【世界初】AIで経済の未来予測を自動化するSaaSサービス登場

2019/6/25
 2019年、AIによる未来予測サービスを提供する会社が現れた。その名もxenodata lab.(ゼノデータ・ラボ)。「xeno」とは「異種の」を意味する言葉で、社名には、「データとテクノロジーの力で異種の生物を作り出す」という思いが込められている。
 同社は2016年2月の創業からわずか半年後、三菱UFJ銀行の開催するスタートアップ向けプログラムでグランプリに輝いた。翌2017年には同行からの出資が決定。これはメガバンク史上初となるシードスタートアップへの投資だ。
 その後も快進撃は続き、2019年3月までに帝国データバンクや時事通信社など二十数社から、累計で10億円を調達。敏腕ファンドマネージャーとして名高いレオス・キャピタルワークス藤野英人氏など個人投資家による出資も含まれる。三菱UFJ銀行や第一生命をはじめとする数十社がすでに導入済みだという。
 同社を率いる代表取締役社長は関洋二郎氏。「経営者だった祖父の影響で、小学生時代から将来起業するものと考えていました」と語る彼は、大学在学中に公認会計士2次試験に合格し、PwCあらた監査法人で働き始めたという変わり種だ。
慶應義塾大学商学部在学中に公認会計士2次試験に合格し、在学中よりあらた監査法人(現PwCあらた監査法人)にて、メーカー、小売り、卸売業を中心に上場/未上場企業の財務諸表監査、内部統制監査などの公認会計士業務のみだけでなく、システム監査、データ監査業務など、IT統制にも従事する。2012年に株式会社ユーザベースに入社し、アジア最大級ビジネスプラットフォームであるSPEEDA事業の事業開発部責任者として、国内外の市場環境調査、プロダクト戦略の立案、データサプライヤーとのアライアンス、仕様設計、リリース検証、本番運用の一連のプロセスについての執行を担当。また、2013年にはユーザベース全社員投票により選出されるMVPを受賞。
 関氏には、2012年にユーザベースに入社し、経済情報サービス「SPEEDA」の事業開発部責任者を務めたという過去がある。今回正式リリースした未来予測サービス「xenoBrain」は、その経験から生まれたプロダクトだという。
 xenoBrainは、特定のニュースがどの企業に、どのようなインパクトを及ぼす可能性があるかを構造化して可視化する。関氏はこのプロダクトを「『風が吹けば桶屋が儲かる』をビジュアル化するサービス」と表現する。
 たとえば「携帯電話の5Gサービスが始まる」というニュースで、xenoBrainの未来予測を見てみよう。
xenoBrainの画面キャプチャとその拡大
 携帯電話の「5Gサービス」が始まると、「光ファイバー」の需要が出てくる。さらに「等方性黒鉛」の需要が大きくなる。そして「SECカーボン」が増収する──。xenoBrainでは、ここまでを瞬時に予測し、可視化する。
 その未来予測の分析が、ビジネスに活かせなければ意味がない。AIによる未来予測は果たしてどれほどの精度なのか。ビジネスの現場でどう活用できるのか。関氏に話を聞いた。
気になる予測の精度は
──未来予測は人類の夢でした。しかし、物事の因果関係は複雑ですよね。xenoBrainによる予測の結果には、現段階でどれほどリアリティがあるのでしょうか。
関洋二郎 そうですね。それにはまず「リアリティ」について噛み砕いて考えたいです。「リアリティ」の意味は、大きく2つに分けられると思います。
 1つは「とあるニュースから、そういう結果は確かに導き出せるね」という論理的な意味でのリアリティ。もう1つは「1つのニュースから、過去本当にそのルートを通って増収/減収した」という現実に起きているかという意味でのリアリティ。
 そこを分けて考えると、前者に関しては、現段階でもかなり納得感がある示唆が出てきています。この4月までにxenoBrainの予測に使っている辞書データを大幅に増やして精度を高めました。ユーザーからも良いフィードバックがもらえています。
 しかし、後者のリアリティ、収益の増減レベルについてのバックテストは、まだできていません。理想は「5Gサービスが始まったら東芝が増収になる確率は、過去の傾向からすると76.5パーセント。それは2期先の決算です」という予測レベル。こういう示唆まで出していくのが、ここ1、2年のスパンでやろうとしていることですね。
──xenoBrainの予測の仕組みはおおまかに言うと、どうなっているんですか?
「2事象間の関係」を蓄積した膨大なデータベースをもとに予測しています。
 たとえば、携帯電話の5Gサービスが始まると、データセンターが増加するとしますよね。これは、「携帯電話の5Gサービスが始まる」と「データセンターが増加する」という2つの事象の間に因果関係があるということです。こうした2事象間の関係を無限に繋ぎ合わせていくと、どういった需要、どういった産業に、どんなインパクトが及ぶのか、人間がパッと思い浮かべるのは難しいレベルまで予測可能になります。
 我々は過去のニュースと開示資料の2つのデータから、こうした因果関係を抜き出し、データベースに蓄積しています。それらをもとに、最新ニュースから予測を行っております。
──つまり、証券アナリストのような企業分析の専門家の役割をAIが代替するわけですね。
 よくそのように言われますね。ただし、アナリストでも文字化されていない暗黙知などを売りにしている方もいるので、当然彼らの役割をすべて代替するわけではありません。
 ただ今までは、「ああなれば、こうなる」という経済事象の因果についての分析は、アナリストのような企業調査の専門家だけが持っていたノウハウと思うんですね。そういう実はコモディティ化されている専門的な分析ナレッジをxenoBrainで民主化し、誰でも簡単に分析結果を確認できるようにしていく予定です。
 またアナリストに限らず「人間」との比較でいうと、AIは処理量と処理速度に強みがあります。トヨタ自動車1社だけのレポートを1週間で書かせたら、人間のほうが質の高いレポートを書くかもしれません。
 しかし、xenoBrainであれば、膨大なニュースや開示資料から瞬時に全上場企業の分析結果を生み出すことができる。
 我々は常に、その強みを意識したサービスを考えています。
営業や調達にもAIの予測が生きてくる?
──お話を聞いていると、xenoBrainはビジネス上の課題解決というより、株価や収益の予測に適したサービスのようにも思えるのですが……。
 そうですね。我が社の株主は金融機関が多いので、β版リリース前は金融機関を中心にマーケティングをしていたんですよ。ですから、確かに初期のユーザーには金融機関が多かった。
 ただ、実際にβ版をリリースしてみると、事業会社の経営企画、営業企画、調達部門などからも意外なほど引き合いが多くきて、事業会社のニーズが大きいことがわかってきました。もうすでにユーザーの半分ほどが事業会社になっています。夏にはとくに事業会社からのニーズが高い機能をリリースする予定です。
──ということは、xenoBrainはあらゆる企業の抱えている課題を解決するサービスなのだと。
 そうですね、少なくとも顧客セグメントは問いません。初期の段階ではとくに、各セクターのトッププレイヤーとして自身の仕事のパフォーマンスを高めるべく昼夜意識を傾けている方が使い始めている印象です。
 xenoBrainがどのような課題を解決するかというと、「日々ニュースは読んでいても、そのニュースがもたらす影響を分析し、アクションに活かすことができていない」というところ。そこをサポートすることになります。
──ビジネスに具体的に利用する場合どのようなケースが考えられますか?
 具体例としては、営業企画のケースがわかりやすいかもしれません。広告営業の方が、今伸びていて広告予算がたくさんある企業に対してアプローチしても、ライバルもそんなことは知っている。
 だから常に激しい競争があるじゃないですか。そういう時にxenoBrainを使って、今はそれほど業績が好調なわけでもないけれど、最新のニュースの傾向から、中長期で業績が上がりそうな企業が見つけられます。
 そういう企業に「予算ができたらでいいので、我々と一緒にやりませんか」と早くから声をかけたり、足繁く通ったりしておけば、業績が上がった時、発注してくれるかもしれないですよね。我々は現在、ユーザーさんの要望に基づいたターゲットリストを作る試みを、試験的に始めています。
xenoBrainでは顧客からの要望に応じて、上記のようなターゲットリストを作成し、提供している
──なるほど。
 あとは大手メーカーさんの調達部門で、メジャーな部材の分析に追われてマイナーな部材の分析がまったくできていないという課題を抱えていたとします。鉄や銅はリスクヘッジをやっているけれども、ベリリウム銅やヒンジなどのマイナーな部材は手付かずだ、と。その結果、ある日突然価格が高騰するなどリスクが高まっても打ち手がないため、供給に支障をきたすことがあるそうです。
 でも「よく考えてみたら、これって去年のニュースから想定できたはずだよね」というケースが意外と多いと思うんですね。これが早くに分析できていれば、「ベリリウム銅が高騰するかもしれない、じゃあサプライヤーに確認してみよう。他のサプライヤー候補、代替製品、代替部材も探そう」といった動きが取れるはずなんですよ。
 そういう期待でxenoBrainを導入してくれている企業さんもあります。
発想の根幹にはSPEEDAがあった
──「風が吹けば桶屋が儲かる」式の予測をビジネスに活用するって、ユニークな発想ですよね。モデルになったサービスや競合はあったんですか?
 我々もさんざん探しましたけど、ないんですよ(笑)。「経済事象間の因果関係で未来予測をする」となると、本当にない。一見似ているものとしては、あるニュースが起きた時、株価に与えるポジネガの影響を一足飛びに示唆するサービスなどはありました。
 実は我々もそれと似た研究をしているのですが、そういうものは中身がブラックボックスになっていて、説明責任が果たせません。だから実務の現場では、なかなか使いづらいんですよね。あくまでも経済事象間の論理的な因果関係をベースとすることによって、初めてユーザーにとって価値のあるサービスになると思っています。
 よくよく調べてみると、アプローチはまったく違うのですが、我々と似たようなことを考えている学者さんはいます。でも、「サービス」に落とすという実務レベルの話と、「精度」という数値的結果が成果になる研究とでは、趣旨が違っていますよね。課題を解決するために技術選定を行ってきた我々は、技術的にもそうとう独自路線を突っ走っているようです。
──類似のサービスがなかったにもかかわらず、思いついてしまったと。 
 大きな発想の枠組みとしては、僕がユーザベースで「SPEEDA」の事業開発責任者をやっていた時、漠然としたニーズに気づいたことがきっかけなんです。僕が当時力を入れていたのは、データの拡充でした。
 SPEEDAは経済情報サービスで、競合もしっかり存在していました。ですから、「業界分析」という自社の強みを活かしながらも、経済データの量で他社に大きく劣後するわけにはいきません。したがってより多く、より質の高いデータが必要ですし、顧客の期待もそこにあります。
 インドネシアやタイなどアジアの未上場企業データ、海外M&Aデータ、株価、海外統計データ……とにかくデータを買い、Excelで仕様書を書いて設計し、エンジニアと相談しながら練り上げて、検証などを経て顧客にリリースしていく。これをずっと繰り返しました。
 そんな中、セールスメンバーとのミーティングや、ユーザーさんのところに営業に行く機会があるたびに思ったんです。「求められているのは本当にたくさんのデータなのか?」って。
──おお、本質的な問いですね。
 たとえばソニーの財務情報が100科目以上30年分、統計データが10万本ありますという時、ユーザーさんが見たいのはデータそのものではないですよね。CMOSセンサーの需要はどう動くのか、カーエレクトロニクス製品の需要は今後どうなるのか、ひいてはソニーの業績は今後上がるのか……そういう未来に関するインサイトを得たいからデータがほしいのではないかな、と。
 これまではSPEEDAによって手軽に財務や統計を取得し、そのうえで、テクノロジーではなく人間がそこをやってきた。
 このレイヤーに残された課題感が次のイノベーションの主戦場だと確信しました。それが2015年の初頭。そこからはサービスや技術的アプローチなどいろいろ考え、多くの人の話を聞く中で、実現可能だと判断しました。
 SPEEDAでエンジニア陣に揉まれながら「何ができて何ができないか」を朝から晩まで議論し続けた3年間の経験が、この判断を支えてくれました。
──それがxenoBrainだったと。
 はい。もともと起業したいとは思っていたので、その時にユーザベースを出る決断をしました。xenoBrainの構想を実現するためには、膨大なニュースデータや専門的な分析ナレッジ、高度なアルゴリズムの知識などさまざまな事業上のパーツが必要です。
 でも、起業時点では仲間内でプロトタイプを作ることさえ無理だと踏み、まずは途中段階にあたる中間製品を短期で作り、プロダクト開発力を証明して出資を集める作戦にしました。その中間製品にあたるプロダクトが、自動決算分析レポート「xenoFlash」でした。
──xenoBrainで用いられている自然言語処理の技術は特許を取得していますよね。技術的には、それだけ難易度が高かった?
 そうですね。xenoBrainは今世紀の人類では実現できないかもしれない、そんな可能性が拭えない「リアルに前例がないもの」でした。そういう圧倒的な不確実性の中で開発していたので、本当にきつかったです。今振り返っても「プロダクトチームは本当によくやってくれた」と強く思います。
 何度かリリースは延期したものの、ゼロベースで何もないところから正式版リリースまで一般のシステム開発遅延と同程度の遅れで漕ぎ着けた。これは奇跡に近いですね。とくに人材面では「このタイミングで、この知識、経験、行動量の人がいないと進まない」という完全にギリギリのところでベスト・オブ・ベストと言える人たちがジョインし続けました。
 今考えても「あのタイミングであの人が参加してくれなかったら、自分は今ごろどうなっていただろう」とゾッとします。人には本当に恵まれましたね。
「意思決定」はあえて取りにいかない
──xenoBrainはここからまだまだ進化していくんですね。
 ええ。まずは「テクノロジーによる経済の分析」という部分を取りにいきたいですね。テクノロジーの発展には段階があると思うんです。第一に、情報を認知させるフェーズ。これはGoogleが検索でやりました。そこから情報の整理収集。これはまさにSPEEDAです。次に、そうした情報を基に分析するフェーズがあるはずです。
 ここが今、人力でやられていて、サービスの王者がいない。さらに次の意思決定のフェーズになると、すでに資産運用のエリアではAIファンドやロボアドのようなサービスがあります。
 ただ、世の中の人が事業戦略策定や融資における審査、M&Aやそのエグジットのタイミングなどをすべてテクノロジーにお任せで意思決定するのは、少なくとも10年以上先ではないかと僕はみています。だからまずは、ポジションの空いている「テクノロジーによる企業の分析」を押さえたい。
──意思決定の領域は狙わないんですか?
 意思決定まですべてテクノロジーにお任せの、いわゆるロボットが人を支配するような世界に近いエリアはまだ狙いません。遠すぎる未来ですからね。イノベーションは早すぎても周りの理解が追いつかなくて、市場がなかったりします。ですから、便利ですごければいいわけじゃないと思うんですよね。
 僕らは「テクノロジーで5年後の当たり前をつくる」というビジョンを掲げています。遠すぎず、近すぎずという意味で「5年」です。
 企業業績、業界需要、自然現象や金融政策など、ビジネスはある程度、経済的な将来動向が予測できないと立ちゆきません。
 まずは2022年までに「未来をのぞくならxenoBrainだよね」というところまで、何とか持っていきたいです。丸の内の大手企業、地方の中小企業、アジア、ウォール街──世界中のビジネスパーソンが意思決定する際、ないと競争に負けてしまう必須の「分析」提供ツール。xenoBrainをそんなふうに進化させていきたいですね。
(編集:中島洋一 構成:松本香織 インタビュー撮影:吉澤健太 デザイン:田中貴美恵)