[ニューヨーク/サンフランシスコ 28日 ロイター] - 米フェイスブック<FB.O>は先に導入計画を発表した暗号資産(仮想通貨)「リブラ」について、1年以内に世界で正式通貨として認知されるようになると期待している。しかし各国の規制当局はリブラに対して、かつてない厳しい態度で臨む見通しだ。

ロイターはこの10日間に金融規制や金融技術、決済、仮想通貨など各分野の専門家十数人に取材したが、当局のソフトな対応を予想する声はほとんど聞かれなかった。

リブラ導入計画は発表直後に、フェイスブックの巨大化やプライバシー保護の甘さを懸念する米議員や各国規制当局から反発を浴びた。

20カ国・地域の銀行監督当局で構成する金融安定理事会(FSB)のクォールズ議長は先に、暗号資産の小売り販売決済における広範な利用には規制当局による世界規模の監視が不可欠との認識を示した。

反トラスト推進団体「オープン・マーケッツ・インスティテュート」のエグゼクティブディレクター、バリー・リン氏は「規制の観点からすれば全くの厄災だ。(フェイスブックは)世界中の規制当局から集中砲火を浴びている企業であり、事態は悪化するだけだ」と述べた。

リブラの構想には顧客の預金受け入れや国債への投資、準備における従来通貨の保有、国境をまたぐサービスの提供、新通貨の取引などが含まれ、世界中の中央銀行や金融規制当局、違法取り締まり当局と関わる必要がある。

フェイスブックの子会社カリブラの広報担当者によると、同社は米国で金融取引の事業免許を申請し、米財務省の金融犯罪取り締まりネットワーク(FinCEN)に登録した。カリブラはフェイスブックがリブラの取引を扱うために設立した子会社。

事情に詳しい関係者によると、カリブラはニューヨーク州金融サービス局から同州で仮想通貨事業を行う免許も申請した。英金融行動監視局(FCA)、イングランド銀行(英中銀)、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)もフェイスブックから接触があったことを明らかにした。

フェイスブックはジュネーブに主要な提携先と協力して新通貨を管理して準備を保有する組織も作った。

フェイスブックは2020年上半期に制度全体を立ち上げ、いずれはローンなど幅広い金融サービスを提供する計画だ。

ベンチャーキャピタル会社アンセミスのショーン・パーク最高投資責任者(CIO)は「フェイスブックがどこででもフリーパスを手に入れることはない。同社は世界的な業務展開を目指しており、世界中のさまざまな規制当局から、文字通り数百、あるいは数千単位の事業免許を手に入れる必要があるだろう」と述べた。

中銀や市場監視当局、消費者保護当局、資金洗浄や脱税などを防止する機関に加えて、決済ネットワークを構築すれば国際決済銀行(BIS)などが設けた「金融市場インフラのための原則」も順守しなければならない。また、個人情報保護や反トラスト当局への対応も必要だが、フェイスブックは既にこうした分野で当局と対立を繰り広げている。

米商品先物取引委員会(CFTC)の元幹部でコンサルタント会社を経営するジェフ・バンドマン氏は「新たな規制当局(と対峙する)という観点だけでみても、状況はまったく変わる」と話した。

24億人のユーザーを抱えるフェイスブックは金融サービスへの進出で得られるかもしれない見返りを考えて、あえて困難に挑もうとしているようだ。

しかし利益が上がり始めるまでに膨大なコストを負担することになるかもしれない。社内に法令順守の枠組みを整え、違法取引を監視するスタッフを置く必要があるだろう。例えば送金サービス大手ウエスタン・ユニオン<WU.N>の広報担当者によると、同社が法令順守のために投じた費用はこの5年間で10億ドルに上るという。

(Anna Irrera記者、Katie Paul記者)