[シカゴ 4日 ロイター] - トランプ米大統領が貿易を巡り中国などとの対立を深める中、米連邦準備理事会(FRB)当局者の間で、世界的な貿易戦争などに起因するリスクへの対応を迫られる可能性があるとの発言が広がりつつある。

FRBのパウエル議長は4日の講演で、貿易戦争が及ぼす影響をFRBは「緊密に注視」しており、「適切に行動する」と述べた。一方、FRBの金利水準は適切であるとの発言や、金利変更には「忍耐強く」対処するとの言及はなかった。

FRBは最近まで、貿易を巡る緊張はじきに和らぐと想定していたが、パウエル議長はこの日、「こうした問題がいつ、どのような形で解決するのかは分からない」と指摘。「労働市場が堅調で、インフレ率が上下両方向にわれわれの目標の2%に近い水準で推移する(景気)拡大を維持するために、FRBはこれまで通り、適切に行動する」と述べた。

前日にはセントルイス地区連銀のブラード総裁が、世界的な貿易を巡る緊張の高まりによる世界経済に対するリスク、および低調な米インフレを踏まえると、米利下げは「近く正当化」される可能性があるとの見方を示していた。

テンパスの外為市場担当者ジョン・ドイル氏は、「年内少なくとも1回の利下げに向けて市場の用意を整えるため、FRB当局者が同時にシグナルを送り始めた可能性がある」と指摘した。

パウエル議長の発言を受けて米2年債利回り<US2YT=RR>は若干低下し、1.88%前後で推移した。米短期金利先物はFRBが早ければ来月にも利下げに踏み切る可能性を示唆している。

FRBのクラリダ副議長は4日、CNBCに対し、FRBは政策金利について検討するにあたり、経済の状態を示す広範なデータとともに「市場のプライシング」も考慮すると発言した。ただ「市場のプライシングは上下するため、FRBはこれに縛られることはない」と述べた。

FRB当局者は米経済を巡り相反するシグナルを受け取っている。政府統計で今年の米経済の成長が示される一方、市場は今後の景気悪化のリスクを示唆している。

シカゴ地区連銀のエバンズ総裁は4日、CNBCで市場の利下げ観測について質問されると、「(市場は)経済指標の中に私自身がまだ見ていないものを見ている」可能性があると指摘。政策担当者は市場が発するシグナルに留意する必要があるとも述べた。

また、米金利は適切な水準にあるとの認識を示す一方、通商問題を巡る先行き不透明感やインフレ低迷によるリスクを注視する必要があると述べた。さらに、政策担当者は長期的により積極的なアプローチをとり、低金利を通じてインフレや経済活動を加速させることが望ましいかもしれないとの見方を示した。

FRBはこの日から2日間の日程で、学界や経済界などの関係者も招いてFRBの金融政策の枠組みについて討論会を開いている。

ゼロ金利下での緩和手段や物価目標の見直し、最大雇用の定義、市場との対話の有効性などについて話し合う。

パウエル議長は、金利とインフレ率が低水準にある中、将来的に景気が下向けば、FRBが景気支援に向け金利を再びゼロ%に引き下げ、債券買い入れなど「非伝統的」な手段を利用せざるを得なくなると指摘。「こうしたことは再び起こる」とし、「(金融)危機時に利用された手段を『非伝統的』と呼ぶのをやめる時が来た可能性がある。こうした手段は将来的に何らかの形で必要になる公算があることをわれわれは承知している」と述べた。

*内容を追加しました。