【週末に学ぶ】「死のサイン」を見抜く、インド発の心電図ベンチャー
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医療の世界に新たな技術が紹介される時、即座に手放しに賞賛するのではなく、我々は注意してそれを見定めなければいけません。
良いコンセプトだと信じられて技術が生み出されても、臨床研究を行ってみると結果は全く逆だったということがしばしばあります。きちんと証明されるまでは、それが良いものなのかわからないのです。
また、医療ベンチャーが次々と立ち上がり技術開発に取り組む中で、重要なアウトカムを証明できなかったにもかかわらず代用のアウトカムを用いて誇大広告をし、販売し続ける企業も数多く存在します。
ビジネスにおける重要なアウトカムの1つは利潤ですから、広告が成功すればそれでいいのかもしれませんが、そこにビジネスと医療が結びつく危険性もあります。
医療における診断は、7割が問診と身体診察に依存します。例えば「心電図正常」の心筋梗塞があります。心電図は正常なのですから、医師がこの技術だけで診断をすれば、目の前で苦しむ患者さんは結果として心筋梗塞が見落とされ、命を落とす結果になります。紹介される技術がこのような「過信」による「誤診」を増やさないか、例えばそんな視点も重要かもしれません。
研修医の時代に、まさにそのような心筋梗塞の発見が遅れ、心臓専門医の上司が「患者の発するメッセージが全て。血液検査や心電図の所見に踊らされるな。」と若かった私を叱りつけたことがあります。その時の私の判断は、心電図が正常であることに依存しすぎていたのです。
目を逸らしてはいけない最も重要なことは、目の前の患者さんが手を差し伸べられ、救われること。医師の診断能力も、華々しい技術も、実際にそれが出来なければ意味はありません。
医療がより高度に複雑化していく中で、技術が一人歩きしないよう、大切なことから目を逸らさない力を、我々医師も患者も培っていかなければいけないのだと思います。心筋梗塞は誰もが知る、致命的で非常に緊急性の高い疾患です。心臓は血液を送り出すポンプですが、心臓自体を栄養する冠動脈というものがあり、3本ある冠動脈のいずれかが閉塞すると心筋梗塞になります。
いわゆる突然の胸痛というのが心筋梗塞の典型的な症状ですが、実は喉のあたりから臍のあたりまで様々なところに痛みを起こすため、様々な症状から心筋梗塞を疑わなければいけません。糖尿病のある方や、高齢者などでは痛みを訴えないことすらあり、問診と身体所見が非常に重要となります。
診断に最も重要なのは病歴や超音波を含めた身体所見ですが、客観的データとして心電図の他に採血によって心筋にダメージがあるかどうかを推定することができます。なぜ採血で判断できるかというと、心筋の壊死によって特定の酵素が血液中に放出されるからです。
実は私が研修医になった頃からすでに心電図の自動読影システムはあり、現在も多くの病院で自動判定は利用されています。もともと比較的精度の高いシステムであり、読影のサポートとして非常に助けになっています。記事にある、トライコグのAIを駆使した心電図読影がどの程度の精度で、従来のものとどの程度差が出るのかなどアップルウオッチで行われた大規模研究のように、リサーチとして発表していただきたいですね。
最近の記事ではAIを用いたビジネスのが増えてきており、あたかもAIを用いたから精度が高いという幻想にとらわれてしまいがちです。我々がやるべきことは変わらず、AIだろうがなんだろうがエビデンスベースの医療であり、統計学的な有用性を信頼しています。本当にこの医療の世界は、ブラック・ジャックのような天才医師だけではなくて、テクノロジーで進化していくんだなと感じることが増えています。
今回インタビューをしたトライコグは、100年の歴史をほこる心電図のデータをターゲットにして、世界中の人たちの死因になっている「心臓発作」を検知するサービスを展開しています。データを集めるために、専門医と人工知能が一緒に診断を積み重ねているプロセスなど、非常におもしろかった。
人工知能のアルゴリズム自体はどんどん汎用化していくなかで、医療のみならず、実社会のペインポイントを熟知したひとが、これから素晴らしいサービスを作っていくチャンスがある。そう実感できたインタビューでした。ぜひご一読ください。