【教養】図面がほぼ存在しないガウディ。500枚を実測した男

2019/5/12
1926年6月7日、スペインはサグラダ・ファミリア贖罪聖堂での仕事を終え、ミサに向かう途中に路面電車にひかれた、世界的な建築家アントニオ・ガウディ。
人生の半分以上をサグラダ・ファミリアにささげた彼は、最後あまりに身なりがみすぼらしかったために、彼と認識されず、処置が遅れ、その3日後に死亡した。
アントニオ・ガウディ(写真:Heritage Images / 寄稿者 via Getty Images)
「未完の聖堂」と言われ、世界文化遺産に登録されたサグラダ・ファミリアは、彼の没後100年に当たる2026年に完成予定だ。
一般にはあまり知られていないが、実はガウディの作品には、図面がほとんど残されていない。模型とスケッチを中心に、現場の職人とともに造り上げられたものばかりだ。
残された資料も戦争の最中にほとんど損壊され、サグラダ・ファミリアの建設作業は遅れた。
もっとも現在では、わずかな資料を元に模型が復元されたことや、3Dの解析技術により作業のスピードが飛躍的に上がったために、完成が近づいてきたと言われている。
ただ、彼の複雑な造形は、それでも理解が難しい。
そんな中、スペインに渡って40年、ガウディが造った建築作品を、ただひたすら実測し続ける日本人がいる。その実測図の数、およそ500枚。
田中裕也。建築学博士であり実測家だ。
そのガウディ作品の実測の功績がスペインで高く評価され、数々の賞を受賞している。さらに、サグラダ・ファミリアの現在の制作は、彼の実測図が参考にされている。
彼はなぜガウディを測り続けているのか。「決断したことを覆したら、それは死と同じ」と語るこの人物にNewsPicksは注目し、インタビューに成功した。
田中裕也(たなか・ひろや)/建築学博士、実測家。1952年北海道生まれ。1978年バルセロナに渡り、40年間ガウディ建築の実測図を描き続け、スペインで功績が高く評価される。バルセロナ日本総領事公官賞、ガウディ・グレソール賞、平成29年度アカデミア賞を受賞。

真の「建築家」になりたかった

──なぜ、スペインでガウディの建築作品を測るようになったのでしょうか。
僕は、建築家になりたかった。
9歳の頃、たまたまうちの兄貴が、オランダの民家のプラモデルを持ってきてくれた。
「こういうプラモデルのようなものを作る世界が、建築家の世界なんだよ」と言われて、面白い世界だなって。それがきっかけなんだ。
でも、勉強すればするほど、そんな簡単になれる職業じゃないってわかってくる。
──一般的には、建築学科を出て国家試験に合格したら、建築家ですよね。
それは「建築士」なんだ。僕は建築家になりたいと思った。
建築士と建築家は大きく違う。前者はものづくりの技術を持った人だけど、後者はそれだけではダメなんだ。
建築家に必要なのは、単にものを作るための知識だけじゃない。歴史学や民俗学、生物学、宗教、人々の生活に関する知識や、心理学、社会学、そして芸術。
いろんな要素がたくさん含まれる。当然、構造物を造るということは、物理学的な知識も要る。