サンフランシスコ、市政府による「顔認識技術」利用を禁止する条例

2019/5/21
アメリカの都市で初めての動き
サンフランシスコ市が、市政府による顔認識技術の利用を禁止する条例を出した。アメリカの都市としては、初めての動きだ。
この条例は、市議会にあたる市の監理委員会の投票によって定められたもので、圧倒的な支持を受けて成立した。最近の顔認識技術の発達に不安を感じる人々は多いはずだが、市レベルでこうした条例が出てきたことには希望が持てる。
実はこの監理委員会は、数年前にはサンフランシスコ市の路上でのデリバリーロボットの利用を、事実上禁止したことがあった。
当時、海外や地元のスタートアップでデリバリーロボットを開発するところが次々と生まれ、そうした企業がテストの場としてサンフランシスコを選ぶことが多かった。シリコンバレーを背後に控え、先取の気質にあふれた町。しかも、路上には人が多く行き交い、その間をロボットが縫って走っていく様も絵になる。
そうして数々のロボット会社がサンフランシスコで、宣伝効果も狙った上でデリバリーロボットを走らせていたのだが、この監理委員会はその熱狂へあっさりと水をかけた。
ただでさえ混み合っているサンフランシスコの路上を、そんなものが走るのは危険だ、というのが理由だ。普通ならば地元の特質を生かして、新たなテクノロジーへのサポートぶりを誇示したいところだろうが、彼らはひどく「まとも」な決定を下したと思った。
「たぐいまれなる危険な技術」
今回の条例も、実はテクノロジーに深く触れているからこその判断だとも考えられる。
この条例案を提出したアーロン・ぺスキン委員は、顔認識技術が人々を監視する「たぐいまれなる危険な技術」と位置づけている。中国でウイグル族の人々がこれで監視されたり、アマゾンの顔認識技術が28人の連邦下院議員を間違って犯罪人と判断したりしたことなどを挙げている。
人々の自由を奪い、しかも技術の完成度が低いために危害を及ぼす可能性があることを指摘。条例は、人々の安全を守りつつ、監視国家へ走るのを阻止するために必要だと考えた。
ただし、これは市政府関連機関による利用を制限するもので、警察による利用などがその対象になる。
これだけでも市民の自由が保障される方向へと舵が取られたことを意味するものの、今や市民を監視するのは国家だけではない。消費者でもある市民は企業によって監視され、個人でもある市民は他の個人が監視する対象にもなる。
企業や個人による「監視」の行方
最近は、電車でスマホを利用していたり、道を歩きながらスマホを掲げていたりする人を目にすると、実はカメラがこちらへ向けられていて顔認識されているのではないかと危惧を抱くようになってしまった。
ビデオを利用した顔認識ならば、写真を撮影した時のようなシャッター音が聞こえるわけでもなく、対象となっている人物には認識されていることがわからない。その点では、コマーシャルな分野での規制やマナーは完全に遅れている。
また、企業が本格的にこの技術の利用に乗り出せば、店の中だけではなく、他の店や住宅の軒先を借りてカメラを設置したりして、人々をモニターし続けることも可能になる。
ひょっとすると、ちょっと小遣い稼ぎをしたい人々のスマホをクラウドソースして、監視ネットワークを作ったりすることもできるのではないかと思うのだが、どうだろう。
サンフランシスコ市の動きに感心する一方で、国家ではないもう一方の監視主体はどうなるのかと、やはり気が休まらない。
*本連載は毎週火曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、写真:peterhowell/iStock)