[東京 19日 ロイター] - 6月ロイター企業調査によると、米国による対中制裁で収益に何らかの影響を受けている企業は55%と、今年3月からじわりと増加している。ただ、中国以外への拠点の移転を検討している企業はごく一部にとどまり、サプライチェーンの見直しに至る影響はなさそうだ。

米国が問題視する対日赤字の削減は不要とする企業が65%を占めたが、安全保障も含めた視点でみれば貿易での譲歩はやむを得ないとする意見もそれなりに目立つ。

今回の調査期間は、6月4日─13日。調査票発送企業は505社、回答社数はおよそ260社だった。

<制裁の本格的影響これから、高まる中国事業リスクへの意識>

調査によると、米国による対中制裁の影響は「ある程度ある」が49%と、今年3月の43%から増加。「大いにある」の6%と合わせて55%が何らかの影響があると回答。この比率は3月調査の52%からやや増加した。

「中国への投資時期等を再検討中」(電機)としている企業があるほか、影響はほとんどないとする企業からも「中国ビジネスの巨大なリスクを痛感し、事業を大幅縮小してきた」(電機)との声が上がっている。

米国政府は取引を原則禁止する企業名を掲載した「エンティティ・リスト」に華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]と関連会社70社程度を追加した。こうした規制が売り上げや設備投資に影響しているとの回答は15%程度。すでに半導体パッケージ関連事業や5G用アンテナ設計・改正ソフト事業などに影響が出ているとの声があるほか、「ファーウェイの生産次第」(精密機器)であり、「今後悪影響が強まる可能性が高い」(ゴム)との指摘もある。

影響は全くない、あるいはほとんどないと回答した企業からは、「あらゆるネットメディアの検閲や遮断が可能な国の製品を通信基盤に使用するなど言語道断。既に新冷戦は始まっている」(卸売)といった声もあった。

<米の対日赤字削減要求、対応不要が過半数>

一方、米国は日本に対しても対日貿易赤字の削減を要求している。こうした要求に対応して米国の赤字を削減するべきかどうか尋ねたところ、「削減すべき」は35%、「削減は不要」が65%となった。

削減は不要とする企業からは「二国間での貿易収支に拘泥するのはナンセンス」(食品)といった考えのほか、「原因は米国の過剰消費」(電機など多くの企業)との見方が多い。「すでに日本の製造業は現地生産シフトで十分対応してきている」(運輸)といった意見もある。

他方で、削減が必要とする企業からは、自由貿易の下では削減する理由はないものの、「今後の対米関係を良好に維持するために必要」(紙・パルプ)、「日米関係は経済だけでなく、防衛や安全保障の観点からも考えるべき」(サービス)といった理由が挙げられている。また自動車産業からは「関税で国内生産に打撃が及ぶ恐れがある」、「輸出数量規制を避けるため」など、より強硬な要求を回避するために必要といった声も出ている。

削減する場合の対応策を聞いたところ、エネルギー輸入拡大が40%と最も多かった。日本が必要としている輸入品であれば米国からの輸入を増やしても問題ない、という考え方だ。また「中東情勢が不穏な下でタイミングとしても良い」(運輸)といった指摘もある。

次いで米国産農畜産物の輸入拡大が24%となり、「国民が日常消費する食料品は関税を引き下げて海外に開放すれば国民のメリットは大きい」(電機)との意見がある。

対米直接投資の拡大も、「過去の貿易摩擦でも同様の対応で決着している」(輸送用機器)といった理由で22%を占めた。

自動車輸出台数の自主規制は5%だが、「自動車メーカーの北米市場依存経営を修正すべき時期」(小売)といった指摘がある。

<「米中摩擦と消費増税、経済対策必要が64%>

景気の先行きについては、東京五輪に向けた押し上げ材料と米中摩擦の悪影響が綱引きとなるなか、57%が拡大ないし現状維持とみている。他方で、消費税率10%への引き上げと米中摩擦の影響を主因に、景気が縮小傾向となるとの見方も42%を占めた。

政府は海外経済からの下押し圧力が大きくなる場合には新たな経済対策で機動的に対応する姿勢を「骨太方針」の素案に盛り込んでいるが、今年から来年にかけて経済対策が必要と答えた企業は64%を占めた。「世界的な景気下降局面にあり、さらに消費増税するとなれば経済対策は必須」(機械)といった意見が目立つ。

他方で対策不要との回答は36%で、「リーマン・ショック並みの景気悪化でなければ財政収支改善努力を放置すべきではない」(輸送用機器)との意見がある。

(中川泉 編集:石田仁志)