【大前研一・保存版】今後「稼げるスキル」のすべてを語ろう

2019/7/8
大企業で45歳以上を対象にした早期退職の募集が増える中、日本人の給料の「未来」は──。
グローバルビジネスの「今」を切り取り、舌鋒鋭く追及してきた大前研一氏が、日本人の給料の行方と、今求められる「稼ぐ力」について語り尽くす。

27年間で7万円しか上がらない

──日本人の給料は、1997年の467万3000円をピークに下がり始め、2017年は432万2000円でした。1990年から数えると、上昇した平均給与はわずか7万円しか上がっておらず、他の先進国より上昇率が極めて低い。日本人の給料の現実について、どう捉えていますか?
大前 日本は共産主義社会のようになっていて、社長以下の社員は、耐え忍ぶのが当たり前のようになっています。
大前研一(おおまえ・けんいち)
早稲田大学卒業後、東京工業大学で修士号を、マサチューセッツ工科大学で博士号を取得。日立製作所、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ビジネス・ブレークスルー(BBT)代表取締役会長。『稼ぐ力をつける「リカレント教育」』など著書多数。BBTでは現在、「稼ぐ力を身につける リカレント スタートプログラム」を展開中。
アメリカのように上の給料を上げて下の給料を下げることがいいとは思いませんが、日本企業が世界化していくとき、社員に世界標準の給料を出せないと、いい人なんて絶対に捕まえられないですよ。
先日ソニーが AI人材の初任給を最高730万円払うという新聞記事が出ていましたが、私はこれを見て、あの国際企業であるソニーが外国人と日本人の給料を分けていたのだと知って、びっくりしましたね。
私はマッキンゼーで20何年間働いていましたが、そんなことをやったら、優秀な人間は誰も採れませんでしたよ。
もちろんマッキンゼーも各拠点により賃金が高いところ安いところがあり、入り口での給料価格は違いますが、ある一定のレベルになったら、その違いを縮め、この範囲にすると定めます。
そして、さらにレベルが上がるとまったく同一にする。こういうシステムを、世界50カ国ぐらいで、共同で作りました。
それから先は、収入に比例したバスケットカレンシー(通貨バスケット制:通貨を一定の割合で加重平均したものと自国通貨を連動させること)のように、通貨を売り上げに比例した基準に直し、「マッキンゼー・カレンシー」でもって、いくら払うと決めました。
我々は、給料はそれだけ公平にすることに決めたんです。だから、例えばパートナー(役員クラス)になると、世界中、同じ指標で「君は何点」と定め、それをローカルな通貨に直す。
ここまで公平を期さないと、いい人なんて絶対に採れません。
──それだけ社員の給料に、最大の配慮を払わないと、優秀な社員が流出してしまう、と。
例えば、ある国の社員の給料を低く抑えていたとします。そこで、彼らに訴訟されたら、一発で終わりです。
国際企業は、国際的人材、つまり、将来の幹部候補生については、給料を世界で全く同じシステムにすることが、もう何十年も前から常識です。
ところが、ソニーは、今どきAI人材に年収730万円ですよ。
(写真:MMassel/iStock)
今、AIに精通したいい人を採用しようとしたら、例えばインドの場合、最高峰のインド工科大学(IIT)の優秀な学生は新卒でも大体、年収1500万円は出さないといけない。
2、3年前、中国のファーウェイが、日本で優秀なエンジニアの学生に、「新卒初任給40万円」を払うとして話題になりましたが、あれだって、自国の学生には、80万円近く、払っているんですよ。

楽な年功序列に逃げる日本企業

──国際基準で優秀な人材を採りたいと思ったら、年功序列型の給料などあり得ない、ということですね。
あり得ません。
ただ、日本の場合は、社長さん自身が、割に低い値段で働いています。なぜかって、1億円の年俸以上になると、表に出るじゃないですか。これが嫌なんでしょうね。
この前、報道でそのトップ10が出ていましたが、そのうち5人はソフトバンクグループでした。なんだ、これはという感じなんですが(笑)。
(日本の一般的な社長は)あそこに自分の名前が出ると、恥ずかしいんですね。
でも、今のままだと、こういうことが起こります。
例えば、日本企業がアメリカの拠点でいい人を採ろうとする。すると、十中八九、日本本社の社長より給料が高い。
でも、そうしないといい人が採れないので、現地のヘッドハンターの言う通りにして、採用する。すると、(本社社長は)心の中で、その人を恨むんです。自分の給料の倍近く取っている人がいる、という事実をね。
それで、私が今から事例に出すようなことが起きるんです。
その企業は、12月が決算期でした。だから、クリスマス頃が一番忙しい。ところが、その時、アメリカ法人の社長が家族そろって2週間バケーションに行った、と。それで、その社長はクビになったんですよ。
もう、何考えているのと。
「俺の倍、給料を貰っておきながら、クリスマスにいなくなった。決算を何だと思っているんだ!」なんて言ったって、カルチャー的に無理ですよ。
こういうことが日本企業と国際企業のズレであり、こういう日本企業はそのアメリカ法人の社長クラスのいい人を採るのは無理だ、ということです。こういう話は、枚挙に暇がないんだ。
例えば、日本の社長は、「今、景気悪いから、みんな、我慢しろ」と、紙なんか裏まで使って、鉛筆1本にいたるまで倹約しろというのが、いつもの癖ですよね。
それで、アメリカなんかに行っても、そういう話をするじゃない? 君たち、耐え忍んでくれと。そうすると、今の時代だと、次の日、誰もこないよ(笑)。
嘘でもいいから、トランプ(米大統領)ぐらい、ハッタリきかせてやれよ、と。
(写真:AP/アフロ)
──優秀な人材はワクワクさせないと定着しない、ということですね。
ところが、日本の社長っていうのは、給料こそ大したことはありませんが、高いところで飲み食いしたら会社にチャージ、ゴルフやっても、会社にチャージでしょう? 運転手もいるし。そういうお金も入れたら、本当は(手取りは)高いんでしょうね。
一方、アメリカやヨーロッパは、経費は給料の一部として、まず、大枠のグロスを定義します。そして、その中で、例えば運転手にいくら使いたいとか、飲み食いにいくら使いたいと決める。
こういうことは、自分でやれと、言いたいですね。
──日本型雇用の特徴は、年功序列に加え、終身雇用です。それについて経団連の中西宏明会長とトヨタ自動車の豊田章男社長は、維持は難しいといった発言をされています。日本を代表する企業の社長がこうした発言をされるといったことから、日本人の給料も年功序列色が年々薄まっていくと読み取れませんか?
個人別に、能力に応じた給料が払われるのは、本来、当たり前の話なのですが、日本の問題は、人事評価に時間を使わないことです。
人事ファイル(各人の実績や、出来ること、評価などが書かれたシステム)にしたってそう。
ある会社の社長が僕に、「うちは人事ファイルを持っています」と言うから、見せてくださいと言ったら、ほとんど「良くやった」とか3行ぐらいしか書いていないのよ。これじゃあ、評価にならないじゃない(笑)。
──それは本当にその通りですね。
人事評価っていうのは、年に2回ぐらい、それぞれの人と向き合って、「君、前回の面談では、こういうことをやると言ったと、それの成果が出ていないじゃない」といったような対話をした上で、次の給料を決めていくものでしょう?