【樋口龍】世界トップを狙う“PropTech”の旗手は今、なにを語るのか

2019/8/5
 マザーズ上場から1年、GA technologiesの勢いが止まらない。2019年10月期通期の売り上げは前期の8割増となる366億円を見込み、連結営業利益も前期の54%で急伸。
 さらに、不動産管理会社向け業務支援システムの「イタンジ」、家賃債務保証を手がける「リーガル賃貸保証」を相次いで買収し、ビジネス領域を賃貸分野まで拡大。
 上場時164人だった従業員数は、わずか1年で344人(2019年4月時点)と倍増し、不動産企業でありながらその半数近くをエンジニアが占める。
 「古い慣習に満ちた業界を変える」の宣言通り、不動産業界を席巻する同社。この1年の歩みを代表の樋口龍氏は、どう評価しているのか。成長の原動力とPropTech(不動産テック)の可能性を探った。
一気通貫モデルでシンプルな購入体験を実現
──2018年7月の上場以降も業績は絶好調です。何が成長のドライブとなっているのでしょうか?
樋口 経営する中で常に意識しているのはリスクをとって果敢に攻めることです。時流をしっかり捉えた“選択と集中”を意識しながらも、新規事業やM&A、人への投資など、挑戦することを絶え間なく続けてきました。
 上場からの1年間は、創業してから最もアクセルを踏んで挑戦した期間ではないかと思います。経営者として当たり前ですが、私自身もこの1年間はプライベートな付き合いは一切せず、事業だけにコミットしてきました。
 そのぐらい、この業界にとって今年・来年はグローバルでも勝負のタイミングです。攻めどころを間違えて後悔したくない、という気持ちがとにかく強いのです。
 思えば1年前は、当社が掲げる「不動産×テクノロジー」の領域は、呼び方すらも定まっていない状況でした。今ようやく、資産を意味するPropertyとTechnologyを合わせたPropTech(プロップテック、不動産テック)という呼称が世界で定着しつつあり、当社のビジネスも徐々にではありますが浸透してきました。
 事業の柱である「RENOSY(リノシ―)」は、中古マンションを必要とする人が、物件探しや比較検討、内覧の申し込み、契約、住宅ローンの審査と契約、購入後のリノベーションや管理まで、すべてのプロセスをワンストップで完結できる当社独自のサービスです。
 私は、ビジネスはAmazonと同じようにすべてが一気通貫になると思っています。一気通貫でないと顧客満足度を追求できないと考えるからです。
 従来、不動産の売買はとにかく面倒で、ポータルサイトや店頭で物件を探し、仲介会社で購入し、管理は管理会社に依頼するなど、プロセスごとに取引相手が変わる煩雑なものでした。
 私たちが目指すのは「不動産購入を1Clickで」が実現する世界。すべてのプロセスを自社提供し、RENOSYで一気通貫できるようにしています。忙しく働く若い世代を中心にご支持をいただき、会員数と成約数が大きく伸びてきました。
不透明な業界に挑むチャンスは今
──2018年には不動産業界の不祥事発覚も相次ぎましたが、逆風はありませんでしたか。
 悪いニュースで不動産業界が注目されたのは残念ですが、問題が顕在化することで業界の自浄を促し、健全化につながると考えています。
 不動産業界はもともとIT化が極端に遅れていることに加え、事業者と一般の人が持つ情報の非対称性が大きいという課題がありました。なぜならば、不動産は人生で何度も買うものではないので、購入者に知見が蓄積されないからです。
 その結果、不動産に近いとされる銀行・証券・保険などの業界と比べても、不動産業界は最もテクノロジー化から遅れてきました。しかし、テクノロジーで変わらない業界はありません。我々は、まさに今がイノベーションを起こすチャンスであるとポジティブに捉え、業界の課題解決に取り組んできました。
──上場1年目から積極的なM&Aによる拡大戦略を採っています。
 18年11月にBtoB(管理会社・仲介会社)向けの業務支援システムに強みを持つ「イタンジ」と家賃債務保証を手がける「リーガル賃貸保証」の2社を子会社化しました。
 これにより、多くの人が最初に不動産に触れる入口となる賃貸分野にも事業領域を拡大。借りる・住む・投資するといった不動産にかかわるすべての接点を押さえることができました。
 スマホで使えるスマートキーで入居希望者の内見の手間を減らす「セルフ内見型 新賃貸サービス」の開始を秋に予定、まだ進出していない富裕層向け売買や賃貸ビジネスも検討しています。不動産と隣接する、建築や保険、金融業界へもテクノロジーを駆使した事業展開を考えています。
「業界を変える」確信に近い手応え
──古い体質が残る不動産業界を変えるという問題意識を持って起業されました。業界に一石を投じることができたでしょうか。
 約43兆円の規模を持つ日本の不動産市場の中で、当社が見込む売り上げは360億円程度ですから、まだまだ理想にはほど遠い状況です。
 イタンジのシステムが国内賃貸管理戸数トップの大東建託さんに採用されたことで注目いただきましたが、現状は管理会社のシステムだけでも様々な規格が混在しており、それらを連携するとコストが膨らむという非効率が常態化しています。
 こうした状況を打破するには、当社が過半を超える圧倒的なシェアを獲得し、不動産業界のAmazonやマイクロソフトのようなスタンダードにならないと意味がない。
 それでも、アナログな古い業界を変えていけるという確信に近い手ごたえは感じています。
 周知のとおり、FinTechなど既存の業界にテクノロジーを掛け合わせて新しい価値を提供する「X-Tech」が海外から数年遅れで“輸入”され、日本でも様々な分野で台頭してきました。
 先ほどもお伝えしたように、不動産業界のPropTechはグローバルで用語が定着したのもここ数カ月のことで、まさに今が黎明期にあります。
 例えば、もし1990年に戻れるとしたら──マイクロソフトに先んじてインターネットビジネスを始めたい、と経営者の誰もが思うでしょう。
 今、当時と同じ大転換が世界中の不動産業界で起ころうとしているのです。
 不動産市場は世界のGDPの16%を占める巨大な産業ですが、そこに新しい価値が生まれ、規模が拡大しています。
 こんなまたとないタイミングに、当社がプレーヤーとしてマーケットに存在できていること自体が運命的なめぐりあわせであり、絶対につかまなければいけない大チャンスなのです。
──巨大産業である不動産ビジネスが、大きく転換しようとしているのですね。
 PropTechは、世界の有望スタートアップに巨額の出資をすることで知られるソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の主要な投資分野でもあります。
 オフィスシェア事業を手がけるユニコーン企業の米WeWork、建設スタートアップの米Katerra、不動産仲介の米Compassなどがすでに出資を受け、今、グローバル規模で最有望視されている業界。この大きな波を日本でも起こしたいのです。
時代の転換期に立ち会う醍醐味
──グローバルで必ず起こりうる業界の大変化に備え、組織も急拡大していますね。
 採用は最重要課題です。急激に拡大する組織に人の成長が追いつかないといった課題はありますが、情報共有とスピードでカバーしています。
 通常であれば経営メンバーしか持たないような情報も全社員にオープンにし、良いことだけでなく問題点や課題も含め、リアルタイムで共有。
 僕は経営者ですから、強みや課題も含めた会社に関するあらゆる情報を把握しています。だからこそ、当社は成長すると確信を持つことができている。社員にも同じように、自らが進んでいる方向に自信を持ち、当事者意識を持ってもらいたいと思っています。
 また、ネットとリアルの双方を重視しているので、エージェント(営業)やエンジニア、AIの専門家はもちろん、設計や現場監督、物件管理のプロまでがそろっており、職種のダイバーシティでは日本一でないかと自負しています。
 不動産にかかわるすべてのプロセスに関与し、データを蓄積しているので、どんなところからでもイノベーションが生まれる余地がある。
 未来の不動産業界を描く真っただ中にあり、ある意味カオスでもありますが、最前線でビジネスの在り方が大きく変わる転換期に立ち会えるわけですから、これ以上ないエキサイティングな環境であることは間違いありません。
千載一遇のチャンスを逃せば、もう後がない
──創業時から「世界のトップ企業を創る」というビジョンを掲げてきました。
 自分の中のひとつのタイムリミットは2013年の創業から10年。2023年までに国内では「イノベーションを起こした」と胸を張れる成果を上げ、世界への挑戦権を得たいと考えています。
 それまでの途中経過にある小さな成功には興味がないし、上場も通過点にすぎません。
 僕はかつて、プロサッカー選手を目指して18年間練習に明け暮れましたが、その夢は叶いませんでした。Jリーグチームの下部組織にいたころ、憧れのプロ選手が練習に力を入れず高級車に乗って豪遊しているのを何度も目にしました。その経験が今の僕の戒めになっています。
 せっかくプロになれたのに、なぜ遊んでいるのか。チームで活躍し、日本代表、そして世界を目指さないと意味がないじゃないか。心底残念に感じました。自分にチャンスが訪れたら、絶対に無駄にするようなことはしないと誓ったのです。
 サッカーでいえば、当社はようやくプロ選手として登録されたばかりの新人です。不動産業界の大転換期という千載一遇のチャンスに挑む切符は手に入れた。しかし、こんな大きなうねりは今を逃せば二度とやってこない。当社のチャレンジは、これからが本番なのです。
(取材・文:森田悦子 編集:樫本倫子 写真:的野弘路 デザイン:九喜洋介)