[東京 3日 ロイター] - 元日銀理事でみずほ総合研究所・エグゼクティブエコノミストの門間一夫氏は、マイナス圏で推移する日本の長期金利が一段と低下し、マイナス0.2%に近づく局面では、日銀がさらなる金利低下を許容するのか、消費者物価が目標の2%を超えるまでマネタリーベース(MB)の拡大継続を約束しているオーバーシュート型コミットメントを見直すのか難しい判断を迫られる、との見解を示した。インタビューは5月31日に行った。

世界経済の減速や米国の利下げ観測などを背景に、日本の長期金利はマイナス圏での推移を続け、3日の東京市場ではマイナス0.1%で取引されている。

日銀は、昨年7月に拡大した長期金利変動の容認レンジであるゼロ%を中心とした上下0.2%程度の範囲内にあるため問題はないとの立場。

だが、門間氏は、一段の長期金利低下は、日銀が「消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベース(MB)の拡大方針を継続する」としているオーバーシュート型コミットメントの維持に問題を生じさせる可能性があると指摘した。

MBの拡大持続には、日銀保有国債の償還額を上回る国債買い入れを続けていく必要があるが、長期金利をゼロ%程度に誘導するイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の下で、国債買い入れ額は減少。すでに足元のMBの前年比増加額は、3%程度の伸びにまで縮小している。

金利低下に歯止めをかけるため、一段の国債買い入れの減額を行えば、MBの「プラスを維持すること自体が難しくなってくる」と門間氏は言及。

長期金利が容認レンジの下限のマイナス0.2%に近づくような局面では「もっと金利が下がってもいいと考えるのか、オーバーシュート型コミットメントをあきらめていくのか、日銀は選択を迫られる」との見方を示した。

また、短期的な長期金利の変動とは別に、低金利状態を長く続けること自体が「かえって期待インフレ率を下げてしまうとの議論もある」と指摘。こうした議論は十分に検証されていないものの「そうした長期均衡のリスクは、間違いなくある」とし、景気が再び強まる局面では、物価が目標の2%に達していなくても「もう少し柔軟に経済情勢に応じて金利を上げられる仕組みを作ったほうがいい」と提唱した。

こうした観点からも、物価が2%を超えるまでMBの拡大を約束しているオーバーシュート型コミットメントについて「国債を買い続けるということであり、そうであれば金利はずっと上がらず、インフレ期待自体も生まれてこない」との問題提起を行った。

<年後半回復シナリオは不透明、対策は財政中心に>

米中貿易摩擦の激化に加え、トランプ米大統領がメキシコに制裁関税を課す計画を発表したことを受け、世界経済の先行き不透明感が一段と拡大する中、門間氏は「米中貿易摩擦の激化で、中国経済自体の雲行きが怪しくなっている」と予測。

年後半にも世界・日本経済が持ち直していくとする日銀の現行シナリオは「非常に不透明感が強い」とし、「どんどん景気が悪化していくわけではないが、横ばい状態が続く可能性がかなりある」と語った。

その上で景気が後退局面に入った場合の金融政策対応について「ここから先は小手先の修正と、それに伴うイメージ戦略くらいしかない」との見方を示した。

具体的には、1)柔軟に買い入れる現行方針のもとで、年間6兆円にこだわらないETF購入の拡大、2)物価動向に関連付けるなどフォワードガイダンスの強化、3)景気対策で財政拡大が行われる場合の金融緩和との相乗効果(ポリシーミックス)の強調──を挙げ、「この3点セットはいつでもできる」とした。

特にETF買い入れの拡大は「為替相場と株式相場はある程度連関しており、株式市場でリスクオフを止めることで、円高を止めることはある程度可能」とし、「(日銀は)やる価値はあると考えると思う」と語った。

もっとも、金融政策の限界が意識されている中で、今後の政策対応の中心は「政府債務残高が発散しているイメージを持たれないようにしながら、財政政策で対応するしかない」との見解を示した。

(伊藤純夫 木原麗花 編集:田巻一彦)