時間削減のコツは、商談時間を「増やす」?営業の働き方討論

2019/8/26
 営業職は、労働時間がなかなか削減できない職種と言えるだろう。社外の顧客と、最前線でコミュニケーションを取り、突発的な業務や時間外労働が発生しやすい。

 さらに、常に明確な成果が求められるのも、特徴の1つ。労働時間を減らせと言われても、求められる成果は変わらない。さらに、「営業は個人戦」という風潮があり、知識や情報の属人化が起こりやすい環境とも言える。

 そこでNewsPicks Brand Designは、現場のリアルな声を知るために読者から参加者を募集。営業職の働き方について“本音で”語りあう「セールス・アップデート・ミーティング」を開催した。
 会場では、労働生産性から営業力の教育、情報の属人化まで、様々な課題が噴出。白熱した議論の一部をお届けする。
藤本:今日は営業職の働き方は本当に改善できるのか、皆さんに率直に議論していただく会です。正直な意見をどんどん出してくださいね。
 事前に書き出してもらった皆さんの悩みを見ると、「労働生産性」について、多くの人が課題を持っていそうですね。Gさんの会社では、どうですか?
G:私の会社では、限られた時間の中でどれだけ成果を出せるかが勝負。そもそも、19時になるとオフィスが閉まってしまうんです。なので、評価されたければ、時短で成果を出せるよう、生産性を上げるしかないですね。
A:正直私の会社では、労働生産性まで議論が及んでいません。水曜日は「No残業デー」ですが、「時短で成果を出すために具体的に何をすべきか」までは、誰も考えていないかも…。
 結局、「今月は山が高いから、残業が多くても仕方ないね」で終わってしまっています。
E:私の場合は、結果さえ出せれば評価されます。どれだけ時間をかけたかは評価にはあまり関係ないですね。むしろ、営業の究極の目的は、予算を達成すること。そもそも営業が生産性を追求する必要ってあるんですか?
藤本:そもそも営業は、生産性を追い求めるべきなのか。面白い議論ですね。営業職に生産性が必要だと思う人、意見はありませんか。
D:結果を出すことはもちろん大事。でも働き方改革が進む中、生産性はさらに重要になってくるんじゃないでしょうか。
 うちの会社は、もともとは根性論が根強い会社だったんですが、そんな会社でも、働き方改革の流れで「早く退社しなさい」と言われるようになっている。どうすれば少ない時間の中で仕事を達成できるか、私を含め自発的に考える社員が増えました。
B:私もやはり、営業職でも生産性は大事だと思いますね。特に若手社員が、「労働時間の削減」の指令を、真に受けすぎていると感じるんです。
 もっと成長できるのに自分で勝手にブレーキをかけたり、やるべき仕事が終わる前に退社してしまったり。労働時間が短くなっても、その分「成果が出ない」「個人の成長が遅い」となっては、本末転倒。
 そのために生産性は重要だし、時短で成果を出すために、生産性を可視化する必要もあると感じています。
藤本:営業の労働生産性について、コンサルタントの視点でアドバイスをすると、働き方改革の流れで、営業職も働く時間が短くなるのは間違いありません。限られた時間の中で効率よく成果を生み出すために必要なのは、実は「働き方改革」ではなく、「働き方バランス改革」。
「働き方バランス」とは、全体の仕事のうち、どの業務にどれだけ時間をかけるのか、というバランスのこと。時短で成果を出すためには、内勤時間を減らして、その分営業の売上に直結する商談時間を増やすことが、最も重要なんです。
 生産性向上に成功した営業チームに共通するのは、1日の労働時間のうち40%、600分働くとしたら240分を商談に充てていること。一方でパフォーマンスが悪いチームは、労働時間の半分以上を内勤に使い、約15%しか商談時間に割いていないんです。
「商談時間を増やすと内勤時間も増える」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。商談時間の短い営業マンは、その埋め合わせをするかのように、内勤を“間延びして”やっている場合が多いからです。
 まずは商談時間を増やし、残りの時間でいかに効率的に内勤を終えるかを考える。そうすることで、労働生産性は上がってくるはずです。
F:お客さんから「あなただから買いたい」と言われて、案件を取ってくる人っていますよね。でも、そういった「人間力」の部分って、言語化や引き継ぎがすごく難しいじゃないですか。
藤本:営業は顧客と良い関係を築くために、商品より先に自分自身の魅力を売り込みなさい、というのはよく言われている話です。このような経験や勘に基づくいわゆる「暗黙知」を、どのように言葉や数字で説明できる「形式知」に変えられるのか、という悩みですね。
 営業に人間力が必要なのであれば、人間力はどうやって人に引き継げるのか? Dさんの意見はどうですか?
D:確かに、営業スタイルや個人のキャラクターといった暗黙知を引き継ぐのは難しいと思います。ですが、「営業のノウハウやナレッジ」だったら、言語化して伝えられるし、それだけでもチームで同等レベルまでもっていけるんじゃないでしょうか。
 私もかつては、営業って結局、個人の経験やセンスが全てだと思っていました。ですが社内研修で、「営業とは何か」をじっくり教育されたことがあって。それが今、かなり仕事に役立っているんですよ。
E:私も、営業スタイルのような暗黙知までは、引き継ぐ必要はないと思います。営業のやり方が個人によって違うのは当たり前だし、だからこそチームで営業する価値が出てくる。
 ロジカルに商品の強みを説得するタイプもいれば、「飲みに行きましょうよ!」と取引先と仲良くなって受注しちゃう人もいますよね。
 同じような営業スタイルの人ばかりになるよりも、多様な人間力を持った幅広い営業チームを作る。そして取引先との相性も鑑みて、担当者を決めるのが効果的なんじゃないでしょうか。
藤本:このテーマも様々な意見が出ましたね。私はDさんの言う通り、個人の性格に関しては、変えるのも伝えるのも非常に難しいと思っています。ですが、営業力はどんどん高められるし、共有できます。
 ここで言う営業力とは、商材や市場、関連法律などの知っておくべき「知識」と、アポの獲得率を上げるコツといった「ノウハウ」、トーク力やアイコンタクトといった「技術」の3つを指しています。
 これらをチームで共有する有効な方法は、営業マニュアルを作ること。営業チームの9割が、実はマニュアルを持っていません。その理由は「アドリブが利かなくなるから」。
 でも営業スキルの基礎知識が身についていない人が、アドリブで成果は出せません。たとえるなら、将棋の定跡も知らないのに、将棋を指しているのと同じことです。
 さらにマニュアルがないということは、マネージャーによって教える内容が異なっているということ。上司によっては、部下に間違ったことを教えてしまうケースもあるでしょう。
 まずは情報を見える化し、その上で点在する情報を集約して共有する。営業マニュアルや資料・メールのテンプレートを作成し、チームで知恵を継承していけるようにしましょう。
藤本:営業職は、個人商売的な側面を指摘されがちな職種です。取引先情報がチーム内で共有されなかったり、案件の進捗もブラックボックスだったり。このテーマで意見がある人はいますか。
F業務の属人化、かなり深刻です。とにかく情報を共有しないカルチャーで、誰がどんな仕事をしているのかも把握されておらず、不安になります。
 私は社会人4年目で、上司のアドバイスが欲しい時も、どう伝えるのが良いのか分からないこともあって。案件の確度やフェーズを打ち込む情報共有のフォーマットがあって、その情報をもとに上司からアドバイスがもらえるような仕組みがあると、ありがたいんですが…。
B:私の会社の場合は、月度の部署会議で担当案件について共有する時間があります。ですが正直、人によってモチベーションの差があり、ルール上仕方なくやっている感じ。あまり機能していないのが現実ですね。
D:ちょうど数日前から私の会社では、SFA(営業支援システム)が導入されました。情報共有が進むのは良いことですが、内勤時間が増えるのではと心配する声も上がっています。
藤本:皆さん、だいぶ悩んでいますね。うまく情報共有できているという例はありますか?
E:私の会社では、取引先とのやりとりの履歴は、商談の議事録から電話内容の要約まで、システム上に全て残していますよ。その上で案件の受注タイミング、金額規模などのステータスを記載しています。
 チーム内で閲覧可能で、その情報をもとにマネージャーと部下間で、次に取るべきアクションを相談しています。
C:すごいなあ。ツールを導入しても、うまく浸透せずに失敗するという話もよく聞くのですが、どうやってチームに習慣づけたんですか?
E:最初は「訪問したのに議事録を入力していない」など、うまくいきませんでした。ですが、アクションの1日以内に登録することをルール化し、忘れている人には細かく指摘を続けることで、今では習慣になりました。
 初めの1ヵ月~3ヵ月はルールを徹底することに、とにかく注力しました。トップダウンで進めたからこそ、可能だったと思いますね。
藤本:情報の属人化、営業チームの大きな課題ですね。営業成績がなかなか伸びない人には、実は共通していることがあります。それは、「次の一手」を間違えていることなんです。
 次の一手とは、「そろそろ営業先の上司に会わせてもらおう」「この案件はコストダウンではなく提案変更で対応しよう」といった、ネクストアクションのことです。次の一手を正しく打てるかどうかが、明確に案件受注の成否を分ける。
 そのためには、チーム内で案件の進捗や顧客情報、ノウハウが共有できる仕組みが、非常に重要。「今どんな宿題を持っているのか」「取引先からどんなメールが来ているか」など、進捗状況をリアルタイムでマネージャーが把握できる環境を整える。そうすることで、部下が次の一手を打てるよう、適切なアドバイスができるんです。
 情報共有を徹底することで、「内勤時間」の効率化にも繋がります。チーム全員が情報を把握している状態、もしくは情報をすぐにキャッチできるフォーマットがあれば、特定の人しかできない仕事が減るため、効率よく作業を分担できますよね
 例えば、ある営業が商談で取ってきた案件でも、見積もりや汎用的なメール文面は事務担当の人でも作成できます。二重対応や対応漏れも防げて、結果的に営業の質を上げることにも繋がるんです。
 このような共有の文化を定着させるには労力と時間がかかるため、効率よく仕組みを作るためにツールを導入するのも有効な手段の1つですね。
 今日は、営業の働き方について、労働生産性、営業力の教育、情報の属人化の観点から、議論してきました。労働時間が短くなる傾向の中、皆さんが試行錯誤して営業の働き方を考えているのが、よく伝わってきました。
 今日の「セールス・アップデート・ミーティング」が、皆さんの営業チーム改革に役立つと幸いです。
(執筆・編集:金井明日香 写真:後藤渉 デザイン:九喜洋介)