[ロンドン 23日 ロイター] - ユーロ圏の経済成長が再び弱まってきた中で、市場では欧州中央銀行(ECB)が景気テコ入れのために可能な政策手段が取り沙汰されている。

政策金利を過去最低に引き下げ、大規模な債券買い入れも既に実施した後だけに、持ち札は限られるが、以下に示すようにいくつかの打つ手はなお存在する。

(1)ガイダンス変更とTLTROのセット

将来の政策金利の方向性を示すガイダンスの変更は、手軽に実行できる次の一手だとの見方が多い。

3月にECBが最短でも来年にまで先送りした利上げ開始のタイミングを、今後さらに遅らせるだろう。ただ市場はもはや向こう2年間利上げはないと見込んでいる以上、効果は限定的にとどまる恐れがある。実際、市場は利下げすら織り込み始めている。

このためガイダンス変更は、銀行向けの貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)とセットになりそうだ。

ECBは新たなTLTROを9月から開始する予定。まだ詳細は明らかにしておらず、より寛大な条件が必要かどうかを判断する時間は残っている。

(2)利下げと金利階層化

ECBは、マイナス0.4%になっている中銀預金金利が銀行にもたらす負担の一部を軽減するべきかどうか検討中。銀行の収益力が弱まると、金融政策が実体経済に円滑に波及しなくなりかねないからだ。

市場は、政策金利の階層化は利下げを含めたより大規模な緩和政策の一環として打ち出される場合のみ現実味があると受け止めている。

エコノミストによると利下げに動くには経済状況が相当悪化する必要があり、ある関係者はロイターに対して、まだECBが利下げを議論する段階には程遠いと語った。

しかし利下げを完全には否定できない。ニュージーランドとアイスランドは今月利下げを実施。オーストラリアが6月に追随する可能性があり、市場は米連邦準備理事会(FRB)の年内利下げも想定している。

(3)QE復活

ECBは成長と物価押し上げのためには使える手段は全て動員すると表明しており、その中には昨年末に打ち切ったばかりの債券買い入れ(量的緩和=QE)の復活も含まれる。

キャピタル・エコノミクスは来年中に再びQEが実施されると予想し、ABMアムロは新たな景気刺激策が打ち出されるならQEになる公算が大きいとみている。

もっともその前にはまずECBが、単一の発行体の流通残高に対する保有比率の上限ルールを引き上げる必要が出てくる。前回のQEを打ち切った段階で、現在の上限の33%に迫っていたからだ。

このルールはECBが債務再編の際に決定権を持たないようにするために設けられ、変更すると訴訟を起こされる恐れもある。

ABMアムロの金融市場調査責任者ニック・コウニス氏は「上限引き上げはECBにとって不快な状況をもたらしそうだが、代わりの方法がない点からすると、進んで実行するというのがわれわれの見解だ」と述べた。

(4)株式・不良債権の買い入れ

ECBは2016年、買い入れの適格条件を満たす国債が不足していたため、社債をQEの対象に加えた。今後のQEでは、株式も買い入れる可能性がある。

スイス国立銀行(中央銀行)は通貨準備資産多様化の一環として株式を購入し、日銀は金融緩和の一環として上場投資信託(ETF)を買っている。

ECBのデギンドス副総裁は4月、株式買い入れは議論しておらず、その効果には多くの疑問があると語った。

ジェフリーズの欧州金融エコノミスト、マルチェル・アレクサンドロビッチ氏は株式買い入れについて「実行可能で理屈には合っているが、難しいだろう」と話す。欧州の株式市場は比較小規模であり、ECBが買い入れれば特定銘柄を選別しているとの批判は免れないという。

TSロンバードのシニアエコノミスト、シュウェタ・シン氏は、銀行債の購入ができればECBにとって買い入れ対象がぐっと広がるとしながらも、ECBが担う銀行監督の役割に支障をきたすので、ほぼ不可能との見方を示した。

銀行不良債権の買い入れも、株式購入より効果は大きいものの、銀行債と同じように銀行監督機関の立場を難しくしてしまう。

(5)イールドカーブ・コントロール

さらなる景気刺激策の1つとして、長期金利の誘導水準を明示する手もある。

日銀は16年に長期金利をゼロ近辺で推移させると目標を設定。FRBのブレイナード理事は、将来の景気悪化局面でこの手段を検討すべきかどうか探っていきたいと話している。

ただUBPのポートフォリオマネジャー、モハメド・カズミ氏は、ECBが実施するのはもっと難しいと指摘。欧州の国債はドイツが基準となっている以上、長期金利の目標設定はドイツ国債が対象になるとはいえ、同国債は品薄状態だからだ。

ECBが加盟国の出資比率に応じて国債を買い入れるという今のルールを変えれば、他国の国債を政策ターゲットにできるが、今度は財政基盤がより弱い国を支援するのかとの批判にさらされることになるだろう。