【新】世界1億4800万人が契約、Netflix CEOが語る「戦略と勝算」

2019/6/8
少し前まで、ドラマといえば週に1話ずつ放送されるのが普通だった。ところがNetflixは、動画ストリーミング配信によって1シーズン13話を一挙公開。「ビンジ・ウォッチング(イッキ見)」という視聴習慣を社会現象的なブームにした。

さらにオリジナルコンテンツの製作にも乗り出し、視聴者の心をつかむだけでなく、製作者側にも世界に進出する新しいルートを確立した。近藤麻理恵さんの『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』や『テラスハウス』シリーズの大ヒットがいい例だろう。

宅配DVDレンタル業者としてスタートした同社が、動画ストリーミング配信に乗り出したのは2007年のこと。以来、契約者数はゼロから世界1億4800万人(19年3月末)にまで拡大した。その驚異的スケールの秘密はどこにあるのか。創業当初から同社を引っ張ってきたリード・ヘイスティングスCEOに話を聞いた(インタビューが行われたのは17年4月)。
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【Netflix CEO】本業をしっかりやれば、ライバルに勝てる
リード・ヘイスティングス 振り返ってみると、Netflixがこの戦いを制した最大の理由は、本業をうまくやったからでした。
「本業をしっかりやれば、ライバルに勝てる」なんて、夢がない地味な話だと思うかもしれません。
でも、まずは日常業務をエクセレントにやったうえで、それをエキサイティングにすることが、最高の改善なのだと思います。
【Netflix CEO】改良とイノベーションの違いを認識する
リード・ホフマン Netflixは本業に集中しつつ、どうやってイノベーションを起こしてきたのですか。通常この2つの両立は難しいものです。
ヘイスティングス たしかに、すごく難しいですね。
たいていの時代は、既存のものを改良することが正しい戦略ですが、ごくまれに、すべてを一変するイノベーションが登場する。その違いを正しく認識することがとても重要だと思います。
【Netflix CEO】人間はみんなユニーク、市場の人口は1人だけ
ホフマン ディストリビューターであるNetflixが、オリジナルドラマや映画の製作に進出したことは画期的でした。勝算があったのですか。
ヘイスティングス 確信はありませんでした。でも、パートナーのテッド・サランドス(Netflixの最高コンテンツ責任者)のおかげで、「これはいける」と、すぐにわかりました。
ホフマン Netflixでは、アルゴリズムで世界のユーザーを2000くらいの視聴カテゴリーに分類していると聞いたことがありますが、本当ですか?
ヘイスティングス 私たちは行列因子分解に基づく統計テクニックをいくつも使っています。
【Netflix CEO】適切な能力がある人を集めて、自由にさせる
ヘイスティングス 重要なのは、人を信頼すること、適切な能力のある人たちに自由にやらせることです。
Netflixに細かな決まりごとがないのは、適切な能力がある人たちを集めれば、最低限のルールだけで非常にうまく会社を動かせるからです。
【Netflix CEO】まあまあの仕事ぶりの人は、辞めてもらう
ホフマン カルチャーデックには、「まあまあの仕事ぶりの人は、たっぷり退職金を払うから辞めてもらう」という衝撃的なスライドがありますね。
ヘイスティングス Netflixでは常に、率直であることを重視しています。
たとえばスタッフは、「私が辞めると言ったら、どのくらい一生懸命私を引き留めてくれますか」と、上司に直接聞いてみることを奨励されています。
【Netflix CEO】適切と考える量だけ働き、休暇を取りたいだけ取れ
ヘイスティングス Netflixには、休暇に関するルールがありません。「休暇を取りたいだけ取れ」というポリシーです。就業時間についても、9時から5時までといった決まりはありません。
スタッフは、自分が適切だと考える量だけ働く。そして私はたくさん休暇を取って、よき模範を示そうとしている。休暇は刺激にもなりますからね。
【最終話・Netflix CEO】今後は壮大なビジュアル作品に投資する
ホフマン 今後、この業界はどうなっていくのでしょう。
ヘイスティングス 映画の製作費が高騰するでしょう。ドラマの製作費は、すでに1話当たり100万ドルから500万〜1000万ドル、場合によっては2000万ドルに達しています。
映画の製作費も、もっと特殊効果を駆使したスペクタクルを実現するために、1時間あたり1億ドルに近づいています。
これは強力な流通エンジンがあればこそできることです。デジタルコンテンツを流通させる素晴らしいリーチ力があれば、先行投資をもっと増やして、もっと壮大な映像作品を製作することは理にかなっています──。
連載「イノベーターズ・ライフ」、本日、第1話を公開します。
(予告編構成:上田真緒、本編翻訳:藤原朝子、バナー写真:picture alliance/アフロ、デザイン:今村 徹)