にわかに日本でうねりを見せる「最新SaaS事情」

2019/6/25
昨今よく耳にする「SaaS(Software as a Service)」。直訳すれば「サービスとしてのソフトウェア」、つまりは「インターネット経由で提供されるソフトウェア」のことだが、その真価を説明できる人間がどれほどいるだろう。
「SaaSは嘘のない、最高のビジネスモデル」と語るのは、急成長を遂げるSaaS企業のひとつであるFORCAS(ユーザベースグループ)代表の佐久間衡氏だ。
今や、ベンダーから提供されるSaaSの種類も徐々に増え、技術革新、利便性向上を背景として、一般企業でも多くのSaaSを利用するようになってきた。では、SaaS企業はどのような未来を目指し、またこのタイミングで私たちがSaaS企業でキャリアを積むことに、どんな可能性があるのか。最新のSaaS事情を紐解いていく。

SaaSだから実現できる、嘘のないビジネスモデル

「SaaS」とは何か。こう聞かれて、隙のない答えができるビジネスパーソンは、一体どれほどいるだろうか。
急成長を遂げるSaaS企業のひとつであるFORCAS(ユーザベースグループ)代表の佐久間衡氏は、次のように説明する。
「私はSaaSを『クラウドサービス×サブスクリプション』と定義づけています。要は、クラウドサービスの形態で提供されていて、ビジネスモデルとして、月額課金や年額課金の仕組みを取っているものと考えるとわかりやすいでしょう」
佐久間氏の定義からもわかるように、SaaS最大の特徴は「ユーザー(サービスを使う側)にとっての価値」と、「ベンダー(サービスを提供する側)にとっての価値」が同じであるということだ。
サブスクリプションだからこそ、ベンダーは「売っておしまい」にはできない。むしろそこからが「はじまり」だ。ユーザーにサービスの価値を実感してもらい、利用を継続してもらわなければならない。
また、クラウド経由で提供しているので、サービス提供開始後も、ユーザーニーズに沿って改善を続けることができる。だからこそ、ベンダーとユーザーが長期的な関係を持ち、最適なサービスを一緒に作り続けられるのだ。
「このビジネスモデルは双方にとって完璧で、『嘘のないビジネスモデル』だと言えます。アメリカや中国に比べると、日本のSaaSのうねりはまだまだこれから。もっと広げていきたいですね」(佐久間氏)
佐久間衡
UBS証券投資銀行本部にて、テクノロジーセクター及び金融法人セクターを担当し、企業の財務戦略アドバイザリー業務に6年間従事。2013年、株式会社ユーザベースに参画。2017年より株式会社ジャパンベンチャーリサーチ、株式会社FORCASの代表取締役に就任。
佐久間氏の言う通り、およそ10年前、「クラウドサービス」がバズワードになった頃に注目されて以降、日本でのSaaSの浸透は遅々として進まなかった。
当時はなかった「サブスクリプション」と結びついたことで、ここ数年でSaaS起業や導入のうねりが起こり、やっと少し世界に近づいた印象だ。
出典:総務省「平成30年通信利用動向調査」
佐久間氏は、さらに高い視座でSaaSを見ている。
「SaaSはよく『労働人口が減ってきた日本の生産性を、SaaSを導入して補おう』という文脈で語られます。これはもちろん非常に大切な視点です。ただ、個人的にはその見方にとどめてほしくない。
今の時代、もう十分満たされた日本では、働くことの意義が『労働力の提供(報酬)』から『生きがい』にシフトしています。その中でSaaSは、人に生きがいを提供する新たな会社形態であるという理解を広げていきたい。
大きなことを言えば、SaaSを『新たなものづくり文化』にしたいんですよ」(佐久間氏)
この言葉の真意はこうだ。
会社は、目指すべき未来(ビジョン)があって、それに共感して集った人たちがビジョンを達成しようという集団だ。一方、SaaSなら、そのビジョンを社内だけでなくユーザーとも共有して、嘘なく目標に向かって邁進できる。
ベンダーとユーザーが互いに実現したい未来を共有し、さらにその過程で信頼が深まったユーザーがベンダーのいわば「味方」になっていく。そして、共に新たな目標に向かう。
未来のSaaSは、単なる効率化のツールを超えて、私たちに生きがいを提供する存在になるというわけだ。

FORCASを通じてABMが広がれば、無駄な広告がなくなる

では、FORCASが提供するSaaSとは、どんなものなのか。
「B2B 版のSpotifyやNetflixのようなプラットフォームにしていきたいと考えています。たとえば曲や動画をプッシュするとき、『18歳の女性で、埼玉在住だからこの曲』なんてレコメンドはしないですよね。
性別とか年齢とか出身地とかデモグラフィックな属性を超えて、行動履歴や興味関心をもとにターゲティングする世界は、B2Cではもはや当然です。それと同じことをB2Bの世界で実現したい。
売り上げや従業員数、大雑把な業界や地域でターゲティングするサービスは他にもあるのですが、それよりも、その企業はどのような事業戦略を打ち出しているのか、どのような採用戦略を実行し、どのようなサービスを使っているのか。
企業の特徴・戦略を含めて可視化して、実際の企業のニーズを捉えてターゲティングしていくのが理想です」(佐久間氏)
これは、「アカウントベースドマーケティング(ABM)」に基づくものだ。ABMとは、狙うべき見込み顧客を最初に具体的に特定し、そこから逆算して営業・マーケティング戦略を立て、圧倒的な生産性を実現する」という新しいマーケティング手法。
サービスの価値を届けるべき潜在顧客、企業名まで特定することで、その潜在顧客に届く活動以外はすべてやめることができ、その顧客に価値を届ける活動にフォーカスできる。
優れたサービスにとっては、狙うべきマーケットが可視化されることで、マーケットを獲得するスピードが飛躍的に上がっていく。
営業やマーケティングを受ける側からしても、ムダな広告、ムダな売り込みが一切無くなる。必要とするサービスが最速で提供される世界が実現されるのだ。
今年7月には、「日本のSaaS Shiftを加速する」をテーマに「SaaSway」というカンファレンスを実施する。
「SaaSは単なるビジネスモデルではなく、ユーザーとビジョンを共有し、長期的な共創を通して新たな価値をつくり続けていくという思想、文化です。
その本質の理解を広げるために、SaaS企業同士が集まり、日本をSaaS Shiftさせる狼煙を上げるような場をつくりたいと思っています」(佐久間氏)
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とはいえ、歴史の長い企業がSaaSに変革するのはかなり難しい。なぜなら、単なるビジネスモデルの変革ではなく、企業文化の変革を必要とするからだ。
「だからこそ、まずは多くの企業に、たくさんのSaaSを使ってほしい。実現したい未来をユーザーと共有して、一緒にサービスを作っていく醍醐味を体感してほしい」と佐久間氏。
このイベントは、日本の「SaaS Shift」への一つのきっかけになるだろう。

FORCAS=SaaSのスペシャリストを育てる場に

こうした国内でのSaaSのうねりを受け、今後はSaaS人材がより一層求められることが予測される。ただし、日本でSaaS事業を経験した人はとても少ないのが現状だ。
このまま数少ないSaaS人材を奪い合うような状況が生まれれば、日本でのSaaS事業の拡大にとって、大きな障害になりかねない。
そこで、日本にSaaS人材を増やしていくための最初の取り組みとして、FORCASでは4月から、「SaaSオープン採用」をスタートした。
「SaaSはユーザーのニーズに合わせて改善を繰り返していく、永遠のベータ版のようなサービス。ユーザーに寄り添い、周囲と連携しながら価値提供を続けることが、仕事に対する喜びや自身の成長につながり、自身のキャリアの幅も広げてくれます。
今まさに成長している業界で、自身の成長を実現できる。挑戦しない手はないと思います」
こう話すのは、理想的な世界の実現に向けて、この春からFORCASにジョイン。CCOを務める、元セールスフォース・ドットコム執行役員の今村和広氏だ。「SaaSオープン採用」は、FORCASにとっても、日本にとってもやる意義があると、意欲を燃やす。
今村 和広
ソフトバンクグループを経て、2004年に株式会社セールスフォース・ドットコムに入社。首都圏営業部門のマネジメント、インサイドセールス本部長、コマーシャル営業 執行役員 第1営業本部長を歴任。2019年4月より株式会社FORCAS 執行役員CCO(Chief Customer Officer)に就任。
「SaaSオープン採用」では、SaaS事業の経験は問わず、SaaSにキャリアチェンジしたい人材に、具体的な職種を決めずにFORCASに入社してもらう。
入社後は、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスなど、SaaS特有の職種を短期間のローテーションで体験。実際の体験、トレーニングを経た後に、本人の希望、適性を踏まえて所属するチームを決めていく。
FORCASメンバーの成長が、自社に留まらずSaaS業界全体の成長、ひいては日本を「SaaS Shiftさせる」後押しになるというわけだ。

「嘘のない人生を送りたい」という意思を叶える場でありたい

では、今村氏自身は、なぜFORCASを選んだのか。
「1つは、私自身も長くSaaS業界に身を置いて、佐久間の『業界を盛り上げたい』というビジョンに共感したから。
2つ目はFORCASというソリューションそのものの魅力。さまざまな企業が自分たちの『THE MODEL』を作ろうとしていますが、FORCASならビジネス、組織づくりの2つの面で起点となり、お客様に貢献できるという確信がある。
3つ目はFORCASの組織。今まさに組織を作っているスタートアップだという点が、僕にとって非常に魅力的でした」(今村氏)
実際に入社して、今村氏は「SaaS人材を育てる場」としてのFORCASの魅力を、様々なシーンで感じたという。
まずは、コミュニケーションが非常にオープンであること。オープンかつ嘘や無駄のないコミュニケーションにより学びを加速させるのは、SaaSというビジネスモデルの土台となるものだ。
「会社の動きやリーダーの考えだけでなく、隣の部署の人が何を考えているのかもつかみやすい。オープンなコミュニケーションが土台にあると、会社がどんどん成長し、知らない人が増えてくるようなフェーズでも、組織づくりがスムーズです。
私たちが求めるのは、シンプルに表現すれば、情熱をもって自分をさらけ出して頑張れる人。
ABMやSaaSの広がりはより加速していきます。そしてFORCASは、今後の日本のビジネスの成長を牽引するSaaS業界の中でも特に成長していく企業です。新しいマーケティングの形、サービスによって世の中を変えるような経験がしたいという人に来てほしいですね」(今村氏)
この考えには佐久間氏も賛成だ。
「よく、『Will(やりたいこと)、Can(できること)、Must(会社に求められること)』をバランスさせるという考えがありますが、私はその考え方が好きではない。『Will=Can=Must』の状態を実現すれば、理想的な、嘘がない人生を送れる」
では、どうすればいいか。「Will=Can」にするためには、高い自己認識力で自分の本質的な強みを理解し、また、強みを活かすことを第一にする組織に所属する必要がある。
「Will=Must」にするためには、会社のビジョンに共感し、その実現のために自分ができることをしようと動く人であること。
「この前提が揃えば、後はひたすらその人のWillを引き出すことが、パフォーマンス(Can)の向上にも繋がりますし、ビジョン共感(Must)の向上にも繋がります。
極端なことを言えば、面接では『あなたは自分がどういう人だと思いますか』という質問しかしません。素の自分をさらけ出し、そこへのオープンなフィードバックを自己認識の向上に繋げられる人は強いし、実際、FORCASやユーザベースでは自己認識と他己認識が一致している人が活躍しています。
みんながオープンに自己開示できるチームだからこそ、嘘がない仕事ができるし、それが嘘のない人生にも繋がる。ぜひ、こんなチームの仲間になってください」(佐久間氏)
(執筆:安西ちまり 編集:大高志帆 撮影:早坂佳美 デザイン:九喜洋介)