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【図解】1200人調査で分かった。将来性が高い人の「キャリア曲線」
2019/5/21
「教育→仕事→引退」という古いステージの生き方は通用しなくなる──。
ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏は、ベストセラー『ライフシフト』でそう示唆した。
そして、人生100年時代は、「生涯にもっと多くのステージを経験するようになる」と語った。
寿命が延び、年金などの社会保障に不安がある時代。一方で企業の寿命がどんどん短命になる中、60歳を超えてもやりがいを持って働くためには、一生1社で同じ仕事をする──とはいかないはずだ。
ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏は、ベストセラー『ライフシフト』でそう示唆した。
そして、人生100年時代は、「生涯にもっと多くのステージを経験するようになる」と語った。
寿命が延び、年金などの社会保障に不安がある時代。一方で企業の寿命がどんどん短命になる中、60歳を超えてもやりがいを持って働くためには、一生1社で同じ仕事をする──とはいかないはずだ。
時代の変化に合わせた、マルチなキャリアを柔軟に築けるかどうかが問われる。
では、どのようなタイミングで、どのようにキャリアをチェンジさせると、ミドル以降も明るい未来を感じながら働けるのか──。
リクルートワークス研究所が行った、35〜64歳のビジネスパーソン1200人を対象とした「キャリア曲線を描く調査」から、マルチステージ人生を歩む法則や秘訣について同研究所の豊田義博氏に聞いた。
では、どのようなタイミングで、どのようにキャリアをチェンジさせると、ミドル以降も明るい未来を感じながら働けるのか──。
リクルートワークス研究所が行った、35〜64歳のビジネスパーソン1200人を対象とした「キャリア曲線を描く調査」から、マルチステージ人生を歩む法則や秘訣について同研究所の豊田義博氏に聞いた。
働く人のキャリアは、経験していないことに取り組み、自身の幅を「広げる」時期と、ある分野やテーマなど、専門性を「深める」時期に分けることができます。
これまで多くの人は、新卒で会社に入ると、終身雇用のもと、自身の幅を広げる時期を長く続け、30代半ばから40代を迎えると、何らかの専門性を見いだし、その専門性を軸にキャリアを「深める」人が主流でした。
つまり、「広げる」から「深める」という大きなサイクルを回すキャリア曲線です。
しかし、テクノロジーが進展した今、この穏やかに「ワンサイクルを回すキャリア」からの離脱を余儀なくされています。
人生100年時代が幕を開け、「マルチサイクルでキャリアをデザインする時代」が本格化するのです。
リクルートワークス研究所は「平成時代」に10年以上働いてきた35歳から65歳までの1200人のビジネスパーソンに、自身はどのように「広げる」と「深める」を繰り返してきたのか、キャリア曲線を描いてもらいました。
働き始めてから現在までも仕事の状況を思い返して、時期ごとの「広げる」や「深める」の度合いや変化を、線の位置や曲がり方で表現してもらったのです。
キャリア曲線の動きは、「異動」「昇進」「転職」「出産」などの節目の出来事、「大切な人との出会い」「思い出に残る仕事」といった経験によって、その人のステージ(深める時期、広げる時期)が何段階にわたり変化したかを、表しています(ステージ数の上限は10としました)。
こうした1200人のキャリア曲線を調査したところ、以下のようなことが分かりました。
上記のように、多くの人はすでに「マルチステージなキャリア」を歩んでいるのです。
そして、キャリアの「深める」と「広げる」という変曲点に注目して分析すると、マルチステージ人生の様々な法則が見えてきます。
働く人が専門性を「深める」、「広める」という変曲点(転機)から5つのパターンに分類しました。
その上で、各タイプごとの「キャリア満足度」や、「キャリア展望」が開けているか、「学び習慣」はあるか、状況に応じて自身を変えることが出来る「しなやかマインドセット」のレベルはどうか、などを分析しました。
順に見ていきましょう。
タイプ1は働き始めてから現在まで、キャリアのすべてを「広げる」ゾーンで過ごしてきたタイプです。
短大・専門学校卒、女性、非正規雇用者の比率が高く、平均年収は、5タイプの中で最も低くなっています。
おそらく、自身の専門性をまだ見いだせず、それを一度も「深めた」経験がないと推察されます。
だからでしょうか、「キャリア満足」のスコアは大きくマイナスです。
職能を磨ききることが出来ず、色々な仕事を「広げて」くる一方だったため、自身の経験に満足していないのかもしれません。
なのにも関わらず、「キャリア展望」のスコアは平均をやや上回っています。
元来、将来に不安がないという「キャリア展望」の支えとなるのは、現在のキャリアに満足していることです。
でも、満足度が低いのにキャリア展望が高いというのは、ある意味矛盾しており、このタイプの方々はある意味、「根拠なき楽観」をしている可能性が高いとも受け取れます。
働き始めてからしばらくは「広げるゾーン」に滞在し、ある時期から「深めるゾーン」に移行していくタイプです。
我々は、このタイプⅡを昭和モデルの「ワンサイクル・キャリア」と仮説を立てました。しかし、平成の時代も多く存在していたようです。
このタイプは、平成時代の間に、1つの会社に勤め、順調にキャリアを積んできた人に多く、転職経験者が少ないのが特徴です。
これからも順調に行けるだろう、という意識が見受けられる一方で、自分のキャリアは自分で創るという「キャリア・オーナーシップ」意識が低く、そのベースとなる「学びスタイル」のスコアも高くありません。
したがって、今後、ビジネス環境の大きな変化に見舞われたら、厳しい状況に直面するかもしれません。現状のままでは、下のタイプⅢに移行するリスクもあります。
初期は「広げるゾーン」、転じて「深めるゾーン」へ移行し、後期に再び「広げるゾーン」に転じているタイプです。
現在、今までの経験とはまったく違う仕事を担当していて、「この先どうなっていくかわからない」とキャリア展望を失っているタイプによく見られます。
60~64歳の比率が高いのですが、30代、40代の人も多くいます。
「学びスタイル」スコアと「しなやかマインドセット(状況に応じて自身を変えることが出来る能力)」も低いことから、このタイプが将来への展望を失っている原因は、変化対応力に欠けることだと言えそうです。
「自分は変わることなどできない」という意識は、マルチサイクル時代には大きな障害となります。
自身で、「キャリア曲線」を描いてみて、もしこの形になったとしたら、そろそろ何か専門を「深める」時期に来ていると認識したほうが良いでしょう。
働き始めてから、ずっと「広げる」と「深める」を繰り返しているタイプで、約42%の人が該当した最大勢力になっています。
上の図版のように、「広げる」×「深める」を常に繰り返していくというパターンの人が多く見られます。
我々は、調査前は、このようなタイプは、人脈や変化に対する柔軟な姿勢など「変身力」が豊富で、将来のキャリア展望も開けているという仮説を立てていました。
実際、「学びスタイル」を確立している人の割合が高く、柔軟性や変化対応力もあると言えます。
しかし、「キャリア展望」のスコアは思ったほど高くはありませんでした。
すなわち、単に自身の能力を「広げる」ことと「深める」ことを繰り返すだけでは、将来の展望が開かれるとは言い難い。
では、何を足せば、将来の展望が開かれるかについては、後ほど、論じていきましょう。
いきなり「深める」からスタートしている、次世代型の可能性を秘めた超少数派タイプです。
初期に専門を深めたタイプⅤは、「キャリア展望」の点で他を凌駕しており、「キャリア満足」も「学びスタイル」も「しなやかマインドセット」も高くなっています。
ということは、マルチサイクル時代を歩む人の、一つのロールモデルとも言えそうです。
このタイプは、30~40代の男性が多く、平均年収もかなり高めです。
キャリアの初期から専門職・技術職の人が過半数を占めますが、ずっと深めっぱなしではなく、その後「広げるゾーン」へと移行するのが基本形で、転機の頻度も多くなっています(点線部分は様々なパターンが混在している)。
展望・満足のスコアが高い理由は、初期に自分のキャリアを自己決定し、専門を深めた経験から、その後、別の領域を広げたあとも、またそれを深めるコツを知っているからでしょう。
教訓1)キャリア初期に専門分野を深める
1200人のキャリア曲線調査の結果、「初期に専門を深めたタイプ」は、キャリア展望が高いという結果を得ました。
ただし、このタイプは高卒者が多く、大卒者だけで見ると、上の表(学歴別キャリア展望スコア)の右のように、必ずしも展望が高いとは言えないレベルにとどまっています。
その理由は、現状では、高卒者は現場や専門職での採用、大卒者は総合職採用でジョブローテーションを繰り返すという違いがあるからでしょう。
しかし、最近は大卒者の「職種別採用」や「部門別採用」など配属先を確約する会社も増えており、仕事に個人が紐づく「ジョブ型」のキャリアコースへの道は開かれています。
そして、この調査を見る限り、キャリアの最初の展望が開けやすいとも言えそうです。
では、なぜ「初期に専門を深める」とキャリア展望が開けるのか?
キャリア初期に専門を深めた人のキャリア展望が高い要因は、「仕事内容を自分で決められる」ことではなく、「仕事のやり方を自分で決められる」ことだと推察できます。
つまり、「自分なりに試行錯誤する」機会が、環境適応力を生んでいるのです。
その意味で、キャリア初期(新卒入社時)に、自分で物事を決められる、裁量の大きい仕事や職場を見つけることも大切です。
教訓2) 営業職の未来は明るい
営業職は新人にとって、つらい仕事の代表です。ノルマがあったり、お客さんから怒られたり……。実際、職種別の「生き生き」スコアは最低レベルです。
しかし、その一方「キャリア展望」スコアは最高の職種となっています。
では、なぜ営業職は、将来にわたってキャリア展望が開けやすいのでしょうか。
顧客接点業務は相手が人間だけに、基本、マニュアルがなく、新人でも個人の裁量や試行錯誤が不可欠な仕事だけに、普遍性のあるスキルが身につきやすいからと推察できます。
結果的に、将来の明るい展望につながりやすいのです。
教訓3) 師匠、ロールモデルを多く見つける
「影響を与えられた、師匠と言える人との出会い」は、個人のどのステージにおいても、キャリア展望が開かれるという上で効果的ですが、特に初期キャリアでは顕著に有効です。
師匠とは、社内の先輩や上司に限りません。
良い影響を受けた人として、学生時代の友人、お客さん、家族、恋人というケースも意外に多くあります。
では、なぜ師匠が必要なのか? その1つの要素は、人は自分1人で自分を振り返って内省するのは難しく、人との対話を通じて、自分の課題に気づくことができるからです。
若いうちは特に、「この人だ!」と思った人に弟子入りしやすい時期です。そのためには、師匠を見つける機会を増やす工夫をすることと、相手の懐に飛び込む勇気が求められます。
教訓4)「内省型」と「対人型」の学びが重要
ビジネスパーソンの学びには、上のように4つの種類があります。
なかでも、キャリアの初期に、上司や先輩などと、仕事がうまくいった理由、いかなかった理由などについて会話しながら、振り返る習慣を持った人は、その後、様々な学び行動をするという結果が出ています。
また、仕事をする上でPDCAを回す(「Plan(計画)」、「Do(実行)」、「Check(評価)」、「Action(改善)」)という経験型の学習は、創造的な学びにつながります。
このような学びが、個人のキャリア展望をつくるのです。
他方、「学校型の学び」をキャリアの初期に体験すると、その後も「学校型の学び」しか繰り返せなくなる、という傾向が見られます(上記図版参照)。
セミナーや社会人大学院などをハシゴするタイプによく見られる現象です。
こうした人は、「自分はたくさん学んでいる」という自覚はあっても、その学びをどう自分の仕事に接続させるかというPDCAや振り返り(内省)がない場合、行動の変化につながりません。
大人は、学校に行くことが目的化しないようにする、注意が必要です。
教訓4)転機の回数だけでは展望は開けない
1200人のキャリア曲線を分析した結果、異動や転職などの「転機」が多いと、「キャリア展望」も高くなるという傾向を見いだしました。
なぜなら、その転機が、学びや内なる変化を誘発するからです。
具体的には、転機によって「働く価値の再発見」「仕事以外の価値の発見」「新しいテーマの発見」という変化が誘発されます。
つまり、転機自体ではなく、このような変化こそが将来の展望を開いているということです。
教訓5) 仕事の価値や意義を発見する
一口に転機といっても、転職、昇進、異動、結婚、親の介護など、様々なものがあります。
では、どのような転機を持った人が、キャリア展望が一番高かったのでしょうか。
結論から言うと、社外の人と共同作業をしたり、影響を与えられる重要な人と出会ったりすることで、「仕事の価値や意味の深化」をした人でした。
つまり、自分なりに仕事のやり方などに「気づいた」という転機です。こういう「発見」があって、初めて展望は開けるということです。
では、仕事の価値・意味に目覚めるには?
必要なことは、自分なりに試行錯誤して学ぶことです
仕事の価値を再発見するためには、仕事のやり方が出来る環境の中で、自分なりの試行錯誤の仕方を身につけるというメタ学習が必要です。
30年以上、生きていれば誰でも多くの試行錯誤をしていますが、目の前の仕事に追われて、仕事の意味や、自分はどういう人かを、自覚していない人が多いのです。自分を内省する機会を作ることも大切です。
教訓6)心が騒いだら、旅に出る
1200人調査の結果、ライフシフト(人生の変化)を経験した人の多くは、「心が騒ぐ→旅に出る→自分と出会う→学びつくす→主人公になる」という5つのステージを経験していることが分かりました。
つまり、現状に違和感を覚えたときは、旅に出て、自分を再発見する経験をしていることが多いのです。
もっとも、現実に多くの人は、目の前の仕事に追われ、心が騒いでも旅に出られないのが実情です。そうした場合は、メンターやキャリアカウンセラーに自分の話を聞いてもらうだけでもいい。
いずれにしても、行き詰まったとき、キャリア展望を明るくするには、自己の再発見が欠かせないということです。
教訓7) 役割を幅広く経験する
上の表にあるように、すべての人が、働く上で、なんらかの役割を担っています。
各人がこの役割を認識しながら働くことが大切ですが、ミドル・シニアは3割弱の人が自分の役割を認識していません。
一方、多くの役割を経験している=役割多様性の高い人は、キャリア展望もキャリア満足もスコアが高いことがわかりました。
新たな役割を得ると、新たな発見という学びがあるからです。
特に役割多様性の高い人たちの特徴は、一つのステージ(時期)に、「マネジャーでありながら、フロントランナーでもある」などと、同時に複数の役割を担っていることです。
このように、キャリアを通して複数の役割を担うことは、経験から学ぶことに直結し、いきおい、将来のキャリア展望が開かれやすいと言えます。
では、どう役割を広げればいいか?
その時、その時の自分の役割を自分でデザインすることが重要です。
キャリア展望が高い人は、役割を与えられるだけではなく、積極的に取りに行く人もいます。そのためには、“手挙げ”が何よりも大切です。
また、役割は本業だけでなく、副業など社内外のボランティア活動や趣味の活動でも得られます。これら本業以外の役割から学ぶことも多くあります。
教訓8) 学び行動を組み合わせる
自身のレパートリーを広げるために、時期に合わせて適切な学び行動を自覚することが大切です。
多くの人は、経験学習ばかりを続けがちですが、転機が訪れた時は学校型学習、対人型学習、内省型学習を組み合わせたりしながら次のステージに行くと良いでしょう。
特に、社会の変化が激しいとき、ギャップが生じたときは、多様な学習をすることで、自身を再び良好な状態に導くよう「学び続け」ることができるかどうかが問われます。
教訓9) 越境体験をする
越境とは何か? 一言で言うと、ホームから離れて、アウェイへ行くことです。
社外の講座や学校に通ってみると、仮に学びがなかったとしても、通ったという行為が「越境体験」という資産になります。
他に、副業をする、地域のボランティア活動に参加するなどの越境体験は、自分なりの旅に出ることになり、そこで自分自身と出会うことも意外によくあることです。
試行錯誤も必要になる越境体験は、キャリア展望を開くうえで非常に意義があります。
教訓10) 今のコンディションを意識する
専門を深めることに飽きた、停滞感があると思ったとき、多くの人は楽に仕事を流しています。
もし、仕事に違和感がある、心が騒ぐと感じたら、働き方を変える、場所を変える、新しい役割を得るなど、何らかの策を講じるべきです。
このように、自身のコンディションを常に確認し、自覚することが、自分で自分のキャリアを形成していくことの原点だと言えるでしょう。
(取材・文:佐藤留美、栗原昇、デザイン:九喜洋介、図版出典:リクルートワークス研究所 『Works Report 2019 マルチサイクル・デザインの時代』)
この連載について
ニューズピックスとNHK「クローズアップ現代+」の共同企画。人手不足が続くなか、政府は一億総活躍社会を目指して「働き方改革」を推進し、ビジネスパーソンの生産性の向上と自立を促している。また、グローバル化とテクノロジーの進化により、企業が従業員の終身雇用を保障することも、困難になりつつある。そこで、NewsPicksと「クローズアップ現代+」では、予測不可能な時代をサバイブするキャリア戦略について、深掘りしていく。
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