【楠木建】外国人労働者の受け入れは「大卒」に限るべき

2019/5/10
5月7日の『The UPDATE』のテーマは「日本は移民を受け入れるべきか?」。一橋大学大学院教授の楠木建氏、フォースバレー・コンシェルジュ代表取締役社長の柴崎洋平氏、日本国際交流センター執行理事の毛受敏浩氏、福島外国人実習生・留学生支援ネットワーク代表の岡部文吾氏の4名をゲストに迎え、日本の移民問題について、議論が行われた。
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番組の最後に、古坂大魔王が最も優れていた発言として選ぶ「King of Comment」は、楠木氏の「石器時代は石がなくなったから終わったわけではない」が選ばれた。
楠木氏は、人手不足である今の時代において、移民を安い労働力として使役する企業が横行する現状を「国益に反する」と批判する。
果たして、日本はどのような形で移民を受け入れていくべきなのか、楠木氏に伺った。

今の状況は「国益」に反している

楠木 まず、「移民」という大きなテーマで語る上では、もう少し論点を絞った方がよかったでしょうね。僕は「移民」という言葉が広すぎて、ミスリーディングだと思います。
僕の議論のフォーカスは「外国人労働者の受け入れ」です。今日登壇した方々は、それぞれの分野での見識と経験をお持ちの方です。
各々に「正しい主張」なのは間違いない。ただし、論者によって達成しようとしている目的は必ずしも一緒ではない。
まず、何を達成しようとしているのか。すべてはそのための手段です。
目的を確定しておかないと、手段についてのあらゆる議論は無意味ですよね。
僕が問題にしているのは、技能実習生に代表される、従来の外国人受け入れの制度です。
借金をして、ブローカーに、彼らにしてみれば巨額の渡航コストを払い、転職の自由もなく、短期的にお金を稼いで、本国に戻ることだけを考えて、一定期間、最低賃金で働く。
受け入れる企業には、法やルールを守らないところも少なくない。そういった彼らが、日本にいい感情をもつとは思えません。日本のよくないイメージが世界に広まっていく。
インチキ日本語学校のようなものを隠れ蓑に、ひたすらバイトをしているだけの、形だけ学生という身分で日本に来る層も問題です。彼らは地域コミュニティにも親しまず、消費も最低限しかしない。
これは国益に反していると思います。
そうした形で入ってくる外国人労働者を批判しているのではありません。
制度的に可能であれば、日本との所得格差が20倍もある国々の人が、日本での労働を効率の良い稼ぎ方だと考え、日本に来るのは自然な事です。
僕が批判しているのは、制度設計者である政府、引いては立法機関にいる国会議員などです。一般の国民は、以前に比べれば、ずっと受け入れ態勢はできていると思います。
国民がどういう心持ちでいるか、ということよりも、制度の問題です。
特定技能や、技能実習生のような制度で入ってきた人たちを雇用する経営者が、ルールに違反するような雇い方をするべきでないのは言うまでもありません。
僕が現実的な解と考えるのは、「外国人労働者の受け入れは、大学卒業者のいわゆるホワイトカラーに限定する」というものです。
日本で大学を卒業させて雇う、もしくは本国で大学を卒業したものに限って、社員として戦力として雇うということです。
それ以外は受け入れるべきではない、と思っています。

存在価値のない企業が延命している現状

楠木 経営学者として僕が最も懸念するのは、安価な外国人労働力の安易な受け入れが、いまの「人手不足」という大チャンスをぶち壊しにするリスクを抱えているということ。
人手不足は、労働市場を通じて、企業の経営に規律を課します。
きちんとした労働環境や報酬を与えられない企業には、人が来なくなる。この規律が経営の質を高めていくのです。規律がゆるむことにより、すべてがぶち壊しになる。
安い労働力を使いながら、「給料は払えないですが、人手不足なんです」と言っている企業は、まずその経営なり商売が間違っているんです。
本来であれば存在する価値のない企業が、安い労働力による人海戦術によって、延命してしまっている。
それは、なくなるべきゾンビ企業の退出を抑制し、人的資源が必要なセクターへの人の移動を阻む。要するに、経済活動の新陳代謝を妨げます。
「経営の質」において、実はこの人手不足の時代は、日本にとって大きな追い風となりうる、と言う。
楠木 たとえば、テクノロジーへの投資や応用です。
本来、人手不足や賃金の上昇というのは、技術の投資を促進するはずなんです。コンビニが、安い賃金で移民を雇い働かせるよりも、レジの自動化や、全く新しい決済の仕組みなどに投資をしていくべきタイミングなんです。
そういった技術への投資・応用を怠り、なんとか安い労働力で延命しよう、と思っている企業が石器時代を続けてしまうわけです。
石器時代は、石がなくなったから終わったのではない。
青銅器など、それに代わるもっといい方法を発見し、そこに移行していったからこそ終わったのです。石がなくなるまで石器時代を続けるのですか?と問いたい。
「国益」という点で考えたとき、外国人労働者問題は、存在価値のない企業の延命や、経営の質低下などといった日本の課題をあぶり出す。
楠木 人間は楽な方に流れるからこそ、規律が必要なんです。経営といった、多くの人々の生活に関わるようなものは特に。
逆に言えば、就職氷河期の時代は、人は余っていた。どこでもいいから、仕事が欲しいという人が多かった。
これが、経営を甘やかしたのです。本来、この人手不足の時代は、日本企業の経営の質を根本から改善する千載一遇のチャンスなんです。
一方、一定の知識を身に着けた大卒の外国人が、ホワイトカラーとして、日本に来て活躍する。これには大賛成です。
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よく言われる多様性の増大になるのはもちろん、そうした人々は、短期の出稼ぎではなく、日本でキャリアと生活の基盤をつくろうとするから、消費もするし、地域コミュニティにも関わっていく。
日本人の意識を外に向けて、オープンにしていくきっかけも提供してくれる。そのためにも、外国人労働者の受け入れは、制度から変えていかないといけない。
繰り返しますが、僕が考える国益に資する施策は、大卒者に限定した上で、外国人を積極的に受け入れる、ということです。

次回は「健康食品は人を幸せにするのか?」

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<執筆:園田もなか、編集:木嵜綾奈、デザイン:斉藤我空>