【介護】人が足りないなら、育てよう

2019/6/23
新たに就任した「U-30 」のプロピッカーが、“数字”をキーワードに捉える「令和の日本」。それぞれの専門分野について、若きエキスパートが考える現状や課題とは?
「介護の世界は可能性にあふれている!」とポジティブに発言し、それが事実であることを行動で示し続けている秋本可愛さん。その姿に最も刺激を受けているのは、実は介護業界の関係者かもしれません。本稿では、現在、急務となっている「介護人材の確保」に対する秋本さんたちのアクションを紹介します。

オリンピックの5年後に

2025年問題――。介護の世界では毎日のように耳にし、目に飛び込んでくる言葉です。
2025年とは、日本で一番人口が多い団塊の世代がこのころまでに後期高齢者(75歳以上)に達するとされる年。厚生労働省はこの節目の年の末までに約55万人、毎年6万人程度の介護人材を確保する必要があると公表しました(参照1)。
2000年に介護保険制度が施行された当時の介護職の人口は約55万人(参照2)。それから約20年たった現在、その人数は約190万人(2016年度)と、約3.4倍に増加しています(参照1)。
介護職といえば、離職率が高いというイメージを持つ方も多いと思いますが、介護職の離職率は16.2%(参照3)。同年の全産業離職率14.9%(参照4)と比べるとやや高い割合ではありますが、極端に高いというわけではありません。
着実に増加していて、離職者が特段多いわけでもない。それにもかかわらず急増する要介護者に対して、介護人材の供給はまるで追い付かず、現時点でも約7割の事業者が「従業員が不足している」と回答。介護人材の不足感は4年連続で増加しました(参照4)。

1時間単位の介護ボランティアも

人材確保に向けて、国は介護職員の処遇改善、介護の仕事のイメージアップや外国人材の受け入れなど、新規人材獲得や離職防止に向けて、さまざまな角度からの対策に取り組んでいます。民間事業者ならではの柔軟な発想から生まれたサービスも、介護の現場で次々に採用されています。
例えば、早番・日勤・遅番・夜勤といった「時間」区切りの働き方ではなく、送迎・入浴・食事の準備・清掃といった「業務」に特化した人材の確保を支援する「介護シェアリング」。介護施設で働きたい、ボランティアしたい人が1時間から介護に参加できる「スケッター」というサービスもあります。

人事担当者のスキルアップをサポート

それでもーー。少子高齢化が進み、どの業界でも人材獲得合戦が激化している中、全産業の有効求人倍率1.5倍に比べ、介護分野は全国平均3.72倍、中でも東京都の介護分野の有効求人倍率は6.36倍と非常に厳しい状況が続いています。
そんな状況のもと、「介護だから人が採れない」と介護業界に蔓延する諦めモードが思考停止を生み、採用難に拍車をかけているような気がします。現実的にも、介護業界は中小企業が多く、専任の人事担当者を置けておらず、目の前の人のケアが最優先で、採用は後回しにならざるを得なかったり、人材採用のスキルに乏しかったりと、人材確保のための人手も手段も持たない事業所が多いのです。
そこで私たちJoin for Kaigoは、人材不足の原因の一つは介護業界の体質にあるのではと考え、その根本的な解決に取り組むことにしました。
最初に手がけたのは、2017年10月にスタートさせた介護業界の人事に特化したプロジェクト「KAIGO HR」です。
これは各介護事業所の垣根を越えて採用担当者や経営者が集い、採用や定着についてともに学び、情報交換をしながら人材確保の実践力を磨く場です。業界団体や行政と連携して、人材採用についての意識改革を目的としたセミナーを開催し、これまで1000人以上が受講。それに続く個別の採用コンサルティングでは、支援したすべての企業が目標人数の採用を達成し、「介護でも採用できる」ことを実績をもって証明できました。
HRとはヒューマン・リソース、つまり「人材」の頭文字
また、採用実践力を高めるためのグループコンサルティングプログラム「KAIGO HR College」(3カ月・全6回)も開講しました。受講した経営者は、「採用について考えることで、事業、組織、スタッフについての考えが深まった」と、単に人材獲得法を学ぶだけでなく、介護事業そのものや施設運営にも好影響を与えられることを、参加者の声や変化から実感しています。
採用実践力を高めるためのグループコンサルティングプログラム「KAIGO HR College」の様子

介護に携わる人の成長を支える

株式会社パーソル総合研究所が行った「働く1万人の就業・成長定点調査2018」によると、介護職として働く人たちの成長志向は、他の職種と比べてもかなり高いことがわかりました。私が普段、直接関わっている若手の介護職の人の多くも、「目の前の人に役立ちたい」という思いが強く、ほとんどの人がまずは介護現場で3年を経て「介護福祉士」という国家資格の取得を目指しています。
ただ、多くの事業所は人材育成に適したスキルや環境を持ち合わせておらず、仮に「介護の世界で活躍したい」という人材を採用できてもその意欲をくみ、介護のプロに育てることに難しさを感じている事業所も少なくありません。
そんな問題を解決するために私たちは2013年に「KAIGO LEADERS」というコミュニティを作りました。コミュニティのビジョンは「2025年、介護のリーダーは日本のリーダーになる。」。介護職のほか、看護師、介護施設管理者、障害者支援施設のスタッフ、介護予防運動指導員など、さまざまな立場やバックグラウンドをもつメンバーが集まり、介護業界内外のトップランナーによる講演、プロジェクトの立ち上げ支援など、さまざまな教育プログラムを企画してきました。こうしたプログラムには延べ3000人以上が参加。昨年からは全国8カ所での展開を目指してまずは大阪でスタートし、今夏から名古屋、金沢での始動を予定しており、業界最大級のコミュニティへと成長しています。
東京で隔月開催されるKAIGO LEADERSの学びの場「PRESENT」の様子
昨年からは行政との連携により、介護職に就く人が無料で学べる環境づくりを実現しました。手始めとして、東京都文京区との協働事業で文京区在住・在勤の介護事業従事者向けの研修をスタートさせています。
こうした活動を通して私たちは、“介護”をキーワードに、多くの人が組織や立場を超えてつながり、ともに学びながら、数としての人材確保ではなく、一人ひとりが長く活躍できる環境づくりにも貢献していきたいと考えています。
文京区との協働事業として始めた研修の様子