【森岡毅】ワークライフバランスの罪

2019/5/2
USJの再生で名を馳せた、森岡毅氏。現在は「刀」を設立し、沖縄テーマパークのプロジェクトなどを推進している。この令和時代に日本人に求めるられる「生き方」とは何か。『苦しかったときの話をしようか』を上梓した森岡氏に聞いた(全5回)。
【森岡毅】プロフェッショナルの核心

お母さん、お父さんを追い詰める言葉

──令和時代の日本人の働き方はどうあるべきだと考えていますか? 平成後期は「ワークライフバランス」という言葉が広がりました。
働き方というのは時間の長さではなくて、質、密度であるということを大前提として私の話を聞いてほしいのですが、私は、ワーク・オア・ライフという考え方が大嫌いです。
なぜならば、ほとんどの人は、自らのライフのためには働かないと食べていけないからです。ライフが充実するためには、人生の一番いい時間を大量に注ぎ込むワークは充実していないといけません。
ライフを充実するためにどうしてもワークが必要です。ワークがつらくて、苦しくて、嫌なものではなくて、ワークはやりがいがあって、大変かもしれないけども達成感があって、自分のライフを充実させるものでないとダメなのです。
私は、ワークライフバランスと言い始めてから、人間がおかしくなったと思います。
ワークとライフの関係の本質は“バランス”ではなく、Work is an important part of my lifeです。ワークライフバランスは、子どもを育てながら働いているお母さんやお父さんたちを追い詰める言葉だと思うんです。
森岡毅(もりおか・つよし)/刀 CEO 1972年生まれ。96年P&G入社。P&G世界本社勤務などを経て、2010年にUSJ入社。 CMOとして同社を再建。17年、マーケティング精鋭集団「株式会社刀」を設立。著書に『マーケティングとは「組織改革」である。』など
それはなぜかと言うと、ワークとライフのバランスを短期で取ることはできないからです。正確に言うと、その瞬間100パーセント仕事をしているか、100パーセント家庭に向き合っているか、人間はどちらかしかできないからです。
それなのに、「バランス」と言うから、一日の中でワークとライフのバランスを取らないといけないとみんな病的に捉えてしまっている。