【山田敏夫】100%のパフォーマンスを発揮するために「70点」でいる理由

2019/7/5
世の中で継続的に成果を出し続けるビジネスパーソンは、どのようなマインドセットを持って日々を過ごしているのか。ハイパフォーマンスを実現するカギは、自分自身が「中庸」であり続けること、つまり「ニュートラル・ゾーン」な状態を保つことだ。

国内生産にこだわるアパレルブランド「ファクトリエ」を立ち上げ、日本各地の工場を東奔西走する、ライフスタイルアクセント株式会社の山田敏夫CEOに、よりよく働き続けるための「ニュートラル・ゾーン」をどのように生み出すのかをたずねた。

ビジネスは「語れるもの」しかやらない

メイド・イン・ジャパンの高品質な商品を提供する、アパレルブランド「ファクトリエ」
思わず誰かに語りたくなるようなストーリーを持った商品を、ファクトリエと直接提携した国内工場で生産。
利益重視の大量生産を避け、職人の技術によって作られた商品だけがユーザーに届けられる。加えて、デザインにも一切の妥協はない。
「僕らが一番大切にしているミッションは、『語れるもので、日々を豊かに』というもの。これは工場もお客様も、『本当の豊かさ』を持って欲しいという思いがある。
例えば、海外に発注すれば、低コストで日本とある程度同じくらいの品質で作れるのが現状。だからこそ、本来高い技術力を持っている日本の工場には、創意工夫を持ってものづくりに臨んで欲しい、と考えています。
ただ、創造的であるには“考える”時間を持つことが重要ですよね。その時間を『ファクトリエ』が直結することで提供する。
ものづくりの過程で楽しさが生まれれば、工夫につながり、良い商品にもつながっていく。これが『本当の豊かさ』だと思うんです」(山田氏)
ゆえに、職人が考え抜くことで生まれた「ファクトリエ」のアイテムには、一つひとつに語るべきストーリーがある。それぞれの商品に宿る個性が、思わず相手に伝えたくなるような物語を生んでいるのだ。
そして、従来のアパレル業界という枠組みと異なるアプローチも「ファクトリエ」のさらなる進展を予感させる。
「『一体何業なんですか?』と、よく聞かれるんです。業界的な分類ではアパレルなのですが、実際はもっと多角的ですね。
なぜなら、『語れるもの』というミッションをクリアできていれば、アパレルでなくてもいいと考えているからです。
例えば、今年の春には福岡産の『赤紫蘇』を使い、完全無添加のシャンプーとトリートメントを作りました。
協力してくれた工場は、合成着色料・合成香料・合成保存料を使用しないなど、徹底的に「オーガニック」にこだわっている。
『安心して使って欲しい』という、彼らの強い思いがあったからこそ、実現できたんです。結果、わずか半日で完売という結果を出せました。
何か語れるもので、人の生活が豊かになってほしい。『ファクトリエ』というブランドは、その積み重ねでしかない。もしかすると、将来はジュースを作るようなこともあるかもしれませんね(笑)」(山田氏)

「情緒的な価値」を追え

「語れるもの」、つまり商品に宿るストーリーは、時にブランド力を高めるための一要素として捉えられることがある。
だが、山田氏は“付け焼き刃”として「機能的な価値」を与えるのではなく、本質である「情緒的な価値」を与えることが必要だと説く。
「例えば、温泉だったら、温度や泉質によって価値判断するのではなく、リラックスする時間や、いやしを求めますよね。それが情緒的な価値です。
情緒的な価値を失うと、本質的ではない視点に陥って、どのようにして価値を与えるかという議論に終始しがち。そうすると、“HOW”に踊らされ続けるようになる。
そして、短期指標的に“HOW”を追いかけ続けると、行き着く先は平行線で、他社と大きな差別化を生むことができなくなる。
以前、利益を追求しすぎたがゆえに、リターゲティングなどの広告を出していた時期があります。
しかし、みなが導入しているからといって、“HOW”を追求しても意味がなかった。
『情緒的価値』を生み出すこと。つまり、我々のミッションに改めて立ち返ることが重要と考え、一連の広告施策をすべてストップしました。
結果として、リターゲティング広告でのマーケティングをしていた時期より利益が上がりました」(山田氏)
これまでの施策をゼロベースにする。周囲と同じことをしない。「勇気」を持った撤退が、「ファクトリエ」本来の価値をさらに高めることになったのだ。

「動的瞑想」によって最適なジャッジができる

時を同じくして、勇気を持って止めることを自分自身でも体現し始めた。
身体のコンディションを整えるために、“スタートアップ企業の経営者あるある”という徹夜や、暴飲暴食を止めたのだ。
がむしゃらに情報を得るために、多くの人と会っていたが、それを「まるで、ランニングマシンの上に乗って、ひたすら走っているようだった」と形容した山田氏の転機はどこにあったのか。
「やはり、自分自身がファクトリエを体現している人間にならなければいけない、という強い思いがありました。
その上で、常に最適な判断ができるように、『ニュートラル』な状況を作り出すことを、心がけるようになったんです。
その方法として、僕が有効だと考えているのが『静的瞑想』『動的瞑想』です。
前者の静的瞑想は、座禅などによる、その名の通り静止した状態で行う瞑想方法ですが、個人的には雑念が入ってしまうため意外と難しい。
一方で、後者の動的瞑想は『同じことを、同じリズムでやり続ける』ことによって瞑想状態に入る。
僕の場合は、いつも長い距離を歩くので、歩くことに集中し、動的瞑想状態を保つように心がけています」(山田氏)
動的瞑想によって山田氏が目指すのは、「常に自分を『70点』の状態に維持すること」という。「70点」の自分をキープすることで、自分自身を冷静に俯瞰し、観察し続けられる。
(Photo:dwph/iStock)
ビジネスシーンでは、常に100%のハイパフォーマンスが求められる。トラブルなど、有事が発生した際には120%まで上げなければ対処できないこともある。
しかし、常にその状態が継続すると、身体的・精神的負担が増大し、結果的にパフォーマンスを大きく下げてしまう可能性も否めない。
ゆえに「100%や120%のパフォーマンスの状態が続いていれば、その後は思いっきり弛緩して70点の状態に戻します」。
このような考え方に至ったのは、3人のメンターによる影響が大きい。彼らはみな、自分の役割に対して、他人の意見に惑わされることなく、勇気を持って、行動してきたという共通点があるそうだ。
「まず、1999年に千日回峰行を達成した大阿闍梨の塩沼亮潤さん。2人目は小児外科医の吉岡秀人先生。発展途上国で無償の医療活動を続けられていた方です。
最後は、ファッション業界の大先輩である『TAKEO KIKUCHI』のデザイナー、菊池武夫さん
彼らに共通しているのは、とにかく歩くこと。菊池さんは1日に約20km。塩沼さんは1日約50kmを1000日間にわたって継続しました。
彼らは歩くことで、常に自分を一定の状態に保っている。
つまり、共通して動的瞑想状態を保っているんです。そして、自分の役割に対する、揺るぎない信念と勇気を持っている」(山田氏)

「70点」を保つには、食事・運動・睡眠が基礎となる

一定の状態、つまり「70点」を保ち続けるために必要と考えているのが、基礎的な食事や運動、そして睡眠だ。特に、睡眠にはこだわりを持っている。
カフェインは18時以降摂取しない。カフェインレスの緑茶やハーブティーを飲み、バスタイムには、発汗作用のある「エプソムソルト」という硫酸マグネシウムを入れてリラックスする。
多忙な中で、常に7時間以上の睡眠時間を確保し、就寝前にはスマホは避けて読書。23時頃には必ず入眠する。
そうして一定のリズムを保つ生活を、数年続けている。そんな睡眠にこだわる山田氏に使用してもらったのが、西川のコンディショニングマットレス[エアー]だ。
「マットに弾力がありますよね。ちょっとだけ沈むことで、身体にとてもフィットしている感覚を得られました。
起床時はとても眠いのですが、もっと寝ていたいと思える寝心地の良さというか(笑)。眠いということを、とてもポジティブな意味で捉えています。
身体が本当に休まっているんだろうなと思いますし、疲労感も取れている実感がありますね。
だからこれまで他社メーカーのマットレスを使っていたのですが、親に譲ってしまいました(笑)。それくらい身体にフィットしていたと思います」(山田氏)
(執筆:岡本尚之 編集:海達亮弥 撮影:玉村敬太 デザイン:黒田早希)