【平井卓也】「デジタル行政」次世代の社会の基盤を作る

2019/5/25
高齢化社会でのデジタル活用
私は、令和の初日、5月1日から6日まで、IT・科学技術・宇宙担当大臣としてアメリカ・ヨーロッパに出張し、様々な要人と会談を行った。
意外だったのは、アメリカでもヨーロッパでも、日本が抱えている高齢化という社会課題、そして日本がそれをどう解決していくかということに非常に高い関心が示されたことだ。
高齢化は日本だけの問題ではない。ヨーロッパを始め多くの国々も高齢化で日本の後を追っており、この先頭に立っている日本が高齢化の社会モデルをどのようにつくっていくのかに注目している。現在、我が国は「Society5.0」という目標を掲げ、社会的課題の解決と経済発展とを両立する、新たな社会の構築に向けて取り組んでいるが、この課題先進国たる日本のチャレンジに世界が注目しているのである。
もう一点、出張中に米欧の方々とも認識を同じくし、共感を得たのは、「人間中心」という考え方だ。
高齢化とデジタル化が進む中で、デジタルネイティブな若者から、デジタルが不得手な高齢者などの方々までが、美しく調和した社会、デジタル技術が前提になるからこそ機械任せではなく人間中心で人に優しい社会、まさに「beautiful harmony」な社会をつくることが、きわめて重要となってくる。
今回の出張で改めて認識したが、令和という新しい時代において、自分がIT・科学技術大臣として取り組まなければならないのは、つぎの2つだと考えている。
1つ目は、今の社会を人間中心のデジタル社会へスムーズに移行させていくこと。2つ目は、次世代を担う若い人たちの潜在能力を解放していくこと。
つまり、若い方々がデジタル社会の中で、新しいイノベーションを起こしつつ、高齢者の方々も含め、全ての国民がデジタル技術の恩恵を受けることができる、新しく活力のある社会をつくっていかなければならない、ということだ。
2つ目については、これまでの連載で述べてきた。
前置きが長くなったが、今回は1点目の取り組みの例として、私がIT政策担当大臣としてとりまとめ、今通常国会で成立した「デジタル手続法」について紹介したい。
行政手続きのオンライン化
皆さんは、役所の手続に対してどういう印象をお持ちだろうか。個人であれば、引っ越しの際の住所変更手続、確定申告、戸籍謄抄本の取り寄せ、パスポートの申請・更新……。企業であれば、法人の設立登記、従業員の社会保険料の納付、特許の出願など。
我々の生活は多くの手続に囲まれている。しかしながら、行政手続に対するイメージは、次のようなものではないだろうか。「煩雑で」、「ややこしく」、「不便」。申請書に何度も同じ内容を書かされる、複数の添付書類を求められる、そもそも何を申請すればいいのか分からない。土日には役所が開いていないので、わざわざ有給休暇をとって平日に手続を行うという方もいるだろう。
Photo:iStock/monzenmachi
他方で、我々のライフスタイルは急速に変化している。生活の中で、デジタル技術に触れない日はないだろう。現在、75%の世帯がスマートフォンを所有し、70%以上がSNSを利用していると言われる。世界最高水準のネットワークインフラの確立や電子商取引の促進、行政のIT化を目指したIT基本法が制定されたのが2000年だが、当時と比較しても、現在の社会は、もはや従来の行政が想定していたものとは異なる前提の上に成り立っていると言っていい。
こうした社会の急速な変化に対応するためには、行政の在り方もデジタル技術を前提としたものにつくり変えていかなければならない。このような考えの下、政府では昨年から「デジタル手続法」の検討を進めてきた。
法律の骨子は行政手続の原則オンライン化だ。従来、紙での手続が原則とされてきた行政手続を、原則オンラインへと大きく転換する。24時間365日、役所へ出向くことなく、行政手続をスマホやPCで行うことができるようにする。
デジタル化に当たっての3原則も明記した。
1つ目は「デジタルファースト」。手続やサービスは、デジタルで完結させるという原則だ。次に「ワンスオンリー」。情報の登録は一度きりとし、何度も同じ情報を入力させることをやめる。住民票の写しや登記事項証明書など、行政が保有している添付書類は行政機関内で情報連携し、申請者からの提出を不要とするというのも、この原則のスコープ内だ。最後に、「コネクテッド・ワンストップ」。行政手続はもちろんのこと、関連する民間の手続も含めてワンストップで行うことができるようにする。これについては、明日、官民連携のデジタル化の具体例として、政府で検討を進めている引越し手続の例を紹介したい。
手続のオンライン化だけではない。
法律には、情報システム整備計画の策定を政府に義務付けるとともに、データの標準化やクラウド技術の活用、業務改革(BPR)の推進など、情報システムの整備や行政内部のデジタル化に関する規定も盛り込んでいる。さらに、府省の縦割りを排し、政府横断的なシステム整備を可能とするため、政府情報システムの予算・調達を内閣官房に一元化するための規定も盛り込んだ。
これらの取り組みは一時的には投資を必要とするものの、長期的にはシステムの運用経費や改修費用を抑制し、情報システム予算のコストダウンを実現することができる。今後、府省の縦割りを越えて、国民の利便性の高いものから戦略的・効率的にデジタル化を進めつつ、デジタル化のコストパフォーマンスが低いものやデジタル化が馴染まない一部の手続きについても業務改革(BPR)を徹底することができるよう、IT担当大臣としてリーダシップを発揮して取り組んでいく。
IT戦略本部の会議に参加する平井大臣(首相官邸にて)
全ての国民が恩恵を受けるために
一点、決して誤解してはいけないのは、デジタル化そのものを目的にしてはならない、ということだ。
デジタル技術はあくまでツール。本当に実現しなければならないのは、行政サービスを、利用者にとってより便利なものにするということだ。今の行政手続は「煩雑で」、「ややこしく」、「不便」なものかもしれないが、デジタル技術によって、これを「すぐ使えて」、「簡単で」、「便利」なものにすること、これが法律の一番の目的だ。
したがって、冒頭でも述べたが、全ての国民がデジタル技術の恩恵を受けられるようにすることが重要だ。
「これまでは窓口で職員が対応してくれたのにそういったサポートが受けられなくなる」「スマホやPCは苦手。どうやって手続を行えばいいのか」と懸念される方もいるかもしれない。
しかし、これは大きな誤解であって、こういった方々にこそ、便利な行政サービスを届けなければならない。デジタル技術に精通したアドバイザーが手続の支援をする、だれでも容易に操作できるように申請画面をシンプルで使いやすいものにする。
また、行政手続のオンライン申請に限らず、日常生活も含めた様々な場面で、高齢者や障がい者の方々が、スマホやタブレットといった機器を利活用し、デジタル化による利便性を享受できるよう、高齢者などが身近な人に身近な場所で相談できる環境として「デジタル活用支援員」という支援の仕組みについても、総務省において検討が進められている。こうした取り組みによって、全ての国民がデジタル化の恩恵を受けられるようにしていく。
平成が終わり、令和という新しい時代に入った。これから先の社会の変化は、我々が考えている以上に速く、そして大きなものになるだろう。令和の時代を担う新しい世代の方々が活躍できるよう、変化に柔軟に対応し、進化していく社会基盤を整えることが、私も含め、政治・行政の使命だと考えている。
デジタル手続法は、紙からデジタルへと行政のマインドセットを転換し、このような次世代の社会基盤となる「デジタル行政」を目指すもの。誰もが豊かで安心して暮らせる社会を実現し、次の世代に残せるよう取り組んでいきたい。
(デザイン:田中貴美恵)
Photo:iStock/Yagi-Studio