【銀行革新】フィンテックで作るインターネットの「次の世界」

2019/7/30
個人情報の無断使用に関するニュースが後を絶たない今、インターネットの世界では「プライバシーの保護」と「データの利活用」という相反するテーマの両立が焦点となっている。

その実現を目指すスタートアップが、金融インフラプラットフォームを運営するマネーツリーだ。同社は家計簿アプリ「Moneytree」が有名だが、「MT LINK」で個人のプライバシーを尊重した、金融サービスが台頭する世界の実現を目指している。

ブルームバーグのエンタープライズ・データ部門日本責任者や政府機関の渉外責任者等を歴任し、金融業界やスタートアップに幅広い人脈を持つCSO(最高営業責任者)の宮上大造氏は、マネーツリーのビジネスモデルと「プライバシー重視」の理念に大きな可能性を感じて、初めてスタートアップに身を投じた。

ネットのグローバルトレンドと、この先訪れる未来とは。お話を伺った。
プライバシーと利活用の両立という挑戦
──宮上さんが感じるネットサービスのグローバルトレンドを教えてください。
主に2つあると感じています。1つは「プライバシーの保護」、もう1つは「データの利活用」でしょう。
これまでのネットビジネスは、FacebookやGoogleなどに代表されるように、便利で中毒性の高いサービスを無料で提供する代わりに、ユーザーから集めた大量のデータを使ってマネタイズするモデルを採用しています。
しかし、このビジネスモデルは飽和点に達していると私はみています。
近年、個人情報の取り扱いや利活用を巡って、さまざまな問題(2018年に米国のあるサービスから5000万人以上の個人データが流出し、大統領選にも影響を及ぼした事件など)が発生しました。
2016年、EUでは「GDPR(General Data Protection Regulation)」という「一般データ保護規則」が制定。日本の「個人情報保護法」もこの流れを受けてより厳しくなるでしょう。
アメリカでもカリフォルニア州消費者プライバシー法が成立し、プライバシー重視の流れが強まっています。
それだけグローバルでは、プライバシーの保護は重要なキーワードで、個人情報、それも個人の金融データを扱う金融機関やフィンテック企業には無視できないテーマです。
もう一つ、「データの利活用」については、銀行と外部事業者が安全にデータ連携する「オープンAPI」が金融業界でも大きなトレンドになりました。
「自社で取得したデータは自社の中だけで使う」という従来のクローズドな考え方から、「共有できるデータはオープンにして有効活用し、新たな付加価値を創出しよう」とする考え方に変わり、その動きは加速しています。
しかし、プライバシーの保護とデータの利活用は、相反します。プライバシーを重視するほどデータの利活用は難しくなり、データを利活用するほどプライバシー侵害の懸念が大きくなる。
これまでは活用することが主軸で「プライバシー:利活用=1:9」の世界でしたが、プライバシー保護の流れは、これに対する反動とも言えます。どこでバランスを取ればいいのかが金融機関を含む事業者の大きな悩みとなっています。
「Data Centric Banking」という世界観
──金融業界が置かれている環境やフィンテックのスタートアップが増加する現況を、宮上さんはどう見ていますか。
これからの金融業界はオープンAPI で競争環境が激変するでしょう。
オープン化された世界で金融機関が競争優位性を持つために必要なのは、いち早くデータを集めて有用な分析をし、パーソナルサービスを作ってエンドユーザーとのエンゲージメントを高めることです。
今まで金融機関の重要なアセットは人と資本でしたが、これからはデータが中心になります。
この「Data Centric Banking」の世界では、既存の金融機関が戦う相手は今までの競争相手に加えて、その枠組みの外にいたテクノロジー企業。
金融機関にとって、テクノロジー企業は競合ですが、協業相手にもなり得ます。
金融機関がデータを活用して既存業務をより効率的にしたり、外部のテクノロジー企業と連携して全く新しい金融サービスを創出する。
そうした、競争と協業の同時成立が当たり前の世界になると思います。
──金融機関が「Data Centric Banking」を実現するためのパートナーとして、プライバシーと利活用が両立する「MT LINK」が選ばれている。
そうです。マネーツリーが運営する金融インフラプラットフォーム「MT LINK」の強みは、その2つを両立できるプラットフォームであること。
MT LINKは国内2700種類以上の銀行口座やクレジットカード、電子マネー、証券口座の取引明細を取得し、一元管理するためのプラットフォームです。
ユーザーは自分のお金の状況を1つのプラットフォームで把握でき、“同意”した事業者とのみデータを連携する仕組みになっています。
もちろんプライバシー保護の観点から、ユーザーの金融データを販売することはありません。
同意を得た場合のみ、事業者はデータを利活用できるので、プライバシーと利活用が両立する。この独自性が支持され、MT LINKは提供開始の2015年以降、メガバンクをはじめ50社以上との連携が実現しています。
もう一つ選ばれている理由として挙げられるのは、我々は銀行免許や証券免許を取得して自らサービスをしない、つまりフロントに立つ金融サービス事業者にはならず、黒子に徹すると断言していることです。
「テクノロジーパートナーです」「プラットフォーマーです」と言っていた会社が、ある日突然競合になるというシナリオはお客様にとって悪夢でしかありません。
だからフロントのサービスには一切手を出さず、データ領域に特化したプラットフォームに徹してお手伝いをしていく。この中立性も、幅広いお客様に受け入れていただいているポイントです。
データ利活用の需要を生むコンサルティングサービス
──先ほど話していただいた「Data Centric Banking」の世界は、すでに現実になりつつあるのでしょうか。
急速に顕在化してきています。
金融機関は、いち早くデータを徹底的に活用し各ユーザーに適したパーソナルなサービスを提供するという体制を実現しない限り生き残れないと思います。
ただ、データ利活用の意識は高く危機感もあるけれど、具体的なプランがない金融機関は少なくありません。
なぜなら、データ活用、それを下支えするテクノロジーに対する知見を持ち合わせていないからです。
その点、我々は金融機関とテクノロジー企業の両方とお付き合いがあるので、双方を組み合わせて新しいサービスを現実に落とし込むことができる。
そこで、危機感を持つお客様の課題や要望を聞き、漠然と思っていることを現実にする、あるいは「テクノロジーで新しい何かを生み出したい」という完全なゼロベースからクリエイティブなサービスを形にするために、コンサルティングサービスを始めました。
単にデータを提供するだけでなく、データの活用方法を考えるところから現実のサービスを生み出すところまで、一気通貫でお手伝いするという全く新しいサービスです。
これは「弊社のデータを利活用すれば革新的なサービスを作れる」という成功事例を積み上げて、データ需要そのものを創造していく側面もあります。
つまり、お客様の成功が弊社の成功につながり、Win-Winの関係性を構築できると考えているのです。
──宮上さんがマネーツリーに移籍してこれから本格的に立ち上げるビジネスであり、組織するチームですね。
そうです。「エンタープライズソリューションセールス」では、見たことも聞いたこともないアイデアを形にするというよりは、既存技術を統合することで新しいものを作っていく。
API という普遍的な技術が普及した今、さまざまなテクノロジーの組み合わせによる新しいビジネスモデルの構築には、無限といっていいほどの可能性があります。
──どんな人材を求めていますか。
このユニークかつ高度な取り組みをリードできる、創造性と能動性、分析力と論理力を兼ね備えた人材を求めています。ここで数年働くと、どの会社でも得られない経験を積めることは保証します。
また、マネーツリーは日本企業でありながら、24カ国から約80人が集まった多様性に富む組織です。これからグローバルにビジネスを拡大していくので、多様な環境で国内外の新しい市場を作りたい人には、とてもエキサイティングだと思いますよ。
データのコントロール権は個人が持つ
──インターネットの大きな潮流である「データのプライバシーと利活用の両立」が進むと、どんな世界が待っているでしょうか。
「個人がデータをコントロールできる世界がやってくる」と私は思いますし、そんな世界を創りたいと思っています。
今まで個人のデータは吸い上げられるだけでしたが、今後は個人がデータのオーナーシップをもち、誰と共有するかをコントロールできるようになる。
そもそも、吸い上げられたデータを勝手に使われること自体がおかしいと思うのです。
個人のデータリテラシーが向上すれば、個人にとって明確なベネフィットがあるサービスにのみ情報を提供するようになるため、事業者側はサービスの質を上げざるを得なくなります。
つまり、いかに魅力的なパーソナライズサービスを一人ひとりのエンドユーザーに提供できるかが、企業の競争力の分かれ目になるわけです。
今までのような「1toN」のビジネスでなく「1to1」のビジネスの世界になると、事業者と個人の取引関係も単発のものから、継続的ものに変わり、必然的に個人情報の価値の計測方法もLTV(ライフタイムバリュー)に移行していきます。
ベネフィットと情報提供の同意をフェアバリューで交換できる、正しい世界になると思います。
その結果、世の中全体のサービスの質も上がっていき、エンドユーザー全体、つまり社会全体に提供される価値も増大するわけです。
我々は、データは個人のものだと思っているので、個人にデータのコントロール権を与えることでサービスレベルを上げていきたい。
インターネットの理想の世界はそこにあると思っています。
世界は、価値観が変わる過渡期
──銀行のオープン化が進み、プライバシー重視の価値観が定着したら、世の中のサービスは良いものに淘汰されていくのでしょうね。
この世界がうまく到来すれば、ですけどね。プライバシーを気にしなかったら成り立ちませんから。
ただ、グローバルの大きなトレンドにプライバシーの重視があり、法律ができて意識が変わりつつあります。だから必ずプライバシーの重要性は見直されていきますが、それがどれくらいのスピードで変わっていくかはわかりません。
だからこそ、我々のコンサルティングサービスが必要で、個人のデータの価値やプライバシーの重要性について語っていく必要があると思っています。
これまでデータは一定量が集まって初めて価値を持つものでした。
だからマス広告で一気に認知を広げてユーザーを大量に獲得していましたし、情報が漏洩しても「500円のギフトカードでお詫びをする」だけで許されてきました。
それがパーソナルサービスに変わっていくと、LTVを考えて1人のエンゲージメントを高めるやり方に変わっていきます。すると、1人の情報の価値は500円でも1000円でもなくなっていく。
そもそも個人のデータの価値はそんなに低いものではありません。
──顕在化しつつある新しい世界の最先端で、新しい価値観と市場を作っていく。宮上さんのチームにジョインしたら、他では得られない経験を積めそうです。
学びがすごく多いはずなので、半年や1年でかなり成長できると思いますし、私はそれをお約束します。
これからオープンバンキング化で競争が激しくなるだけでなく、いろんな業界のいろんな企業が、自社のサービスとして金融の一部機能を持つようになります。
いわゆる金融サービスのアンバンドリング事例が増えていく。
すると金融機関だけでなく、スタートアップやテクノロジー企業へのコンサルティングをする機会も増えるでしょうし、そうなると今後のキャリアにも確実に役立つはずです。
いずれにしても、日本で金融インフラのプラットフォームに徹している会社は他にないと自負しているので、今年、来年で唯一無二の存在になりたいと思っています。
まずは日本で新しい世界観をつくり、そして世界市場へ。我々のエキサイティングな挑戦は始まったばかりです。興味がある方は、ぜひ私の話を聞きに来てくださいね。
(取材:木村剛士、文:田村朋美、写真:森カズシゲ、デザイン:田中貴美恵)