ITエンジニアからコンサルタントという異色のキャリアパス

2019/6/19
日本HPで通信業界を担当するSEとして長年キャリアを歩んできた早川逸平氏は、ソフトウェア/システム開発の世界から一転、2008年にアクセンチュアに転職。金融業界向けのコンサルタントへと身を転じた。

なぜ、エンジニアからコンサルタントへと転身したのか。金融業界の知識やコンサルタント経験がないという高いハードルをどう乗り越えたのか。

エンジニアやIT人材こそ金融業界のコンサルタントとして重宝される。業界知識やコンサルタント経験はあるに越したことはないが、キャッチアップは可能である」と語る早川氏。その異色のキャリアチェンジストーリーを聞いた。

激動の通信業界、SEとして駆けた9年間

──早川さんはアクセンチュアに入社するまでは、長年、コンピューターメーカーのSEとして働いていました。
SE としてのキャリアは1999年にコンパックコンピュータ(2002年に日本HPと合併)に入社したところから始まりました。
当時はインターネットを活用したサービスの勃興期。
私は通信業界を担当し、WebシステムやEコマースのアプリケーション設計に加えて、ハードウェア設計やネットワーク構築などのシステムの基盤になる分野も担当していました。
また、通信業界が大きく動いていた時期でもあるので、電話番号をそのままに通信キャリアを乗り換える「ナンバーポータビリティ」の関連システムなど、世の中の先端を作っていく良い時期を過ごしたと思います。
2005年ころには、組織やシステムなどの標準化・全体最適化を進める「EA(エンタープライズアーキテクチャ)」やソフトウェアをサービスの集まりとして考える「SOA(サービスオリエンテッドアーキテクチャ)」に興味を持つように。
システムをゴリゴリ開発するよりも、システムの理想的なあり方やその実現方法など、システム開発の中でも上流工程に関心を持つようになりました。
そして「EAが面白い、クライアントにも展開したい」と夢中になっていた矢先、日本HPは事業の軸をハードウェアに振り始めます。
全社会議でグローバルの代表からその話を聞いたとき「私がやりたい方向性と少しズレてきたかな」と思い、転職活動をスタートさせました。

エンジニアからコンサルタントへの転身、不安はなかった

──そこで選んだのがアクセンチュアだったわけですが、なぜ同業界ではなくコンサルティングファームだったのでしょうか。
日本HP時代の最後に通信事業者向けにEAやSOAの手法を用いた「システムの将来図を描くコンサルティング」のような仕事を経験したことで、「EAの切り口でコンサルティングをやってみたい」という思いが芽生えたんです。
当時、EAやSOAの話題になるとよく名前が挙がっていた会社がアクセンチュア。
コンサルタント経験は全くありませんでしたが、転職活動をする過程で、その領域で先端の会社に行きたい思いが強くなり入社を決めました。33歳のときです。
──キャリアチェンジに不安はありませんでしたか?
わりと楽観的で、ITの知識があればなんとかなるかなと思っていたので、不安はありませんでした(笑)。
でも、コンサルタントがどんなアウトプットを出すのかを知らなかったし、配属された金融業界の知識もなかったので、入社からしばらくは苦労しました。
──「通信業界→金融業界」「SE→コンサルタント」……。かなりのキャリアチェンジで相当の苦労があったと思います。
アウトプットとして求められるものは、SEとコンサルタントでは違います。SEの場合はシステムなので分かりやすいけど、コンサルタントの場合は求められるものが千差万別なんですね。
コンサルタントは、ざっくりとしたクライアントの課題感から本質を見極めて関係者の合意を取り「営業体制はどうするのか」「既存システムでいいのか」などの構想を固めます。
そして、いくつも論点があるなかでゴールを設定し、そこに向かってどうアプローチしていくかを構成する。この基本的なプロセスを習得するまでには、ある程度の時間がかかりました。
ただ、私はもともとSEなので、クライアントのIT部門にいるエキスパートたちと会話することにはたけていたんです。勘所が分かっていて、エンジニアと会話できるのは私の強みとして存分に発揮できました。
昨今のさまざまなクライアントの課題解決においては、ITを活用しないということは考えにくいですから、SEとしてのバックボーンが生きたんです。

グローバルで情報やノウハウが行き交うカルチャー

──通信から金融という担当業界の変更も大きな壁だったと思います。
アクセンチュアには頑張る人をサポートする文化があり、これにはとても助けられました。
たとえば、クライアントから難しいお題をもらったとき、「この成果物が有効かもしれないよ」「あの人が詳しいからつなぐよ」と、支えてくれる。
グローバル全体でさまざまな情報やノウハウ、知見が行き交うカルチャーがあったから、業界知識もコンサルタント知識もない私でも、のめり込めたのだと思います。
──世界中のクライアントの課題解決方法や業界の最新の動きなどが、アクセンチュア内に集まっている。
そうなんです。グローバルでオープンコミュニケーションが活発なのは、アクセンチュアの良さ。
私は金融業界を担当していますが、製造業や流通業など違う業界を担当する人の話を聞いたり、テクノロジー部門の人から話を聞いたりすることで、視野はどんどん広がっていきました。
──そういうカルチャーがあったからこそ、大きなキャリアチェンジがかなったのですね。
そうだと思います。3年目、4年目を過ぎたあたりから、ロールプレイングゲームをしている感覚でした。
自分のレベルが上がると魔法(多様な人との人脈)が使えるようになって集団戦法ができるようになり、どう戦えばいいのかが見えてくる。続ければ続けるほど面白くなりましたね。
プロジェクトの成果も明確に数値化されるので、アクセンチュアは評価に関しても非常にフェア。公平にスキルや能力のある人が評価されるのは、とても健全で良いなと思っています。

大変革期の金融業界で、自分がその立役者になれる

──早川さんは証券会社を担当されていますが、業界の魅力は何でしょうか?
証券業界はビジネス・テクノロジー環境の変化を受けて、大きな変革期にあります。
だからこそ、我々に寄せられる期待も高く、チャレンジングな仕事や難しい仕事が多く存在します。戦略的なパートナーとして、その変革をお客様と一緒に考え・実行できるのは大きな魅力ではないでしょうか。
日本の証券会社が得意としてきた営業店での対面営業は、ネット専業証券の台頭や金融庁の指導により、かつてのような手数料収入をあげられず、採算の面で構造的な限界がきています。
加えて、ホールセール(機関投資家向け)領域では、競争の激化に加え、債券市場の冷え込みにより、稼ぎ頭だったトレーディングによる収益が落ち込んでいる。
収益の落ち込みは深刻で、今後数年はIT経費の削減に向けたチャレンジングな仕事が多くなると予測しています。
一方、アメリカの投資銀行勢はいち早くデジタルトランスフォーメーションに取り組み、収益拡大を続けています。
グローバルなネットワークを駆使した「富裕層向けサービス」の拡充に加えて、グローバル企業に対する海外M&A先の紹介や資金調達、関連銀行による資産管理サービスなどを提供。
アメリカ本社にいるCFOは、ワンストップで全てのお金の動きを見られるんです。
日本の銀行や証券会社も、グローバルで業績を上げていくような仕組みづくりをすべきで、そういった挑戦をお手伝いできる面白さもあります。
実際、日本企業は毎年18兆円前後の海外投資を続けており、そこから得られる利益も昨年10兆円を超えました。
海外企業のM&Aや、現地の店舗や工場建設が活発なわけですが、その大きなマーケットに日本の投資銀行部門が十分にリーチしきれていないのではと考えています。
課題がある一方でアプローチできていない部分に可能性を秘めている業界だからこそ、アクセンチュアが持つグローバルでの実績や知見を武器に、日本の証券業界の未来を変えていける確率が高い。
これが他にない大きな魅力だと思っています。

今の時代、コンサルタントに求められるのはIT知識

──業界が変わる中で、コンサルタントのあり方も変わっていきますか?
Fintech企業の台頭やブロックチェーンなどの技術革新により、金融業界のあり方や役割が変わろうとしています。
だから当然、既存のビジネスモデルに立脚した従来型のコンサルティングをしていたのでは通用しないし必要とされなくなる。
コンサルティングサービスの変化として実感しているのは、今後の変革のトリガーとなるIT技術を正確に理解して、将来像を描けるコンサルタントが必要不可欠になっていること。
クライアントからも最新のテクノロジーに強い人材を求められますし、もはや深い業務知識は必ずしも必須ではなくなっていると感じます。
社内でもデジタルトランスフォーメーションのプロジェクトはたくさんありますが、その先端にいるのはテクノロジーに強いコンサルタントです。
──今こそIT業界にいる人はキャリアチェンジしやすい、ということでしょうか?
そう思います。
証券業界でも、クライアントからは「RPAや自動化などで、どれだけ生産性は向上するのか」「クラウドをベースにITシステムを考えた場合、どんな将来像を描けるか」といった、ITに絡んだ問いがほとんどなので、知識がないと立ち行かないんです。
ITに関する知識があり、業界の動きをキャッチアップできて、現場のエンジニアと会話できる人(時には変革を説得できる人)は、ますます重宝されることになるでしょう。

アウトプットの適正な対価を得られる環境へ

──業界が大きく変わりコンサルタントに求められる知識が変わる中、SE出身の早川さんだから言えるエンジニアやIT 業界にいる人へのメッセージはありますか?
言葉を選ばずに言うと、人月単価で働いている人は危機感を持ったほうがいいと思います。
アジャイル開発プロセス、生産性の高い開発環境、テストの自動化、クラウド環境の活用などシステム開発の変化が進むなか、特に金融のレガシーなシステム/プロセスに立脚している人は、自分の市場価値を見直すべきだと思います。
本当に適正な対価をもらえているのか、と。
人月単価の仕事は、いくら自分が高いアウトプットを出しても報酬は変わりません。それよりも、自分のアウトプットによる対価をきちんと得られる環境に身を置いたほうがいいと私は考えます。
もちろん、それまでの延長線上にある新たな開発環境にチェンジする道もありますが、私のように「テクノロジー × ◯◯」でキャリアアップする道もあることを知ってほしい。
私がいる金融業界のコンサルタントは変化が大きい分チャンスも多く、そこにはエンジニアやIT知識を持つ人材が今とても多く求められています。
だからこそ、チャレンジすればするほど大きなリターンを得られる可能性がとても高いのです。
コンサルタント経験のない私がアクセンチュアで働けているのは、IT知識があり、エンジニアのエキスパートとも会話できる土台があったから。
最初は大変でしたが(笑)、一歩踏み出したことで本当に面白いと思える世界と出会えました。
自分を変えたい、チャレンジしてみたいと少しでも思うのであれば、コンサルタントへのキャリアチェンジを一つの選択肢として考えてみてはいかがでしょうか。
(取材:木村剛士、文:田村朋美、写真:森カズシゲ、デザイン:九喜洋介)