フェンシングの業界改革。「英語力&電気自動車」で市場拡大

2019/4/26
2017年8月に日本フェンシング協会の会長に就任し、次々とイノベイティブな戦略を打ち出している太田雄貴会長が4月25日、都内で記者会見を行い新たな一手を発表した。
2021年以降の日本代表選手の選考要件に「英語力」を求めることと、日産とのスポンサー契約による新たな「マーケティング戦略」だ。
スポーツ界に新風を吹かせる太田会長の狙いは、果たしてどこにあるのか。その野望について、NewsPicks編集部にじっくり語った。

選手の「未来」を大切にする

――日本フェンシング協会は人材育成ビジョンとして「Athlete future first」を打ち出しました。「Athlete first」はよく言われますが、どういう問題意識を込めたものですか。
太田 僕はメダルをとれました。メダルをとると、いろんな業種や業態、様々な人たちに出会えるんですよね。そうすると自分をより俯瞰できるようになって、「世の中にはすごいヤツがいっぱいいる」と気付けるんです。
だけど日本代表になってもメダルをとれないと、そういう人たちと会える機会はなかなかないので、「俺はもう、このままでいいんだ」って思う人がどんどん出てきてしまうんですね。そうすると、学ぶ機会を失ってしまう。
今回「Athlete future first」というビジョンにした一番の理由は、現役が終わった後に職業の選択の自由がすごく少なかったり、現役を長くやってしまったがために、引退後にできないことが増えてしまったりしていたのがすごく問題だなと。どうにか解消してあげられる方法がないかと考えてたどりつきました。
加えて、選手たちにはケガの問題があります。
協会ではプロコーチを雇用していて、彼らが目を向けるのは「今日の勝利」。今日の勝利をとるために選手に多少無理をさせてでも、ケガをする可能性が高くても、試合や練習を強いてしまうことがある。そうなっていたのは、「未来を見るために、今、練習をやめる」という選択をするために、大事な指針がなかったからだと思います。
暴力問題(*)にしても、「未来のために今、我慢する」とか、「今やる・やらない」、という判断ができるようにしていきたいと思ったのが、「Athlete future first」に至った一番の経緯です。英語は、その最後に出てきたものですね。
*3月のW杯中に日本代表コーチから選手への暴力行為が発覚
――これまでの指針は強化ばかりでしたか。
そうでしたね。オリンピックでメダルをとらないと始まらないのは、実際そうだと思うんです。僕もメダルをとったからいろんなことを言えると思うんですけど、一方でメダルをとってもダメなこともあるんですよ。
フェンシングでメダリストが4人いますけど、何人言えますか? 「太田さんと、あとは誰だっけ?」とか、そんな感じだと思うんですよね。
メダルは一つの重要なことだけど、それ以外もすごく重要です。僕たちはフェンシングを通して何を届けたいかというと、“感動体験”を提供する。フェンシングを通じていろんな人たちを感動させて、共感を生み、それがまた大きな感動になる。そういうことをやると決めました。
小学3年時に現役時代の太田会長と剣を交えた西藤俊哉は2017年世界選手権で準優勝を果たした
そういった中で今回、日本代表選手の選考要件に英語を導入するのは、いろんな人たちを感動させるとして、「何人のアスリートが海外で勝った後に英語でインタビューに答えられますか?」という話です。言葉が伝わらないと、(自分の言葉で)伝えられないわけですよね。
もっと言うとコーチとのリレーションにしても、日本代表にはウクライナから2人、韓国、フランスなので、ネイティブ英語の人がいません。英語がちょっと苦手な外国人と、英語がちょっと苦手な日本人が6割ずつの英語で喋ったとき、36%しか伝わらないわけですよね。
そうすると70%近くを損失している。例えば選手とコーチのコミュニケーションを悪化させたら、勘違いとかいろんな齟齬を生んでしまったりするわけですよね。
あとは引退した後の選択肢。日本でコーチをできないなら、シンガポール、台北、ベトナム、フィリピンなどいろんなところでコーチをできる選択肢があるのに、日本人は誰一人行ってない。これは語学がかなり問題になっているわけですよ。こういった問題を見過ごしてはダメだと。
放置しておくことは簡単だけども、日本フェンシング協会は選手たちを食いものにしない。選手たちにより選択の自由を与えてあげるためにも、1、2年では結果が出ないかもしれないけど、5年後、10年後のフェンシング協会の未来のために今できることは何だろうかと、2021年以降の日本代表の選手選考に英語の点数(GTEC)を入れるという大きな決断をしました。