【西田亮介】競争力のない日本企業の「新リストラ」は悪手

2019/7/20
7月16日に放送された『The UPDATE』では「新リストラ時代をどう生きるか」と題して、ラッシュジャパン人事部責任者の安田雅彦氏、産業医の大室正志氏、東京工業大学准教授の西田亮介氏、弁護士の白石紘一氏の計4名をゲストに迎え、新リストラの是非について議論した。
視聴はこちら(タップで動画ルームに遷移します)。
番組内では、「新リストラ」を「業績が悪くなくても退職希望を募る」こと、そして「雇用価値の有無でリストラ判断」と定義し、経営不振のリストラ中心型から、人員最適化の先行実施型にシフトしているのが、大きな特徴とした。
最近では、みずほ(19000人)MUFG(10000人)東芝(7000人)、損保ジャパン(4000人)など、名だたる企業が削減計画を発表しており、削減予定人数は計6万人とされている。
番組の最後に、古坂大魔王が最も優れていた発言として選ぶ「King of Comment」は、西田氏の「他人がやる気がなくて、士気が下がるのはダメ!」に決定。
スタジオでの観覧者から「やる気のない社員により、他の社員の士気が下がるくらいなら、辞めてもらった方が結果的に生産性も上がるのでは」という意見が上がった。
それに対し、「やる気がない人がいたときに士気が下がるような人……その人、あまり役に立たない人ですよね」と一刀両断したコメントが選ばれた。
番組冒頭での「新リストラは正しいか、正しくないか」という問いに対し「NO」と答え、一貫してその姿勢を崩さなかった西田氏。その真意について、番組収録後、お話を伺った。
解雇の手段は従来と変わらない
「新リストラ」の現状について、西田氏はこう語る。
西田 前提として、法的に認められた解雇の手段は、従来のものと変わっていないはず。
つまり人をクビにするのではなく、新卒採用の抑制や退職勧奨、希望退職者の募集等、それらの組み合わせになるはずです。
番組内では、「十分な人件費を支払えないのであれば、企業ごと潰れてしまう方が健全」と主張した西田氏。
人員削減によりごまかすのではなく、社会的コストを負担していない企業は、破産する方が健全である、と述べた。
それに対して、白石氏の「それは企業が、自分が潰れるまで雇用を守らなければいけない、ということですか」という指摘もあったが、どう考えるか。
西田 価値の問題でもありますが、それでよいと思います。
なぜそこまでして、雇用を守らない企業を守っていく必要があるのでしょうか。
『整理解雇の要件を満たす場合には解雇可能』ということは、様々な客観的に検証可能な施策をとった後であれば、現行規制においても、まったく解雇できないというわけではありません。
メンバーシップ型とジョブ型の違い
新リストラの議論の上で、終身雇用型の日本企業とは対照的な「外資系の企業」についても、度々触れられた。
外資系の企業が強い現状において、そのビジネスのやり方を真似ないことは相当の覚悟が必要だ、という大室氏の指摘もある。
西田 そもそも、メンバーシップ型とジョブ型の違いがあります。
アメリカは、まさにジョブ型ですね。日本はメンバーシップ型で、採用の習慣から組織のあり方からして形態が違うので、解雇の手段だけ真似ても間違ってしまうでしょう。
ただ、正社員でも期限を切った採用を行ったり、年俸制や業績給を取り入れることは現在も可能です。
ただし、大企業の場合には就業規則の変更は、労働組合との合意がかなり難しい印象です。組合はこの手の変更に難色を示しがちです。
スタートアップなどが、新規に就業規則を整備する時に十分可能だと思います。
日本には競争力がないことを認めるべき
企業に「安泰」を求めて入社した人々にとって「新リストラ」はショッキングに捉えられるが、一方、企業の立場から考えれば、それもひとつの生存戦略であるとは考えられる。
また、人員最適化により、ビジネスをより大きく成長させていきたい、と前向きな部分もあるだろう。
しかし、西田氏は、番組内でも一貫して、「少子高齢化や社会保障はわかりやすいですが、様々な指標を踏まえると、日本の未来は相当暗い。」
「そもそも『人生100歳時代』と相性が悪い。人は年を経ると、必ず能力的に衰える時がくる。」
「そんな高齢者があふれる時代に、企業都合の解雇を認めると、どうなるか想像すべきだ。」と語る。
そして、それこそが「新リストラ」に反対するひとつの大きな理由でもある。
西田 加えて、総合的に見た時、我々個々人には競争力がないということを、早めに認めてしまう方がいい、ということですね。
たとえば、日本の学生のみならず、企業人も含めて、新興国や中国などから来ている留学生と比べると、スキルはいうに及ばず、まさに必死さやハングリーさすら、まるで違う。
それを嘆いたり、ハングリーになれといったところで、社会の状況が違うので、まったく響かないでしょう。
「気合いと根性」では戦えない
たとえば今、日本の大学院は、中国を始め各国の留学生が大半なわけです。
彼らはとても優秀です。中国語ができて、英語ができて、日本語ができる。
それがどういうことかというと、GDPで世界第1位から第3位までの国の言語がすべてできるということです。
そういう人たちと、総合的に見て英語もろくに喋れない我々は、本当に同じ基準で、同じ土俵で、『気合と根性』で世界で戦っていけるのか。戦えるわけがない。
アメリカは『アメリカン・ドリーム』を輸出することで、世界的な規模で選択と集中をやってきましたが、日本ではとても真似できない。
この点を早期に認めてしまったほうがよいでしょう。別のやり方が必要です。
昭和のもっと貧しくて、右肩上がりの時代においては、我々にもハングリー精神があった。
でも、社会が豊かになって、物質的にも生活的にもそれなりに充実してしまった。
そこに今から後戻りできるか、もう一回ハングリーになれるか、と言われても、普通に考えて無理です。
もちろん中国だって豊かになっていけばいくほど、ハングリー精神でなんとかするというわけにはいかなくなるでしょう。
が、しばらくは、国家の規模や国内格差でカバーされるところがある。従来のアメリカ・モデルと似ていますね。
日本独自の繁栄モデルという道
この時、相対的に見て、競争力のない我々の社会が、「新リストラ」だなんだと言って素朴にアメリカのやり方を真似ただけでは、ただ駆逐されて終わってしまう。
だから、日本企業における新リストラという方法は悪手だとしか思えません。
そうではなく、競争力がないと認めた上で、別の道を探した方がよいのではないでしょうか。
むろんぼくは、ビジネス・パーソンではないので、それがどのようなあり方かはわかりませんが、アメリカ・モデルでも、中国モデルでもない日本の繁栄モデルができればイノベーティブじゃないですか?
ビジネスパーソンの皆さんには是非、そんなあり方を探求していただきたいものです。
次回「Netflixはメディアを制するか」
全世界で1億人以上の利用者を抱えているネットフリックス。アメリカでは、メディア市場をネットフリックスが席巻しています。
一方、日本では、テレビやラジオなどの既存メディアのシェアが大きいといえます。
今後、ネットフリックスやアマゾンなどの有力企業がさまざまな形で競争を続け、エンターテインメント、メディア業界の勢力図は変わってくるのか?
7月23日(火)のThe UPDATEでは、鳩山総合研究所所長 鳩山玲人氏、テレビ東京演出・プロデューサー 工藤里紗氏、放送作家の鈴木おさむ氏、ONE MEDIA株式会社取締役 明石ガクト氏を招き、徹底的に議論します。
NewsPicksアカデミア会員の皆様は、下記より番組観覧にお申し込み頂けます。(先着40名)
番組観覧のお申し込みはこちらから。
<執筆:富田七、編集:木嵜綾奈、デザイン:斉藤我空>