【ファーウェイCEO】米国と衝突する日は、必ず来ると思っていた

2019/5/24
「トランプ氏は偉大な大統領だ」──。
5月18日、中国・深セン。ファーウェイ本社坂田キャンパスのレセプションホールに入ると、荘厳なウクライナ建築様式の巨大な階段が現れた。
ファーウェイが世界中の顧客をもてなす、荘厳なレセプションホール(photo by Mitsufumi Ikeda)
その階段の袖、1階の右奥には、日本風の茶室がある。世界中からの顧客をもてなすために建てられたホールとあって、部屋によってさまざまな国の雰囲気が、驚くほど細かく再現されている。
14時20分。この茶室に入ると、そこにはファーウェイ創業者・任正非(レン・ジンフェイ)が、既に長いテーブルの真ん中に座っていたのだから驚いた。満を持して登場するかと思いきや、いきなり虚を突かれた格好だ。
こうして我々NewsPicksを含む日本のメディア5社と、日本の有識者4人を迎え入れたレンは、自らテーブルの端までスピーディに足を運び、一人一人と挨拶を交わしてゆく。そしてインタビューは始まった。
期せずしてインタビュー3日前の5月15日、アメリカでは、ファーウェイへの輸出を米企業に禁止するという、厳しい大統領令にトランプ氏が署名したばかり。
そうしたタイミングにあって、レンはストレートな質問にも正面から応じ、かつ自分の言葉で、抑揚を付けながら語った。
任正非(レン・ジンフェイ)ファーウェイ創業者CEO(photo by Mitsufumi Ikeda)
まるで中国映画を見ているかのような、独特の声色とジェスチャーだった。これが、売上高にして10兆円を超える、世界最強の未公開企業を一代で築いた男である。
その後、米グーグルがファーウェイとの協業を一時停止することや、英半導体設計会社アームまでもが取引停止することが報じられるなど、サプライヤーの対応表明で世界的な“ファーウェイショック”が急速に広がっている。
そうした事態が拡大する直前のインタビューではあるものの、昨年来、最もアメリカに「脅威」と見なされてきた男である。
ファーウェイの歴史をつむぎながら、約2時間にわたり発せられたレンの「生の言葉」は、初めて明かされた秘話を含め、貴重な内容になっているはずだ。

私が日本から学んだ「本質」

任正非 今日はようこそお越しくださいました。皆さまと交流できることを大変うれしく思います。ところで、皆さんはこの茶室に見覚えはありませんか?
レンが迎え入れてくれた、日本の雅叙園を模した茶室(photo by Mitsufumi Ikeda)
ここは、私の妻が、東京・目黒にある「雅叙園」内の喫茶店を気に入ったのがきっかけで作った茶室です。それを模した施設を作って、日本からの友人をもてなしたいと。
我が家は、娘も含めて皆日本が大好きなんです。娘が専攻した第二外国語は日本語ですし、家族は時間ができると日本に行って、ドラッグストアで買い物もすれば、ウォシュレットだけではなくトイレごと買って帰ることもあります(笑)。
なぜ、日本の経済はこれほど発展しているのでしょうか。それは、「買わずにはいられない物」を作るからだと思います。
中国の人々は、買い物をするために、わざわざ日本に足を運びます。同じような物は中国にもあるのに、なぜ日本製を選ぶのか。たとえ中国製の方が安いと言われても、です。
日本製が人々に与えるイメージは「品質」です。そして、その品質とは「顧客のニーズ」なのです。
ファーウェイが追求しているのは、成長速度でも何でもありません。この「顧客満足」だけです。顧客満足を追求し、責任を果たすこと。
例えば、古い設備が買われた際も、保守は必要です。今は5Gがあるから、過去の2G、3G、4Gの設備は保守しないというわけにはいかない。それでは、新興国の人々の暮らしを損ねてしまう。
日本は、工業製品で「軽い」「薄い」「短い」「小さい」を追求しています。ファーウェイはこれに学び、5G基地局の大きな設備を「小型化」する方法を考えてきました。
5G基地局の機能容量は4G基地局の20倍ですが、体積を4分の1〜3分の1にし、重さをわずか20kgに抑え、消費電力を10倍減らしました。さらに、その小ささゆえ、設置に鉄塔も必要なくなった。
つまり、世界中で「買わずにはいられない製品」にすることができたのです。