(ブルームバーグ): 書籍の売れ行きに着目すると、現代金融理論(MMT)がにわかに勢いづいた兆しがある。MMTは、自国通貨を持つ国の政府は通貨を無限に発行できるため財政赤字が大きくなっても問題はないという考えが中核となる非伝統的理論。これまでにウォール街や政界の一部から注目を集めていたが、このほど学問の世界でも幸先良いデビューを果たした。

MMTに関する初の教科書「マクロエコノミクス(原題)」は大学生を対象にしたもので600ページに及び、初回印刷分がロンドンでの出版パーティーから約2カ月で売り切れたと出版元のマクミランが明らかにした。同社は印刷部数を公表していないが、増刷を予定しているという。

この教科書は、ニューカッスル大学(オーストラリア)のビル・ミッチェル、マーティン・ワッツ両氏と、バード・カレッジ(米ニューヨーク州)のランダル・レイ氏の共著。

MMTはミッチェル、レイ両氏ほか数名が約30年かけて構築した理論だが、これまでほとんど無視されてきた。それが今年、「AOC」効果で一躍注目されるようになった。

アレクサンドリア・オカシオコルテス(AOC)下院議員(民主、ニューヨーク州)が気候変動問題に包括的に取り組む「グリーン・ニューディール法案」の資金を賄う方法としてMMTに言及したことが、注目度急上昇に大きな役割を果たした。同議員がこの教科書を手にして写った写真がソーシャルメディアで発信された。

マクミランは出版直後の売れ行きに勇気づけられるとしているが、経済学界内のMMTへの抵抗を踏まえると大学の授業で実際に使われるのは容易でなさそうだ。ラリー・サマーズ元米財務長官は、「重層的な誤りがある」とし「フリーランチ」を期待させるものだとしてMMTを批判。ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン教授も重量級のMMT反対派の一人だ。 

ただ、一部にはより同調的な評価もある。また、サマーズ、クルーグマン両氏を含むMMT反対派のエコノミストも、現在米国には財政赤字を出す余地があることには同意する。トランプ米大統領は、インフレ加速や債券市場からの資金逃避をもたらすことなく既にそれを実践している。2020年の大統領選挙で民主党の党指名を目指す候補者の一部も多額の予算を必要とする国民皆保険や大学授業料無償化といった政策を支持しており、MMTには追い風が吹きつつあるようだ。

原題:A 600-Page Textbook About Modern Monetary Theory Has Sold Out(抜粋)

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