【藤原和博】幸せへの道は、人との絆を結ぶためにお金を使うこと

2019/7/12
 NewsPicks Brand Designから新媒体「NewsPicks Brand Magazine」が7月1日に誕生した。Vol.1のテーマは「新時代のお金の育て方」。投資ビギナーの若手ビジネスパーソンに向け、お金の不安から自由になる方法論を様々な角度から集めた一冊だ。
 お金はあればあるほどうれしいけれど、得られるお金には限りがある。限られたお金の中で、満足を最大化するにはどうすればいいのか。教育改革実践家の藤原和博氏が語る「お金と幸せの関係」とは? 一部をここに掲載します。

お金だけでは将来のリスクに備えられない

──今、老いも若きもお金の不安を抱えています。将来への不安や年金への不信感から貯蓄に走り過ぎたり、逆に過剰にリスク投資をあおるような風潮もみられます。
藤原 将来への不安から貯蓄に走ってしまう気持ちはよく理解できます。ただ、未来のリスクに対してお金だけで備えようとしても無理です。
 いつかお金は足りなくなるし、お金だけですべての問題を解決できるわけではありません。
 ひたすらお金をストックするのではなく、「一生稼げるスキル」を築いたり、助け合える人間関係やコミュニティをつくることを重視するほうが、今も未来も幸せになれるのではないでしょうか。
 たとえば東日本大震災では、お金がある人は早く生活を再建できたでしょうが、それ以上に互いを支え合う人間関係やコミュニティが大切であることを学びました。災害に限らず、困ったとき、問題を抱えたときに頼りになるのは人と人との絆です。
藤原和博(ふじはら・かずひろ)/教育改革実践家、元リクルート社フェロー
1955年、東京生まれ。東京大学経済学部を卒業後、リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、93年よりヨーロッパ駐在、96年同社フェローに。 2003年、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校の校長に就任。08年~11年、橋下大阪府知事特別顧問。16年春から奈良市立一条高校校長として2年間勤務後、東京に戻る。著書は81冊145万部、講演は累計1400回超の人気講師。
 お金は使えばなくなりますが、一生続く絆というものは、ときにお金以上に頼りになるセーフティネットになることもあるのです。
 そもそも、将来のリスクに備えるお金を準備するプロセスで、今の幸せを犠牲にしたら意味がありません。
──お金を貯めるだけでは、幸せにはなれない?
 その通りです。しかし、だからといって、好き放題お金を使えばいいという話ではありません。
 お金は、どれだけ消費してもなくならない幸せを得るための投資として使うべきです。言い換えれば、ある程度の幸せはお金で買えるので、それを意識したお金の使い方を考えてほしいということです。

幸せへの道は、人との絆を結ぶためにお金を使うこと

──お金で幸せを買えますか?
 大きな幸せは買えません。オリンピックに出るとか、社長になるとか、愛する人と添い遂げるといった人生の目標を叶えるようなことは、環境や努力などお金以外の要素が大きい。日々感じる小さな幸せは心がけ次第。
 でも、「中くらいの幸せ」なら、お金を使って手に入れることは可能だと考えています。
 そもそも、豊かな日本に生まれたというだけである程度幸せなはずなのですが、そう実感できない人が多くいます。かつての日本や、現在の新興国のように、経済がグングン成長し豊かになるプロセスでは多くの人が幸せを実感できます。
 しかし、今は必要なモノはだいたい身近にあるし、テクノロジーが進んで生活はどんどん便利になっています。他に何を買えば幸せになれるだろうか、と考えたとき、その答えがなかなか思いつかないという人も多いのではないでしょうか?
 最新型のスマホや憧れのブランドファッションは一時的な欲望を満たしてくれても、その幸福感は長くは続かず、やがて陳腐化するのです。
 おそらく私たちは、消費者としてこれ以上幸せになることはできない。欲しいモノを手に入れても、その満足感はすぐに新しいモノへの欲望という不満につながってしまうからです。
──何を買えば、幸せになれますか?
 お金を払った後も幸福感が長く継続するお金の使い方が重要で、そのためには知恵と技術が必要です。私は、人との絆を結ぶためにお金を使うことが一番「中くらいの幸せ」につながると考えています。
 人間は、ひとりでは幸せな人生を送ることはできません。自分の居場所を見つけ、一緒にいて心地よいと感じる仲間がいてこその幸せです。
 もちろん、家が自分の居場所で、家族と過ごして心地よいならそれはかけがえのない幸せですが、こうした居場所はできれば複数あったほうがいい。
 思いを共有したり、共に成長を目指す仲間がいる居心地のよいコミュニティをいくつも持っていることで、人が感じる幸福感は継続するのです。
このあとに続くページでは、「人間関係」「物語」「時間」の3つの観点から、お金と幸せの関係について紐解いている。

「稼ぐ」「使う」「貯める」「育てる」といったお金が持つ様々な側面に向き合い、現役世代が今も将来も豊かな人生を送るためのヒントを、さまざまな角度から集めた「NewsPicks Brand Magazine Vol.1」。ぜひ、書店などで手に取ってご覧いただきたい。
(編集:奈良岡崇子 執筆:森田悦子 写真:北山宏一 デザイン:國弘朋佳)