良好な人間関係をつくるカギは?

 仕事をするうえで、「自分らしくあること」は良好な人間関係をつくるカギだと言われている。だが一方で職場では、社会的なマナーやルールが邪魔になってしまうことも多いだろう。仕事仲間とうまくいっている人でも、極めて繊細でプライベートに関わる情報、例えば性的指向や家庭内の問題、健康の問題を打ち明けることには抵抗を感じやすい。
 こうした「繊細なアイデンティティー」を同僚に打ち明けるか否かに関する最近の研究によると、コツを抑えて自己開示をすれば、職場でも「自分らしさ」をオープンにして同僚との関係をポジティブに変えられるということが分かった。

同僚にうまく弱みを見せて得る「強み」

 これは米ライス大学の心理学者を中心とする研究チームが「繊細なアイデンティティー」に関する65件の研究結果を統合し分析したもので、ジャーナル・オブ・ビジネス&サイコロジー誌に掲載される予定だ。ここでは先に述べたような「繊細なアイデンティティー」について、「ある社会環境で、価値が低いとみなされる特徴」と定義されている。
 研究初期の分析では、繊細なアイデンティティー、つまり社会の隅に追いやられやすいアイデンティティーを打ち明けることは、職場での人間関係やウェルビーイングには大きな影響を与えないとされた。プラスの影響も、マイナスの影響も見つからなかったためだ。
 しかし重要な変数に注目して分析をやり直したところ、打ち明けるアイデンティティーの内容が「相手が目で見てわかるものかどうか」がポイントとなり、相手の反応に大きな違いをもたらすと分かった。
 例えば、「(目に見えない)心療内科系の問題を抱えている」という悩みを同僚に打ち明けると、相手はポジティブな反応を示し、人間関係が深まる傾向があった。
 たとえ打ち明けた内容が、社会的には繊細でネガティブと見られがちのものであっても、打ち明けた相手との関係はポジティブに変化する傾向があると、研究チームは報告している。
 だが、そうでない場合もある。

「愚痴っぽい」「うざい」と思われない自己開示を

 職場で、「目に見える」アイデンティティーについて話をすると、人間関係が深まるどころか、「うざい」と思われてしまうケースもあるようだ。
  研究に加わったエデン・キング准教授(心理学)は、例えば性差や人種などについて話すと、本人が繊細な悩みを抱えていたとしても、そのアイデンティティーについて「プライドを持ちすぎ」と思われてしまうことがあると指摘する。
 またそのネガティブな反応は、「目に見える」アイデンティティー」の悩みについて語りにくい雰囲気の原因になっている可能性がある。
 この語りにくさについては、クオーツとサーベイモンキーが2019年1月にアメリカ人約2200人に対して行った調査でも裏づけられた。それによると、女性であったり有色人種であるという特徴を持つ人は、職場では自分らしく振る舞えないと感じる傾向があった。
 職場で自分のアイデンティティーの悩みを語るとき、この研究から得られたコツは二つだ。一つは、本人が繊細に悩む性的指向や健康問題など「目に見えない」アイデンティティーの開示は、相手から共感や同情を受け、人間関係をポジティブに変える傾向があること。
 その一方で、二つ目は人種やジェンダーなど外見からわかるアイデンティティーについて語ると、それは「悩みを打ち明けている」というよりも「愚痴っぽい」「不満っぽい」と受け止められる可能性があるということだ。
 自己開示を上手く行い、自分らしく働く環境を手に入れる参考にしたい。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Cassie Werber、翻訳:藤原朝子、写真:Comeback Images/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with JEEP.