ソーシャルメディア大手のフェイスブックは、謎めいたブロックチェーン・プロジェクトのために、複数のペイパル出身者を雇用している。

決済機能統合への「遠大な野望」

フェイスブックは2018年5月、ブロックチェーン部門を立ち上げた。その内情はまだ謎に包まれているが、同部門について詳しい情報筋によれば、同部門は人員の増強を進めているという。
同部門は、一種の仮想通貨の開発に取り組んでおり、これについてはブルームバーグがすでに報じているが、早ければ次四半期にもその成果が発表される可能性があると情報筋は話している。
フェイスブックのブロックチェーン部門には、現在50名の人員が配置されている。そのうちのかなりの数(およそ5人に1人)は、あるひとつの企業に所属していた──ペイパル・ホールディングスだ。
この「疑似同窓会」のような状況は、同部門の中心人物でペイパルの元社長でもあるデビッド・マーカスが導いたものだ。自社プラットフォームに決済を統合しようとするフェイスブックの遠大な野望を表す最新の徴候でもある。
ソーシャルネットワーク大手のフェイスブックは、ブロックチェーンチームに関する情報を厳重にガードしている。そうしたことから、このプロジェクトについてブルームバーグが取材した複数の人物は、身元を明らかにしないことを求めた。フェイスブックは、同チームの組織や計画に関するコメントを拒んだ。
フェイスブックの消息筋によれば、同社のブロックチェーン部門が開発しているのは、ステーブルコインと呼ばれるデジタル通貨。米ドルや通貨バスケットにペッグしているため、価格が変動しにくい通貨だ。
この新通貨を最初にテストする国は、インドになると報じられている。フェイスブックにとってインドは、拡大の余地があり、とくに魅力的な地域だ。この新通貨が実用化されれば、ユーザーがステーブルコインを使って「ワッツアップ(WhatsApp)」経由で送金できるようになるかもしれない。
フェイスブックはすでにインドで「ワッツアップ・ペイ(WhatsApp Pay)」と呼ばれるサービスを通じた定期的決済をテストしている。
フェイスブックの開発者会議でマーク・ザッカーバーグが語ったところによれば、同社は遠くないうちに、ワッツアップによる決済をほかの国にも拡大するつもりだという。送金とプライベートコマースは「私をとくに奮い立たせるビジョンの一部だ」と、ザッカーバーグは基調講演で語っている。

ペイパルのベテラン勢を迎え入れ

マーカスは2014年にペイパルを離れ、「フェイスブック・メッセンジャー(Facebook Messenger)」の責任者としてフェイスブックに加わった。
メッセンジャー部門では、収益化を目指す初期の取り組みの先頭に立ち、同サービスを独立したアプリへと導くのに貢献した。メッセンジャーはいまや10億人を超えるユーザーを擁し、「M」と呼ばれる人工知能アシスタントも打ち出した(ただしMは、本格的にリリースされる前に打ち切られた)。
マーカスは2018年5月にメッセンジャーを離れて、「フェイスブックでブロックチェーンを活用する最善の方法をゼロから探るために、少人数のグループを立ち上げる」とする声明を発表していた。
すぐにマーカスは、フェイスブックの新グループに、ペイパルのベテランたちを迎え入れた。
最初に加わったメンバーのひとりが、マーケティング責任者のクリスティーナ・スメドレーだ。ブロックチェーン部門の最終的な成果物のパッケージングに関しては、スメドレーが重要な役割を果たすことになるだろうと情報筋は述べている。
スメドレーは、ペイパルのグローバルブランド・コミュニケーション部門のバイスプレジデントとしてマーカスに雇用され、のちにマーカス率いるフェイスブック・メッセンジャーに加わった。
フェイスブックはここ最近、広報やプライバシーに関する問題を抱えている。また、世間には仮想通貨に対する疑念も残っている。
そうした状況でもなお、フェイスブックを信頼して金銭面を委ねるようにユーザーを説得することが、アマゾンとPR会社エデルマンでコミュニケーション分野の経験を積んだスメドレーの役目になりそうだ。

「ペイパル・マフィア」の活躍

トマー・バレルも、ブロックチェーン部門に最初に加わったメンバーのひとりだ。バレルは、ペイパルで10年近くにわたってリスクと詐欺のモニタリングに携わり、上級幹部にまで昇進した。
さらに、ほぼ20年にわたってペイパルとその元親会社イーベイで働いたジョン・ミュラーも加わっている。フェイスブックの消息筋によれば、ミュラーはブロックチェーン部門の法務責任者になるという。
まだ生まれて間もない仮想通貨市場については、今後も規制が変化し、発展していくと見込まれることから、ミュラーの仕事は特に困難なものになるかもしれない。
2000年代半ばに生まれた「ペイパル・マフィア」という言葉は、ペイパルの創業メンバーたちによるその後の目覚ましい成功を表す表現だ。このペイパル・マフィアには、イーロン・マスク、リード・ホフマン、ピーター・ティールなどの、いまやテック業界の顔になった有名人も含まれている。
フェイスブックのブロックチェーン部門では、それよりは小規模ながら、第二のペイパル・マフィアが形成されつつあると言えるかもしれない。
フェイスブックのブロックチェーン部門には、ペイパルの製品担当ディレクターとしてマーカスとともに製品管理に携わったミーロン・コルベチや、ペイパルでグローバル・ピアツーピア決済を担当していたネイト・ゴンザレスも加わっている。
情報筋によれば、2018年10月のゴンザレスの採用に関しては、コルベチとスメドレーの力添えがあったという。

ベールの向こうに複数の選択肢

だが、人員を増強しているとはいえ、ブロックチェーン部門はまだ立ち上げられたばかりだ。
従来の決済の枠を越え、ブロックチェーンベースのステーブルコインによる送金を導入するのは、フェイスブックにとってはきわめて大きな変化だ。金融業界と小売業界にも広範な影響を及ぼす可能性がある。
このプロジェクトをめぐる最近の『ウォールストリート・ジャーナル』の記事では、フェイスブック仮想通貨のより広い展開について伝えられている。
とはいえ、フェイスブックがまだしばらくはこのタイプの製品のリリースに至らない可能性もあると、同社の消息筋は釘を刺している。
サンフォード・C・バーンスタインの決済アナリスト、ハーシタ・ラワットは「フェイスブックの計画については、まだはっきりしたところはわからない。しかし長期的には、フェイスブック内に一種のマーケットプレイスモデルを構築することを視野に入れているように見える」と語る。
ラワットによれば、国際送金ではとくに非効率が蔓延していることから、仮想通貨の導入に最適な分野となる可能性があるという。
フェイスブックは「決済業界に関する深い知識を持つ人員を集めた」ことで、送金をめぐるビジョンの実現に向けて、複数の選択肢を維持しているとラワットは述べている。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Julie Verhage記者、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:©2019 Bloomberg L.P)
©2019 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.