひとも仲間に加わっていただき、一緒になってチャレンジしてもらいたいと思っています。
新しいビジネスパートナーや人材を迎え入れることで、東京海上グループの多様化は一層深まり、より強い企業に成長していくのだと信じております。
(取材・編集:川口あい 構成:杉山忠義 撮影:森カズシゲ デザイン:ソートアウト)