5年近くにわたって、世界の革新的なトピックスをお伝えしてきた「イノベーション」タブ。海外メディアから選りすぐりの記事を翻訳して紹介するキュレーションも、その大きな柱であった。
イノベーションにまつわる技術は、この5年間でどのように進化してきたのか。その変遷を見るひとつの軸が、MIT Technology Reviewが毎年2月には発表している「ブレークスルー・テクノロジー10選」だ。
今後数年間で、世界を大きく変えそうな革新的技術。MIT Technology Reviewが取り上げるテクノロジーはいずれも、私たちの生活に重大な影響を与えるテクノロジーである。
本記事では、過去に紹介した「ブレークスルー・テクノロジー10選」を振り返りながら、技術がもたらす未来の世界を思い描く。

1. 世界を変えるテクノロジー2016」は、世界を変えたのか?

MIT Technology Reviewが取り上げるテクノロジーには、これから普及するものもあれば、商品化されようとしているものもある。本記事では、2016年に発表した「ブレークスルー・テクノロジー10選」が1年後、どこまで進展したのかをまとめている。
注目の技術として取り上げられた「免疫工学」。この間に、操作したT細胞をがんキラーとして改造するために遺伝子編集技術「CRISPR」を利用する許可を得るといった、大きな発展が見られた。
また、現在は日常生活に浸透している「音声インターフェイス」も「グーグルとアマゾンは家庭内で役立つと考えている」と紹介されているように、主要なテック企業が音声によるコンピューター操作を次第に採用し始めたのも、まさにこの時期だ。
スラックやテスラの自動運転が「注目を集める」段階であったのも、わずか2年半前のことだ。

2. MIT:2017年に注目すべき「ブレークスルー・テクノロジー10選」

2017年に選ばれた「ブレークスルー・テクノロジー10選」に共通するのは、持続性だ。「経済や政治に影響を与え、医学を改善し、文化すら変える力がある」という前文で紹介されている技術には、この2年間で飛躍的な発達を遂げたものも含まれる。
「顔で決済」では、中国における顔検出システムを取り上げている。決済や施設への入場、犯罪者の逮捕にも使われている顔認識技術の利用は、もはや中国だけに留まらない。一方で利用に対して規制も必要だとの声も上がっている。
「麻痺の回復」といった脳インプラントも、無線で神経信号を送信することで、失聴や失明を回復させたり、脊髄損傷で失われた体を自由に動かしたりできるようになる技術。日々、目覚ましい進歩を遂げている。
2017年には「強化学習」も取り上げられている。強化学習を利用したAlphaGoは、2016年にプロの囲碁棋士を破った最初の「機械」となった。

3. MIT:2018年注目の「ブレークスルー・テクノロジー10選」

2018年の「ブレークスルー・テクノロジー10選」では、私たちの仕事と暮らしに影響を与えるとされる10の技術が取り上げられている。
トップで紹介されているのが「3D金属プリンティング」だ。この技術が安価かつ容易になったことで、従来の金属加工技術では作れないような軽量で高強度の部品や複雑な形を作ることができる。部品製造の現場が変わるとともに、自動車業界や航空宇宙業界に重要な変化をもたらしている。
そして、AIの認識能力が向上していくなかで注目されたのが「競争式生成ネットワーク(GAN)」と呼ばれる手法だ。本物のような音声や偽物画像を作り出すために使われるGANは、「想像力を持つAI」の可能性を持つ。
「ゼロカーボン天然ガス」は、エネルギー問題解決のイノベーションとして紹介されている。当面の主要なエネルギー源となる天然ガスを使った完璧な低炭素電力発電の試験プラントの取り組みだ。

4. ビル・ゲイツと選ぶ、2019年注目の「ブレークスルー・テクノロジー10選」

2019年は、初のゲスト・キュレーターとしてビル・ゲイツが登場。世界をより良い方向へ導くための「ブレークスルー・テクノロジー10選」が発表された。
「牛のいらないハンバーガー」は、培養肉や植物由来の代替肉を使ったハンバーガー。植物ベースの代替肉では、すでに実現済みだ。世界人口増加による食肉消費量の増加と、畜産による環境への悪影響。これらを解決するためのブレークスルーとして注目されている。
「オーダーメイドのがんワクチン」は、各腫瘍に固有の遺伝子突然変異を特定することで、がん細胞だけを選んで破壊する治療法だ。従来の化学療法では、多くの健康な細胞に損傷を与えるうえ、腫瘍に対してつねに効果があるとは限らない。治験段階だが、実現すればさまざまなタイプのがんを効果的に抑え込める可能性がある。
世界23億人が安全な衛生設備のない生活を送っており、結果として多くの人々が亡くなっている。下水道設備なしでも動作し、その場で廃棄物を処理できる「下水管のいらないトイレ」があれば、この大きな課題を解決に向かわせることができる。
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さて、ここまで注目の「ブレークスルー・イノベーション10選」の変遷を見てきたが、MIT Technology Reviewは、未来に向けた予測記事も手がけている。私たちは予測された未来に近づいているのか。最後に2つの記事を紹介したい。

5. MIT予想「2021年、私たちの暮らしは技術革新でこう変わる」

避妊処置を受けた男性が培養鶏肉のチキンナゲットを食べながら、自律自動車に乗っている──。調査会社の予測やテック企業の発表をもとに、MIT Technology Reviewが検討した「2021年の暮らし」だ。
キーワードは「電気自動車」「実質現実(VR)」「男性の避妊」「ネットにつながる」「安価な太陽光発電」「培養鶏肉」の6つ。2年前に掲載された本記事の描く未来は、どこまで現実となっているのだろうか。

6. 未来に向けて、いま実現が求められる「世界を救う」10大テクノロジー

エネルギーや地球環境、医療からAIまで、私たちが直面している深刻な課題がある。実現には困難を伴うが、どれも解決が求められる重大な課題だ。これらを解決できる、テクノロジーのブレークスルーはあるのだろうか。
テクノロジーの発展とその応用をめぐる是非は古より議論され、今後も議論がなくなることはないだろう。しかし、私たちの生活に重大な影響を与える技術が、世界の課題を解決し、未来の社会をより豊かなものにする。ぜひ、本記事もご一読いただきたい。
ご紹介している記事は過去のものであり、登場する人物の肩書や組織は掲載当時のものです。
(構成・編集:濱智子、デザイン:大橋智子)