「静かな絶望の人生」から脱却する

「多くの人が静かな絶望の人生を送っている」
これはヘンリー・デービッド・ソローの古典的名作『森の生活』のなかの有名な一節だ。住宅ローンの支払いやクレジットカードの借金を心配し、嫌な仕事を続ける日々から、いつになったら解放されるのだろうと思っている人は膨大な数にのぼる。
人は自分の仕事と人生の目的を一致させることを心から望んでいる。目的と意味に満ちた人生──それこそ誰もが求めていることだ。
そこで次のことが問題となる。あなたは自分の本当の目的を知っているか、そしてあなたの人生、仕事、そしてキャリアの中でそれを追求しているか。
ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の教授であり、シカゴにある由緒ある神の使徒教会の牧師補助の役目もつとめるニコラス・ピアース博士は、著書『目的の道(The Purpose Path)』で、人生の本当の目的を見極め、それを追求するための手引きを提供している。
この本の中心となるのは、ピアースが「勇気ある職選び」と呼ぶユニークなコンセプトだ。彼はこう指摘する。
勇気ある職選びの実践、すなわち意義のある人生を大胆に築くことは、誰にとっても欠かせないことだと私は信じている。

勇気ある職選びとは、単にどんな仕事を選ぶか、またどんなキャリアを追求するかというだけの問題ではないし、名声や富を得ること、あるいは人生における情熱の対象を見つけることたけに関するものでもない。

その中心にあるのは人生の本当の目的を見つけて、それを追求すること、そして一生の仕事が、日々の仕事に反映されることを確かめることなのだ。
ピアースによれば、次の5つの質問を自分に問うことによって、自分の人生の目的を仕事と一致させ、真の意味で一生の仕事を追求することができる。

1. 成功とは何か

成功の定義は人によって異なる。ある者は稼ぎ出す金額、または所有するもので成功を測るが、世界や周囲の人々にいい影響を与えることを成功の尺度とする人もいる。
一部には愛する人と過ごす時間を増やすことを成功と定義する人もいるが、彼らは仕事に費やす時間が長すぎて、あるいは週末に家に仕事を持ち帰ったりするため、自分が心から望む成功を達成する機会がない。
ワークライフバランスという考え方の代わりにピアースが提案するのは、全人生の統合を追求することだ。これは精神の自己と肉体の自己、そして職業上の自己、家族としての自己がすべて統合されている状態をいう。結局のところ、成功は自分の使命に忠実になるということなのだ。

2. 私は何者か

あなたは自分をどう思っているだろうか。あなたのアイデンティティは何か。あなたのアイデンティティを定義するものは、自分の肉体と頭だろうか。それともほかに何かがあるのだろうか。
ピアースによれば、人間という存在は身体と心をあわせたよりもはるかに大きい。個々の人間には、魂についてずっと長続きする永遠の何かがある。
根本的に必要なことは、自分が何を所有しているか、他人にどう見られているかとは無関係に、自分という人間を受け入れる方法を見つけ出すことだ。
あなたのアイデンティティはあなたの性格を決定する。そしてあなたが特定の性格を選ぶとき、あなたはそれに従うペルソナと価値システムを受け入れることになる。この自己発見は、職業上の勇気を示すために不可欠な前提条件だ。

3. 私はなぜここにいるのか

肉や骨よりも人間としての自分にとって重要なものがあるというのが本当なら、そして人は自分の周囲を取り巻く世界にある種の永続的な影響を与えるべきだということが本当なら、この地球上での私たちの存在は他人の生活の質にいくらかの関係があるはずだ。他人の存在が私たちの生活の質に何らかの影響を与えるように。
人は孤独な島ではないが、同時に私たち一人一人が他の人に利益をもたらすことができる方法はたくさんある。あなたが存在する独自の理由は何か、そしてそれをどうやって決めるのか。
例を考えてみよう。車に何のために使うかわからないパーツがあったとしたら、1000人の人に「このパーツは何のためにあると思いますか」と尋ねたりはしないだろう。代わりに、車を作った会社に質問するはずだ。同じように「なぜ自分はここにいるのか」という質問の答えは、万物の創造主に期待しよう。

4. 正しいレースに参加しているか

人にはそれぞれ走るべきレースがあり、成功への最も重要な鍵のひとつは、自分が正しいレースで走っていることを確かめることにある。あなたは他人がレース中に大喜びしているところを見るかもしれない。
しかし、彼らを模倣することで自分が同じ喜びを得ることになると思ってはいけない。あなたが自分の天職、すなわち自分だけに与えられた使命を追求するとき、あなたは人生で最大の喜びと充実感を得ることになるだろう。ここでこそ、あなたの価値観が実際に作用し始める。
自分がどんな価値を最も高く評価するかをはっきり理解していれば、自分が参加すべきレースかどうかがわかる。ここでは勇気が必要となる。なぜなら、両親や上司、配偶者、友人、隣人ではなく、自分のレースをしなければならないからだ。

5. 私はレースをうまく走っているか

自分のレースを走ることは、他人との競争ではない。自分の最高の自己との競争だ。
このレースでは、目的地は旅そのものほど重要ではない。あなたがレースでいい走りを見せてゴールすれば、あなたは勝利を収めたことになる。レースで成功する走りを獲得するには、自分で自分の正体を考え出し、その価値観が何であるかを理解し、そしてレースを走りながら自分の価値観を生きる必要がある。
投資銀行家になることにして、習慣的に他人をだまして自分の価値観に背くなら、あなたはレースでうまくいっているとはいえない。
インパクトがあっても、旅そのものが崩壊してしまっては意味がない。勇気ある職選びを行動で示すことは、どの道を選ぶかということだけでなく、道を歩むときの品位にも関係している。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Peter Economy/The Leadership Guy、翻訳:栗原紀子、写真:LeManna/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with Jeep.