「人と違う」を歓迎するチーム。「変わり者」が組織に化学反応を起こす

2019/6/4

世界最大級の総合コンサルティング企業のアクセンチュアは、同社が取り組んでいるCSR活動を通じて「就活アウトロー採用」や「ナルシスト採用」といった一風変わった採用方法も取り入れてきた。少し“ズレた”若者や自意識過剰な人材を積極採用するという嘘のような本当の話。外資系コンサルファームのイメージからは想像ができない。
この異色の採用をアクセンチュアに取り入れたのが、同社のセキュリティコンサルティング本部を統括する市川博久執行役員。コンサルティングファームにいながらコンサルタントに興味がなく、アウトソーシングや開発という、今でこそ主流ながら、当時は社内でも裏方であったビジネスに身を投じてきた“変わり者”は、個性的な人材の組み合わせが今後のビジネスには必要と説く。
その理由は何なのか。就活アウトロー採用やナルシスト採用をプロデュースするほか、全員がニートで取締役を務めるNEET株式会社を立ち上げるなど、“ズレた”若者の居場所を模索する活動に力を注ぐ若新雄純氏との対談で紐解く。
短絡的な就労支援に違和感
──アクセンチュアが「就活アウトロー採用」や「ナルシスト採用」といった、一見すると冗談のような方法に取り組んでいるのは、かなり意外でした。それを市川さんがリードしている、と。
市川 まぁ意外でしょうね。私が言うのもなんですが、アクセンチュアと聞くと、それなりに真面目な印象をみなさんお持ちでしょうから。別に不真面目な取り組みでは決してないんですが、かなり意外な印象はあるかもしれません。
──なぜ、アウトローな人材を採用するようになったのですか。
市川 10年ぐらい前からニートや引きこもりといった、いわゆる不安定就業の若者が増え、社会問題視され始めていましたよね。
 私も何かできないかと思い、本業の傍ら、アクセンチュアの企業市民活動の一つとして若い人材の就業力や起業力を強化する活動を始めたんです。
 履歴書の書き方を教えたり、ITの知識や技術を学べるセミナーをやったり。でも、やっていくうちに、何だかしっくりこなくなってきたんです。
──何が、しっくりこなかったのでしょうか。
市川 世間的には弱者と見られる彼らですが、接していくうちに必ずしもそうではないことを痛感しました。もちろん全員が全員ではありませんが、自らの意思でニートや引きこもりになった若者も多くいたのです。
 それは私たちが当たり前と思っているエスタブリッシュメント(社会に確立された制度・体制)に違和感があり、どうしても受け入れられない、乗りたくないという明確な意思表示でした。
 それに気づけなかった私は、支援者気取りの上から目線で「俺らがお前らのスキルを上げてやって、就職も斡旋してやる」といった姿勢に見えたかもしれません。だから私たちの試みは、自らそのような生き方を選んでいた彼らにはまったく響きませんでした。果たしてどんなサポートが適切かを悩んでいた矢先、若新さんと出会ったんです。
みんな違っていい。多様な人材を包括する場が必要
若新 「みんな違っていていいじゃん」というのが、僕の基本的な考えです。そもそも僕自身も会社に勤めるということに向かなくて、ずっとフリーで生きてきた”アウトロー”な人間ですから。だから、異端と呼ばれる若者の気持ちがよく分かるんです。
 ただ工夫さえすれば、そんな僕や一般的な視点で見た時に“ズレた”若者でも、世の中に居場所がつくれる。それもズレを矯正するのではなく、逆に生かすことで毎日楽しく生きることができるはずです。このことを伝えたくて、さまざまな活動をしています。
──その一環で、個性的な人材に特化した就活サイト「アウトロー/ナルシスト採用」を考案したんですね。
若新 そうなんです。自分自身の体験も含め、若者が考える就活や社会人になることへの疑問や違和感、気持ち悪さと向き合うとともに、ズレている若者でも就職し、エスタブリッシュメントな世の中で生きていけるような。
 そんなことを目的に企画したのが、アウトローやナルシストな人たちに特化した就活システムです。この仕組みを多くの企業に知ってもらい、採用してもらうように働きかけているんです。
「就活アウトロー採用」「ナルシスト採用」のウェブトップページ。「この下品さがいい」(若新さん)。「いい意味で、アクセンチュアの採用スタイルとはかけ離れているキービジュアル(笑)」(市川さん)
 実は別の会社に新規事業としてアイデアを提案していて、トライアルまで実施していたんです。たくさんの若者も集まっていたのに、短期的な収益性が見えづらいということで事業化に悩んでいました……。
 そんな時に市川さんと出会い、協力していただくことでスピンアウト。実際アクセンチュアの人材の中にも、この仕組みを経由して入社した方が何人もいるんですよ。
 これだけでなく、僕は一般社会に違和感がある若者が伸び伸びと生きられる社会づくりをテーマに取締役全員がニートな会社を設立したり、どこにでもいる普通の女子高生がまちづくりを楽しむ「鯖江市役所JK課」を発足させたり、さまざまな活動をプロデュースしています。
市川 「アウトロー/ナルシスト採用」は、アクセンチュアの採用スタイルとはまったく異なる試みでした。当然ですけど(笑)。
 でもやってみると、めちゃくちゃ応募がきたんです。これまでのアクセンチュアにはいない人材ではありましたが、特定分野のスキルはずば抜けている方ばかり。しかも、意外にも高学歴な応募者が多いんです。
若新 先ほど市川さんがおっしゃられたことに関連するのですが、僕たちの活動は別に弱者を救おうとか、スキルが足りない人をトレーニングしようとか、そういう考えは一切ないんです。
 本当は働きたい、頑張る気もある。ただ、今の「均質的な社会」に違和感があるし、迎合もしたくない。だから、何となくダラダラしている。そんな若者が能力を発揮できる場所、そしてそのような場所に行くことのできる入口をつくりたい。そう考えています。
世間に迎合したくないが、居場所がないのもイヤ
──若新さんは、ご自身がアウトローだとおっしゃっていましたが、どのような歩みを経て今に至ったのですか。
若新 僕がやっている活動に参加する若者と同じく、幼い頃から「自分はどこか他人とは違う。一般社会に適応できない」と感じていました。
 実際、一度だけ就活時期にインターンを経験したことがあるんですが、均質的な集団に身を置くのが辛くて、そのときに「やっぱり俺は会社勤めはムリだ」って確信しました。
「自分は一般的な就活生とは違うし、いわゆる今の世の中が定義している社会に自分を矯正してまで適合できない」と。
 ただその一方で、一人ぼっちで生きていくのは嫌だった。孤立したくない自分もいました。矛盾しているかもしれませんが、これが本音でした。
──社会に迎合したくないけれど、孤独はイヤ(笑)。
若新 寂しがり屋なんです、僕(笑)。だからズレていることは分かっているけど、世の中を無視することも、隔離されて生きていくことも嫌だったんです。
 認めてくれる仲間も欲しいし、自分が活躍できる場も欲しい。だから、あるがままの自分を矯正することなく、社会にフィットして居場所を確立するためにはどうしたらいいのか。そう考えるようになったんです。そしてそれができれば、こんな僕でも幸せな人生を送れるんじゃないか、と。
 そこで大学の研究所に居場所を見つけたり、自分一人の会社を興してみたり。今でこそノマドワーカー、フリーランスは市民権を得ましたが、当時は「社員が一人もいない会社なんて何もできないだろう」と、揶揄されたりもしました。僕のような生き方は認められていない時代でしたからね。
──そんな陰口や苦労を乗り越えた。
若新:ええ。もうひとつ、世の中に居場所を求めたのには別の理由がありました。「俺はアウトローだから、社会なんか関係ねえ。世の中が間違っているんだ」という考えが、僕には負け犬の遠吠えのように感じられたからです。
──エスタブリッシュメントとはズレていながらも、否定はせず融合する道を進んだ、と。
若新 はい。常に意識しているのはX JAPANのYOSHIKIさんです。
YOSHIKIが手本だった
──YOSHIKIさんですか?
若新 X Japanが世に出てきたとき、衝撃的だったそうです。これまで見たことがない、聴いたことがない奇抜な楽曲やルックスでしたよね。明らかに当時の日本人にとっては異色の存在だった。今日のテーマで言えば、「音楽アウトロー」に映ったと思います。
 僕が凄いと思ったのは、音楽も含め彼ら“らしさ”は一切妥協することなく、日本の音楽シーンに溶け込み、ど真ん中に躍り出て、エスタブリッシュメントからも認められていったことです。
──そして今若者にプロデュースしている取り組みを、当時のX Japanが音楽業界で行っていた、と。
若新 大袈裟に言えば、そういうことです。おそらく出てきた当初、エスタブリッシュメント側は、彼らの扱いをどうしようか躊躇したと思うんですよね。特に公共放送などは。彼らのことを否定するメディアもあったでしょう。
 でも、YOSHIKIさんたちはそのようなエスタブリッシュメントの意見を否定しませんでした。つっぱりもしなかった。「自分たちのロックはこうこうこうで、お前らの考えはクソだ」みたいな、他のロックバンドの多くが言いそうな発言をしていなかったんです。
 逆に歩み寄っていきましたよね。だからといって自分たちのスタイルは決して変えなかった。つまり、アウトローでありながら、エスタブリッシュメントとの対話を続けたていった感じです。
──その結果、日本を代表するアーティストとしてエスタブリッシュメントからも認められる存在になった
若新 ええ。注目すべきことは、彼らを受け入れたエスタブリッシュメント。特に紅白歌合戦への出演も含め、数多くの特集番組などを制作したNHKは、すごく柔軟性があると思いました。今まさに市川さんがやられていることです。
市川:今でこそ私と若新さんが社内で歩いていても何も言われませんが、以前のアクセンチュアであれば、完全にNGでした。若新さん、見た目がほら、ロン毛で金髪だから(笑)。
 ただ僕は若新さんの取り組みを評価していて、一緒に協業したかった。だから会社にわかってもらえるように、見た目や第一印象で判断されないように説得にはいろいろ工夫しましたよ。上司に提出する企画書に載っている若新さんの写真の髪色を、黒に加工したりね(笑)。
──マジですか?
市川 マジです(笑)。
若新:他の企業にも実験的なプロジェクトはたくさん提案していますが、「上が納得しない」との理由で通らないことはよくあります。そういった意味でも市川さんの存在やゲリラ的な行動力は(笑)、アクセンチュアにとっても、アウトローな若者にとっても、意義のあるものだと改めて感じています。
僕もアウトローだった
──なぜ市川さんは、そんな手間をかけてまで、若新さんのアイデアを採用したいと思われたのですか。
市川 私も、もともとエスタブリッシュメントなタイプではないからです。アウトローかどうかは分かりませんが、学生の頃はスポーツ選手か芸術家になりたいと思っていました。
 でも私は若新さんや就活アウトローで入社してきた者たちとは違い、就活のときに社会に適合するために、自分を「社会人」に矯正しました。
 若新さんの言葉を借りれば、均質的な世の中に迎合したわけです。だから正直しんどかったですよ。自分に嘘をつきながらの人生でしたから。でもそんな風に個人を抑圧し、合理的かつ効果的に結果を出すのが会社や社会であり、デキるビジネスパーソンだとも思っていました。
 そんな若き頃の思いを、若新さんとの出会いや、うちに次々と入ってくるアウトロー人材を見ているうちに、段々思い出してきたんですよね。
コンサルファームで「“上流コンサル”に興味なし」な変わり者
──なるほど、ご自身の体験がルーツにあったのですね。改めて冒頭の話に戻りますが、なぜ今、アウトローなのでしょう?
若新 詳しい説明は割愛しますが、マズローの欲求ピラミッド頂点にある「自己実現」の本来の意味について、多くの日本人が真剣に向き合うべき時代になったと、僕は考えています。欲しいものが手に入る。食べるものに困らず、社会インフラが整うなど、日本社会が成熟したことが理由でしょう。
 その結果「なぜ働くのか」といった哲学的な思想を、多くの若者が抱くようになったからだと僕は考えています。過去よりも現在の方がアウトローな人材が増えているんです。
市川 一方ビジネスの現場では、一昔前であれば「コスト削減」など課題は明確で、改善するには効率化を推し進めればいい。そのためにはどんな人が、どのような働き方をすればよいのか。解決策は明白でした。
 ところが最近のビジネスは、イノベーションなど、新しい価値やアイデアを生み出すことが求められている。不確実性の高いことを求められている。そんな時に、同じようなタイプの人材だけではだめなんです。異なる個性の集合体が新たな価値を生み出すと私は思っています。
 今の私のポジションで言えば、重要度がますます高まるセキュリティ分野においては、今お伝えしたことが顕著です。
 単純に安全・安心な環境をつくるといっても、高度化されたテクノロジーの世界でセキュリティ強度を高めるのは至難の業。高度で複雑なサイバーセキュリティの確保には、さまざまなスペシャリスト人材が必要です。
 だから私は異質なタレントを積極的に採用し、意見を尊重すると共に、互いのアイデアやスキルを有機的に融合させることで、さらなる価値をクライアントに提供することに力を入れているんです。セキュリティのスペシャリストって変わり者が本当に多い。言い換えれば、変わり者が必要なんです。
「答え、ソリューションはない」がこれからのマネジメント
──ただ、アウトロー社員のマネジメント。想像するだけで大変そうです。
市川 正直、めちゃくちゃしんどいですし、苦労しています。例えば時間軸。ビジネスですから、彼らが化学反応を起こすまで、ひたすら待っていることはできません。どのような環境にすればいち早く成果が出るのか。今はまだ模索中です。
 ただ、ある程度の期間は待つこと。彼らを自由にさせる環境やオポチュニティを設ける仕掛けを、こちらがつくる必要がある。このようなことが次第に分かってきました。
若新  私もこれまで多くのコミュニティをつくってきましたが、総じて言えることは、みな、ゆったりと落ち着ける居場所を求めていることです。
 そのような場を設けることで、市川さんのおっしゃっている新しいアイデアが出てくることも分かってきました。だから僕のマネジメントは「一緒に放置される」。アウトローを集める仕組みなどはつくりますが、集まった人たちと一緒に僕も放置される。何か聞かれても、答えを言うことはありません。
──「答えを言わない」マネジメントですか。
若新 言わないのではなく、言えない。日本のマネジメントって、限界にきていると思うんですよね。ドラッカー的なものは輸入されたものだし。とりあえず手法を導入しておけば大丈夫だろう的な。いわゆるソリューション型のマネジメントです。
 でも、僕らが考える本当のマネジメントって、ソリューションはもちろん、答えなんかないんですよ。ところが日本人はとかく答えを出すのが好きだから、例えば僕のやっている場づくりも「ダイアローグ」とか、ソリューションぽいものに名付けられてしまう。本当のマネジメントとは、答えの分からない、絶え間ない冒険のようなものだと僕は考えています。
市川 アウトローとエスタブリッシュメントを繋ぐことが私の役目であり、それをできるのは、両方を知っている自分しかいないと。
 実現したあかつきには、先に書いたような強いチームができるのはもちろんですが、そんなチームを他の部門、さらには別の企業にも伝搬していくことで日本全体がワクワクするような。そんな世の中を、今の活動を通じて実現できればと考えています。
 私の今のポジションで言えば、まずはこのセキュリティチームを異なる才能、アウトロー、変わり者が有機的に絡み合うチームにし、日本企業のセキュリティに貢献したい。マネジメント、正直しんどいですけど、がんばりますよ。
 なんだか世間が息苦しいなと感じている方、ぜひ私と一緒にチャレンジしましょう。あ、別にアウトローとかナルシストじゃないといけないわけじゃないですからね(笑)。新しい社会づくりに興味を持っている人はぜひ!
若新 市川さんみたいな、エスタブリッシュメントの中から実験できるリーダーはほんとに少ないと思います。でも、答えのないこれからの日本には絶対に必要です。
(取材・編集:木村剛士 構成:杉山忠義 撮影:北山宏一 デザイン:Seisakujo)