【瀧口範子】「ロボットの最前線」は5年間でどう変貌したか

2019/6/25
大きく進化するも、難しい領域
2014年から約5年間、寄稿を続けてきた「イノベーション」タブが終了することになった。「お正月もお盆も休みなし」という、「厳しい」かつ「精力的」かつ「いかにも現代ウェブニュース的」なNewsPicks流リズムに同調して、面白く意味のあるニュースを探す機会が与えられたことは、とても幸運だったと思う。
終了に際して、ロボットとAIの発展を私なりに振り返る記事を2回にわたってお届けしたい。立ち止まって考えてみると、いずれの分野も大きな変化を遂げてきた。たった数年でこんなに変わったのかと、今さらながら驚いている。
今回はロボットについて。
最初に触れたいのは、やっぱりロボットは今でも難しい領域なのだという点だ。
それを物語るのは、いくつものロボットスタートアップが倒産、閉鎖してしまったことである。倒産したスタートアップは、乱暴に分けると2つのタイプに分けられる。一方は、ソーシャルロボットやホームロボットを目指した会社、もう一方はロボット研究の大御所が関わっていた会社だ。
「ロボット」という言葉に対して、われわれは古くからのイメージを抱いている。
日本では鉄腕アトムのようなロボットだろうか。アメリカではロージーだ。1960年代に最初に放映されたテレビの漫画シリーズ『宇宙家族ジェットソン』に登場するロボットメイドのことである。
友達か、それとも道具的な存在かという違いはあるにしても、いずれも人間に似た外見を持ち、人間の言葉を理解する。
アメリカ人は人間を模したヒューマノイド型ロボットを敬遠するという見方もあるのだが、「いったいいつになったら、ロボットはわれわれの生活に役立つようになるのか」という議論では、必ず引き合いに出される存在がロージーである。
人間的な存在感を持つ小さなロボット
その第1段階として、小さくてもいいから人間的な存在感のあるソーシャルロボットやファミリーロボット、コンパニオンロボットを作ろうという会社が、2013年ごろからいくつも出てきた。よく知られたところではジーボ、クーリ、そしてコスモだ。
ジーボは、MITの有名なロボット研究者が創設し、面白い動きをする卓上ロボットの開発に乗り出した。家族一人一人を認識して、それに合わせた対応をし、感情のやりとりも感じられるような存在を目指した。
クーリは、ドイツの家電大手ボッシュのスピンアウトであるメイフィールド・ロボティクスが開発し、家の中を動き回って警備をしたり、不思議な音声で人間とコミュニケートしたりするユニークなロボットを作っていた。
コスモは、AI搭載のおもちゃロボットを開発するアンキが生み出し、その時々の状況によって、開発者にも予想がつかない反応のアウトプットを出すような小型ロボットだった。形こそ車両のようだったが、その愛らしい動きのとりこになったファンは多い。
これらスタートアップが閉鎖された背景はそれぞれだ。
ジーボはおそらく完璧を求めるあまり製品がなかなか世に出ず、出たころにはアマゾン・エコーのような、動きはしないがAI搭載スマートスピーカーで事足りると感じた消費者が多くなっていたことがあるだろう。
完成度とタイミングの計算間違いだろうか。動くための機構を加えるために、価格が高くなってしまったことも足かせとなった。
クーリは、それほどの人気を得られなかった。
そして、アンキの閉鎖については、製品が人気を得てよく売れていたこともあり、ロボット関係者は言葉を失うほどのショックを受けたのだが、長期的な開発を支えるための次の資金が得られなかったことが理由だ。
ことに同社はカーネギーメロン大学のロボット博士課程に在籍中の3人の学生が創業し、おもちゃロボットを売りながら、ゆくゆくはホームロボットの開発を行うと明言していたので、その未来が共有できなくなって本当に残念だ。
人間とやりとりしてくれるロボットにみんな関心はあっても、いざ購入という段階になると、よほどのロボット好きでなければ財布の口を開かないという厳しい現実もある。今は、スマートスピーカーがホームロボットの役割を、とりあえず代わりに受け持ってしていると言えるだろうか。
人間と並んで仕事する「コーロボット」
もう一つの閉鎖のタイプである、ロボット研究の大御所によるスタートアップの失敗例は、リシンク・ロボティクスだ。
同社は、アイロボットの共同創設者でもあるロドニー・ブルックス氏が創業。MITで長年ロボットを研究してきた同氏が、人間と並んで仕事ができる「コーロボット」を生み出した。
同社の場合は、中国で計画されていた取引が中止になったことが閉鎖の直接の理由とされている。中国の経済成長鈍化も無関係ではないだろう。
そうは言うものの、ちょっと早すぎたという感も否めない。同社の最初の製品は、2本アームを持つヒューマノイドっぽい作業ロボットだったが、場所を取り、人間に危害を加えないようにすることを重視しすぎて、アームの動きも精密さを欠いた。
コーロボットというコンセプトは、今や自動車工場も含めて産業界へ大きなインパクトを及ぼしている。だが、同社がもっと精密に動く第2弾の製品を世に出したころには、デンマーク発の競合会社が市場を席巻していた。
その会社ユニバーサルロボットは、ヒューマノイド型は必要なく、2本アームが欲しいのならば1本アームのロボットを2つ組み合わせればいいという軽快なアプローチで、より小型で精密なロボットを市場に投入して人気を得たのだ(リシンクは2018年10月、事業撤退を発表。知的財産をドイツ企業に売却)。
研究者のロボット会社の失敗で言えば、最初に挙げたジーボも同様だろう。完成形に期待は集まった一方で、それを実現するための複雑さ、時間、コスト計算が合わなかった。みなが夢が現実になることを待っていたが、夢が夢で終わってしまったのだ。
アマゾンが火をつけた倉庫ロボット
こうした閉鎖の残念なニュースが報じられる一方で、快調にビジネスとして成り立っているのが倉庫ロボットである。
アマゾンが火をつけた分野でもあるが、同時に自動運転車の開発の影響も受けている。同じような技術を屋内化すれば、倉庫内で障害物を避けながら、モノを目的地まで自動的に運搬する。
この手のロボットは自走する台車のようなもので、倉庫に限らず、工場、病院、オフィス用にも開発が進んでいる。
2015〜2016年ごろだったか、それまではホームロボットも含め多様なロボットが出展されていたロボット会議が、ある時を境にまるで倉庫展のように豹変したのを覚えている。
正直なところ、ロボットの夢がしぼんでしまったように感じた。だが、アメリカ人の金になるビジネスへの執念と合理的思考を見せつけられた思いだった。超難しいことを実現するよりも、とりあえず入手可能な技術を組み合わせて、世の中の問題を解決しようというアプローチである。
今は、この倉庫ロボットを中心にロボット業界が動いている。
夢がないし、地味になったが、希望もある。というのは、ロボットアームやハンドの開発、対象物をつかませるAIの開発が進み、倉庫以外の生活の場にロボットが入ってくる可能性も見え始めたからだ。
自走台車にアームをつけた「モバイルマニピュレーター」という新しい形態が注目されており、これが成功すれば一般の人々を助けてくれるロボットの登場も期待できる。
人々の暮らしを助ける「ケアロボット」の登場へ
私個人は、究極的には介護ロボットが実現してほしいと願っている。
介護ロボット開発はこれまで日本の十八番だった。こんな難しいことは、よほどの熱意か政府の補助金がなければ開発は無理。だが、ここ最近はアメリカでも「ケアロボット」という言葉をよく耳にするようになった。
アメリカ流に、先端技術のコストが安くなったところで、それらをうまく組み合わせ、とりあえず役に立つケアロボットが出てくる可能性もあるだろう。
市場を押さえてから、後にユーザーのフィードバックを参考にしつつバージョンアップを重ねていくのがアメリカ式で、技術の高い日本のロボット業界もこの方法が参考にできるのではないかと思う。
まずは人々の仕事を楽にし、いずれは人々の暮らしを助けてくれる。技術と開発者と市場への取り組み。ロボットが今後どう成長していくのか、これからも楽しみに見続けたいと思う。
(文:瀧口範子、写真:www.jibo.com)