[北京 2日 ロイター] - 中国政府は2日、香港の「逃亡犯条例」改正案に抗議する集団の一部が暴徒化して立法会(議会)に突入したことを強く非難した。そのため今後、香港に対する中国政府の締め付けが強まるとの観測が広がりつつある。警察の取り締まり姿勢がより強硬になったり、香港の本土への統合加速、林鄭月娥行政長官の更迭といった事態が予想されている。

今回の事件について中国政府は、英国が1997年に香港を中国に返還した際に導入された「一国二制度」に対する「あからさまな挑戦」だと断言。外務省の香港出先機関「香港連絡弁公室」は、こうした暴力行為への「憤慨と強烈な非難を表明する」と述べた。

香港当局が犯罪者を中国本土に送ることを可能にする逃亡犯条例改正を巡って、ここ数週間で香港の数百万人に上る市民が抗議のために街頭に繰り出した。背景には、習近平国家主席が率いる中国指導部によって香港の自由が奪われ続けているという市民の怒りがある。

一方国営英字紙チャイナ・デーリーは2日付の論説で、香港にとって最善の道は本土との経済統合を深化させることだと主張。香港が中国の巨大経済圏構想である「一帯一路」や、「広東・香港・マカオ大湾区」開発計画を自らの発展に一段と組み込むことが、持続的な経済成長維持につながるとの見方を示した。

<首筋が寒い行政長官>

香港浸会大学準教授でかつて立法会の民主派議員だったケネス・カーロク・チャン氏は、中国による香港への圧迫がさらに進むと予想。「いわゆる『法と秩序』の回復に向け、警察力に強く依存するにようなるので、抗議運動をする人々への攻撃性という点で、警察はさらに強化される」と懸念する。

これに対して香港教育大学のマシュー・ウォン准教授は、中国政府は抗議運動を自然に下火にさせる方法を取る公算が大きいと話す。ウォン氏は「雨傘運動がそうだったように、抗議運動はずっと活発であり続けることはできない。特に警察が鎮圧できる態勢にある場合はなおさらだ」と説明し、選挙制度の民主化を求めて2014年に起きた雨傘運動も79日続いた後で、警察によってデモ隊のバリケードが強制排除された経緯に言及した。

またウォン氏は林鄭氏について、中国政府が彼女の顔を立ててしばらく留任するのを認めたとしても、結局行政長官の座を保つことはできないと指摘した。「(逃亡犯条例改正の)取り組みが林鄭氏の考えか、中国政府の発想かにかかわらず、混乱を招いたことが致命的だ」という。

ある北京駐在の西側外交官は、これまでの一連の事態において習氏自身が一切表に出ず、香港の指導者への公的な支持を打ち出していないことに大きな意味があると打ち明けた。

<情報統制>

中国は香港における混乱には外国政府、とりわけ米国および英国に責任があると糾弾した。中国政府高官の1人はロイターに「いくつかの西側諸国がデモ隊をたきつけている。それは明白だ」と強調した。

本土のソーシャルメディアでは、国営報道機関のサイトのコメント欄で、事件を非難し政府に強硬な対応を求めるユーザーの書き込みが殺到している。ミニブログの微博には「戒厳令を布告しろ」「鎮圧のために戦車を派遣しろ」といった過激な投稿も見られた。

ただ中国国営の報道機関が香港の状況について、包み隠さず伝えているわけではなく、ニュース映像は、厳重な検閲を受ける本土のネット上ではブロックされている。

北京の街頭で取材に応じた何人かは、香港の事態に関するニュースを見たことがないと口をそろえた。26歳の女性は「香港のデモなど見たこともないし、聞いたこともない。なぜなら普段われわれは微博を見ているので、話題のトピックとして取り上げられないなら、目にしないでしょう。ごめんさない」と無関心な様子だった。

(Cate Cadell、Ben Blanchard記者)