外からでも変えられる。「オーガナイザー」というコンサルタントの形

2019/5/20
アクセンチュアで最も売り上げボリュームが大きいインダストリー部門の一つ、それが製造・流通本部だ。この稼ぎ頭のチームを率いるのが、アクセンチュア一筋の原口貴彰常務執行役員。コンサルタントは天職だと言い切る原口氏は、メディアに登場することをあえて避けてきた中、今回、インタビューに応じた理由は何なのか。生粋のコンサルタントが語る秘められたコンサルタントスタイルを語る。
私がメディアに出ない理由
──コンサルタントはある程度のポジションになると、インタビューを受けたり、書籍を出したり、メディアに登場する人が多いですが、原口さんの記事を探しても見当たりません。意図があるんでしょうか。
原口 お声がけはいただくんですが、お断りしてきたんです。
 理由は主に2つで、1つは、コンサルタントは黒子であるべきという考えからです。私たちの仕事は、お客様の成功を支える裏方ですから表舞台に立つのは違うかな、と感じていて。
 もう1つは、お客様とお会いした最初の印象を大切にしたいからです。
 人が人を信用するかどうか、任せたいと思えるかは、最初に出会った時の印象で決まる。私は、その一瞬に賭けているんです。
 インタビューや書籍、講演などがメディアに残っていると、お客様にその印象が残ってしまいます。
 メディアの場合、正確につづってもらえない場合があるし、その当時の情報でアップデートされないまま残っているので、古い印象を与えてしまうこともあるでしょう。初めてお会いするお客様に、今の私でダイレクトに勝負がしたいと思っているんです。
 何の情報もない状態でお会いするのはいいことばかりではありません。その30分、1時間でわかりやすく提案し、情熱を伝えなければならない。厳しいですが、だからこそ、ぶっつけ本番の演劇の舞台に立っているような感覚でしびれるんです。
──そうしたポリシーがある中でも、今回はインタビューに応じてくれました。
 私がリードしている製造・流通本部は、おかげさまでアクセンチュアの中で最も売り上げのボリュームが大きい事業本部の一つに成長しました。
 今もたくさんの引き合いをいただいており、この先を考えれば、今のチームメンバーだけではそれらのお声すべてに応えることができません。
 私の仕事のうち半分は、今でも現場に出て勝負をしていますけど、残りの半分は採用やチームビルド、チームマネジメントといった人材に関することに時間を費やしています。
 コンサルティング業は人がすべて。優秀な人材を仲間にし、お客様の成功のために純粋に仕事に打ち込める環境をつくることが、私の仕事。
 ですので、さまざまなキャリアやスキルを持っているビジネスパーソンにアクセンチュアに興味を持ってもらいたい。少しでも関心があれば転職を考えてもらいたい。
 手前みそになりますが、アクセンチュアでのコンサルタント業は本当にやりがいがあるし、面白い。私は社会人人生をすべてここにぶつけていますが、もし心からそう思っていなければとうにアクセンチュアを辞めているでしょうし、コンサルタントも辞めています。
 だから、1人でも多くの方にアクセンチュアの面白さに気づいていただくために、私の経験や考え方、ビジョン、ダイレクトなメッセージをお話することがもし役に立つのであれば、メディアに出ることもいとわないと思ったのです。
──原口さんにとってコンサルティングは天職、だと。
 間違いないと思います。
──元々、コンサルタント志望だったのですか。
 はい。高校生の時にコンサルタントになろうと決めました。大前研一さんの著書の一文で「コンサルタントとは、企業にとっての医者」というフレーズに妙にひかれて。
 そこから調べていくほどに関心は高まっていました。アクセンチュアを選んだのは、入社後1カ月海外拠点で研修を受けられると聞いて、それに釣られたからですけれど(笑)。
──コンサルタントは往々にしてプランを立てるだけの「虚業」と揶揄されることがあります。そうした経験を原口さんはされたことはありませんか。
 天職だと言い切った後なので「全くありません」と言いたいところですが、1度だけコンサルタントを辞めようと思ったことがあります。今、お話しされた通り、コンサルタントの限界を感じたことがあったんです。
 あるプロジェクトで私の提案通りにプロジェクトが進まず、コンサルタントはどんなにお客様のために動いても当事者にはなれないんだ、と。コンサルタントが転職してお客様先など企業の経営企画部門や新規事業開発部門に入ったり、起業したりすることがありますが、私もそんな感情を抱いたんです。
 しかし、提案通りに進まないのは、私が外部のコンサルタントだからではない。それは自分のせいで、「外部の人だから」は言い訳に過ぎない。企業の中にいても外にいても、変革を実現できる人は変えられるんです。そう思ったら、よりコンサルティング業にのめり込んでいきました。
 コンサルタントはほぼ常時、さまざまなお客様の「変革」をお手伝いできますから。新しい刺激や出会い、成功を感じたい人にとってはこんないい仕事はありません。
念願のコンサル入社も、プレハブ小屋で深夜作業
──第1志望のコンサルタントになれて、現在は稼ぎ頭の事業本部のトップ。きれいなエリート街道ですね。
 そんなことないですって。
 だって、私、入社直後の勤務先はプレハブ小屋で夜勤でしたから。
 最初の仕事はインフラ会社のシステムの運用保守。職種で言うとSE(システムエンジニア)ですね。しかも夜勤……。システムの稼働が緩まる時間帯にメンテナンスする仕事を簡易的に建てられたプレハブでやっていました。正直に言って、最悪だ……と思っていました。
 まぁ、ありがたいことに前向きな性格なので、この経験はムダにはならないと頑張って5年したくらいの時に、戦略コンサルティング部門へ異動するチャンスがあって移ったんです。
  移ったはいいけど、求められるレベルの高さに全然ついていけなくて、もうボロボロ。5年のSE人生の中で、私なりにシステムを知っているからこそ提案できるコンサルティングとか考えていたんですけど、当時は全く役立てることができませんでした。
──ターニングポイントは?
 まさにここです。あこがれだったコンサルタントになれたのに何もできない自分が情けなくて悔しくて、本当にがむしゃらに仕事を通して知識、経験を積んでいったんです。ここで歯を食いしばることができたから、今の自分がいると思っています。
コンダクターとしてのコンサルタント
──現在は製造・流通部門のトップです。失礼を承知で言いますと、コンサルタントの花形は戦略コンサルティング、アクセンチュアの組織で言うと「戦略コンサルティング本部」だとイメージしてしまいます。
 今からそのイメージ、覆しましょう(笑)。
 その前に、アクセンチュアの組織を簡単に説明させてください。アクセンチュアはお客様の業種・業界ごとにコンサルティングチームが組織化されています。
 私が見ている製造・流通だったり、金融であったり。そうしたインダストリーカットの組織が縦にあるとすれば、各インダストリーに横串を刺す組織があります。それが、テクノロジー部門や戦略コンサルティング部門です。
 インダストリーカット部門は、お客様とダイレクトに接し、課題を整理する。その過程で、必要に応じて戦略コンサルティング部門やシステム部門からそのプロジェクトに適した人材を選び、場合によっては外部のリソースも活用してチームを作り、ともにプランを練り上げる。そして、お客様に対して提案し並走する。
 これは常にお客様のカウンターパートであるインダストリー部門だからこそ味わえる醍醐味です。
 格好よく、例えて言えば、私のチームのコンサルタントは、さまざまな演奏家の良い部分を引き出し、楽曲を完成させる指揮者(コンダクター)であり、オーガナイザーのような役割を担えるんです。
「重い産業」と「軽い産業」を担える
──その中で、製造・流通部門の面白みはどのあたりだと感じていますか。
 「製造・流通」って一言でくくられますが、ものすごく範囲が広い。ショートサイクルでコンシューマープロダクトを製造・流通させるメーカーの一方で、造船、プラント開発などの企業も担当します。
 「重いインダストリー」そして「軽いインダストリー」のどちらのお客様ともお付き合いできることは大きな魅力でしょう。
 軽いインダストリーはプロジェクトの進行が速いため、スピート感が味わえます。提案から意思決定、アクションまでのスピードが非常に速いので、成否を短時間で感じやすい。
 一方、重いインダストリーでは、社会に大きなインパクトを与えるような、ビッグプロジェクトが往々にしてあります。軽いインダストリーとは対照的に、スピード感はありませんが、その分、練りに練られた正確で綿密なプランを描け、じっくりと詰めていくことができる。
 このように、同じ製造・流通業であっても、製造手法やサプライチェーン、スピード感などは全く違う。それらを経験することができるのは、他のインダストリー部門より明らかに多彩な知識とスキルを得られるでしょう。
──どんなメンバーを求めているんですか。原口さんが人を見るときのポイントを教えてください
 これはきれいごとではなくて、お客様の課題解決や新たな価値創出に向けて「執念」を持てる人。それ以外は二の次、三の次です。
 今、製造・流通本部にいるメンバーは本当に多様性がありますよ。コンサルティング経験がない人もいるし、製造・流通業に籍を置いていなかった人もいる。年齢、性別、国籍も問いませんから、本当にさまざまな個性を持つキャラクターがそろっていますが、共通してみんなが持っているのは、執念、そして探究心と向上心です。
──逆に、アクセンチュアは、そして原口さんは、メンバーにどんな価値を提供することができるんでしょうか。
アクセンチュアはデジタルに強いとか、ITで経営と業務を一貫してサポートできる集団であるとか、弊社が全般的にアピールしていることはもちろんそうなんですが、私にとってはやっぱり人なんです。
 さまざまな個性を持っているタレントが圧倒的に多い。それが刺激的だからきっと飽きないんでしょうね、アクセンチュアに。
 当然ですが、タレントが多ければ多いほど、先述したオーガナイジングの組み合わせは無限に広がりますから、お客様の課題解決の手段も増える。結果としてよりベストなバリューを提供できる。そんな仕事ができます。
 そして、このような環境に長きにわたり身を置いてきた中で、私が個人的に欲しているあることに気づきました。それは、若者の育成です。
 グローバルに活躍できる、本物のイノベーションを起こせる、そんな次世代の若者を育成したいと。私が見聞きし、経験してきたノウハウを伝えたいというモチベーションが高まっていて、それを少しでもアクセンチュアで実現できたらと思っています。
みなさんがアクセンチュアにどんなイメージを持っているか、正確にアクセンチュアのことを理解していただいているかわかりません。
ただ、アクセンチュアですべてのビジネスキャリアを積んできた私からの言葉として、刺激的なメンバーがそろっている集団であることは信じていただきたいと思います。面白いですよ、このチームは。
(取材・編集:木村剛士、構成:杉山忠義、撮影:竹井俊晴、デザイン:堤香菜)