行動は“ググる”から“タグる”へ。SNS戦略で「勝つマーケター」の思考法

2019/6/28
ミクシィやTwitter、Facebook、Instagram、TikTokなどさまざまなSNSが台頭する中で、SNSの“ビジュアルドリブン化”が進んでいる。写真や動画を中心とした、より直感的なコミュニケーションが浸透するなかで、企業とマーケターはSNS戦略をどう考えるべきか。

SNSユーザーの心理と動向に詳しい電通メディアイノベーションラボ主任研究員の天野彬氏に聞いた。

※本企画は全4連載です
自分の体験は「解像度高く」シェアしたい
──昨今、Instagramを中心として、言語よりも直感的なビジュアルでのコミュニケーションが浸透しています。SNSはどう変化しているのでしょうか?
SNSの歴史を見るといくつか転機があります。2000年代の初期の頃、ミクシィやブログ全盛期は個人が自分のページを持ち、ユーザーがそこへ“訪れる”スタイルが主流でした。
そのため、何についてコミュニケーションするのか、関心がそろった状態でやりとりがなされていて複雑性は高くなかったといえます。
そこに登場したのがTwitterです。日本では2008年から日本語版が開始され、タイムラインの発明によって、人々が今のステータスをシェアする「リアルタイムウェブ」の世界が開かれました。
直接つながっていない人も含めて“集う”プラットフォームで、さまざまな話題が入り交じるコミュニケーションが根付きました。
次に転機となったのは2012~2013年。
総務省「通信利用動向調査」によれば、日本人のスマホ世帯所有率が5割を超え、個人所有率でも10代と30代で5割、20代では8割を超えたタイミングです。
誰もがスマホを持つ時代が到来し、スマホのカメラ性能の向上や通信容量の増加によって、写真を撮ることが日常になりました。
ちょうどその頃に上陸したのが、写真を気軽にシェアできるInstagramです。ビジュアルによって“感情”や自分の体験を伝えやすくなったことが、SNSの使われ方を大きく変えたといえます。
──“映える”写真が多くシェアされるようになったのは、“感情”を直接やり取りしたいというユーザー心理の表れということでしょうか。
若い世代のユーザーは特にそうだと思います。昔は美しい景色を見て和歌を詠んだかもしれませんが、いまは見たままのビジュアルを写真や動画でシェアできれば、臨場感をもってダイレクトに伝えられる。
自分が経験・体験したことを「解像度高く」シェアしたいというニーズが、SNSのビジュアルドリブン化を加速させました。
言語化できなくても検索。ググるからタグるへ
──ビジュアルを中心としたシェアの需要は女性ユーザー中心という印象がありますが、Instagramの国内の月間アクティブアカウント数は3300万を突破し、また女性が57%、男性が43%と、差がなくなってきています。
もともとインターネットは男性的な、ギーク的な色彩の強いコミュニケーション空間でしたが、スマホシフトとInstagramの登場は、そうした状況や空気感を変えていったと思います。
“きれいな写真をシェアする場”として始まったInstagramに女性ユーザーが集まったのは自然なことに思えますし、さらに、ストーリーズの登場によって日常をシェアできる安心感が生まれ、その傾向は加速しました。
一方で、同じく男性にとってもInstagramの利用価値は高まっていきました。
「映え」以外にもさまざまな投稿がされていますし、SNSではネットワーク効果が働くので、男性ユーザーが使うようになればなるほど男性ユーザーが増えるという循環の構造もあります。
──Instagramや他のSNSは、どういった使い分けをされているとお考えですか?
Instagramは「個人のとっておきの体験をシェアする場」という際立つ特性があります。自分の“好き”を掘り下げることにアクティブで、ポジティブな動機で使っている人が多いです。
一方で、Twitterは「世の中の今を見る場」でしょうか。
アイデアや考えを広めたり、告知・拡散したりするときに使う傾向があります。あるいはニュースが拡散され、それに対する人の反応や意見が見えるという特性もある。世の中の縮図ですね。
Facebookに関しては、地元の人や同じ関心を持つ人、会社の同僚などいろんな世代の人がつながっている上に実名なので、フォーマル感が強いと思います。「結婚しました」「転職しました」など、みんなに知らせたい公的な情報を伝える場。
もちろん、ニュースや休日の様子を投稿する人もいるので、TwitterとInstagramの中間にあるのかもしれません。
イメージとしては、Instagramはその人の趣味や世界観を知るために「家に遊びに行く」感覚で、Twitterはみんなが何について話しているのかを聞き、時に加わるために「広場に出かける」感覚。
Facebookは社交的でフォーマルな会話が飛び交う、「知った人が参加するパーティー会場」というすみ分けではないでしょうか。
──個人が“素の自分”として振る舞えるSNSとして、Instagramが男女問わず利用されるようになったということでしょうか。
そういえると思います。それから、「ハッシュタグ検索の対グローバル平均比較」が3倍というデータがありますが、これは日本特有の使われ方です。
今やハッシュタグ検索は当たり前になり、検索行動は“ググるからタグる”に変化しています。Instagramでは、ユーザーは興味関心のあるものをハッシュタグで探していく。
お店やファッションなど、言葉ではうまく検索できないニュアンスが決め手になる場合でも、写真を見ながらハッシュタグを掘り下げていくことで「これ!」というものに出合えるのです。
そのため、自分の興味関心がある体験を見つけてから、消費するまでの距離が非常に近いのも特徴です。
SNS時代の消費行動はAIDMAではなくSIPS
──人々がSNSで多くの時間を消費するようになり、SNS広告を活用する企業も増えましたが、うまく使えている企業、そうではない企業との差が広がっているようにも感じます。
そうですね、従来のマス広告とSNS広告では、本質的に求められているコミュニケーションが異なるからだと思います。
マス広告は広く届く一方で、ターゲティングがトレードオフの関係になる面もあります。
一方で、SNSは豊富なデータに基づいてターゲティングができますし、生活者の日常のなかに、広告でありながら自然に溶け込む形で接点をつくれるのがメリットです。
歴史的には、マス広告の受容モデルは、AIDMA (Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Motive(動機)、Action(行動))の心理プロセスを前提としてきました。
これはファネルの考え方に基づいており、広く届けることで一定数の生活者が確率的にActionまで到達するだろうと捉えるわけです。
SNS以降の生活者の情報行動については、たとえばSIPS(Sympathize(共感)、Identify(確認)、Participate(参加)、Share(共有))というモデルが2011年に提唱されています。
AIDMAとの比較でいうとより生活者視点が強く、生活者の情報発信も含めて組み立てられているところが重要だと思います。
SIPSのプロセスのポイントは、「共感」が入り口にあることです。
情報洪水の現代では情報の希少性が薄れてしまい、大半はスルーされてしまいます。情報は、生活者の情報フィルターを通過して初めて届けることができる。
したがって、企業からのコミュニケーションも、それまでとは異なるクリエイティブが求められるようになります。
実際、作り込んだビジュアルではなく、一般的に投稿されていそうな(共感しやすい)クリエイティブのほうが広告としても効果が高いという検証データもあります。
特にInstagramのような「個人が体験をシェアする場」においてはその傾向が顕著でしょう。
──Instagramの投稿を見て83%の人が何らかの行動を起こしたというデータがあります。
他のプラットフォームと単純に比較はできませんが、Instagramではポジティブに情報を探すユーザーが多く、またタグって発見した情報にはその人だけの価値が宿りますから、何かしらのアクションに結びつきやすいのでしょう。
SIPSの最後は「自分で体験してシェアする」と能動的なので、それによってムーブメントが起こったり、最近のタピオカブームのように、Instagramから流行が生まれたりする
僕のフィードやストーリーズも、一時期タピオカで埋まったことがありました。もちろん、僕も実際にお店に行って投稿しましたけどね(笑)。
──Instagramからトレンドが生まれるのか、それともInstagramがトレンドを増幅させるのか、どちらだと思いますか?
それは両方ありますよ。最近多いのが、Instagramではやり始めたことをテレビなどのメディアがピックアップして、より広がっていくケース。
SNS からトレンドが“発見される”サイクルができているから、最近の放送作家やメディアの企画者は本気になってSNS をウォッチしているわけです。
SNSマーケターに必要なのは「熱量」
──Instagramをビジネスに活用するうえで、マーケターが理解しておくべきことはなんでしょうか。
マーケターとして大切なのは生活者を知ることです。
こうした仕事をしているとバズるものに興味が向きがちですが、意外と生活者はバズってるかどうかで見るものを選んでいないし、バズったところでブランドの好感度につながるとは限りません。
マーケターの仕事は、市場を創造・拡大し、「勝てる」打ち手を考え実行することですが、考えてみれば生活者こそが市場の主役でもある。
Instagramは「個人の体験をシェアする場」という特性上、生活者が何を好み、何を求めているかを知れる場所という利点があるわけです。
また、SNS全般にいえることですが、一方的な情報発信ではなくファンを観察して深く理解すること、そしてそれに基づいてファンになってくれそうな人をどれだけ巻き込むかがとても重要です。
だから、ブランドの世界観をより深めるようなビジュアルを投稿するだけでなく、ストーリーズで普段は見られないようなメイキングシーンを見せるなど、共感を生むコミュニケーションの仕掛けが必要。
なぜなら、理屈上SNSではあらゆるアカウントが対等だからです。
ブランドも、ファン同士でシェアしたくなるネタを投下したり、情報発信に参加したくなるような「使ってもらえる」仕掛けを展開していくことで、SNSならではの効果的なコミュニケーションを重ねられると思いますよ。
──うまく実践しているマーケティング事例があれば教えてください。
具体例を挙げるなら、H.I.S.さんが運営する「タビジョ」という女子旅コミュニティ
これは、僕がとても好きな事例で、旅好き女子との接点を持って旅の魅力を発信するプロジェクトなのですが、旅行先で撮った写真に「#タビジョ」のハッシュタグをつけて投稿すると、タビジョの公式アカウントがユーザーの投稿を紹介してくれるんですね。
ユーザーとの共創でブランドのコミュニケーションを組み立てており、SNSの本義に沿っていて素晴らしいと思います。
それに、ユーザーがシェアするものを見ることで、それまで事業者目線では気づかなかった「こういう場所を訪れたいんだ」「ここで写真を撮るのが楽しいんだ」という視点が得られました。
そして、それを踏まえた新しい旅行ツアーもローンチされ、好評とのことです。
情報が広がりファンが増えるだけでなく、事業の広がりにまでつながっている。SNSマーケティングの非常にいい活用例だなと思います。
──SNSをうまく活用できる企業とできない企業の違いはどこにあるのでしょうか?
SNSに対しての理解や向き合い方は大きいと感じます。SNS を「無料でみんなが勝手に情報を広げてくれる場所」と考えていたら、いつまでたってもそうではない現実とのギャップは埋まらないでしょう。
また、個人的にSNSをあまり使っていない人が運用担当者につくのも、SNSは生活者やファンのコミュニケーションやトレンドを観察することに価値があるという方針に照らすと望ましくないかもしれません。
労力やリソースを割けず中途半端になってしまうくらいなら、やらないほうがいいのですが、SNSだからこその生活者とのつながりやブランドビルディングの価値があるというのは再度強調しておきたいと思います。
SNSマーケティングは、熱量を持った人が担当して初めて双方向の良いコミュニケーションが生まれます。
アカウントを見ていると、担当者が楽しんでやっているのか、仕事でやっているのかは分かるもの。良くも悪くも、それが伝わってしまう場がSNSなのです。
(取材:呉琢磨、文:田村朋美、写真:岡村大輔、デザイン:九喜洋介)
出展
・アクティブアカウント数(Instagram内部データ2019年3月)
・男女比(Kantar Japan委託調査 2018年5-6月 Age 16-59 M/F)
・ハッシュタグ3倍(Instagram内部データ2018年5月)
・83%が投稿を見て行動した(2018年 IPSOS Instagram国内ユーザー調査)
IPSOS プロジェクトInstagram委託調査2018年11月