【教訓】「チャレンジ」の罠。エバーノートの失敗に学ぶ

2019/7/21
一世を風靡したメモアプリ
エバーノートのイアン・スモールCEOは、バツが悪そうな笑顔を浮かべて数足の靴下を差し出した。なかなかおしゃれだ。ふくらはぎは黒、かかとから先はカラフルなストライプで、つま先、かかと、口のゴムは鮮やかなスカイブルー。日本製の生地は編み目が詰まっていて弾力性があり、ポリウレタンが1%混じっている。ラベルには「あなたの足を包むスマートカバー」。彼らの仕事効率化アプリに通じるデザインの哲学を感じさせる。
スモールは靴下を小さな引き出しにしまった。ここカリフォルニア州レッドウッドシティのエバーノート本社では、エンジニアが主力のメモアプリの開発に取り組んでいる。
全盛期には、ソフトウエア工房をライフスタイル・ブランドに成長させるという野心的な計画の一貫として、「より大きな安心と効率性を満足させる特別な製品」を販売していた。
靴下、高級スキャナー、フランスの人気ブランドのコートエシエルとコラボしたバックパック。本社のロビーには「Noteworthy by Evernote」の看板を掲げた実店舗を構え、戦利品を求めるエバーノートの熱烈なファンでにぎわっていた。
とはいえそれも、スタートアップの感覚で言えば1世紀前くらいの話だ。
私が今年5月にスモールを訪ねたときは、ノベルティグッズがあふれていた棚は消えていた。ある壁には古びたトロフィーが並び、さらに奥の壁にはエバーノートの緑色を塗り重ねた下にうっすらと、オフィシャルショップの崇高な理想を描いた跡が見えた。
スモールは穏やかな口調で言った。「僕たちは歴史を大切にしている」
(Jason LeCras/The New York Times)
「早く、たくさん失敗しろ」