【保存版】今日から使える、採用マーケティング戦略フォーマット

2019/4/25
労働力不足が叫ばれる昨今、競争優位性の源泉となる優秀な人材をいかに獲得するかは、企業にとって死活問題だ。採用競争がますます激化するなか、企業には採用戦略の大幅なアップデートが求められている。
その1つが、採用に「マーケティング思考」を取り入れること。
去る3月28日、Indeed × NewsPicks Brand Designのコラボレーションによって実施された『採用戦略ブートキャンプ』は、「マーケティング思考×採用戦略」を学ぶための1日特訓プログラムだ。
Indeedは、「オウンドメディアリクルーティング(OMR)」(自社の運営するメディアを軸に、高付加価値人材に直接メッセージを発信し、共感を喚起することで人材獲得につなげていく能動的リクルーティング手法)を提唱している。

求職者・企業の双方にとって“良い採用”を実現するためには、企業がオウンドメディアを活用し、主体的に適切な情報発信をすることで自社の透明性を高め、求める人材からの共感を得ることが必要であるからだ。

そして、それを実践する上でポイントになるのが、マーケティング思考だという。
コーチを務めたのは、事業の最前線でマーケティングを担ってきたCMOや、マーケターとしての経験を生かして急成長企業の採用責任者を務めているトップランナー陣。
そして、数百人の応募者のなかから抽選で選ばれた参加者は、大企業のCHROをはじめ、スタートアップの人事担当役員など、採用市場にリアルに向き合っている33人。
リポート前半では「マーケティング思考×採用戦略」について3人の講師がレクチャー。
後半ではメドレー執行役員の加藤恭輔氏が、実際に使っているフレームワークを使って「仲間を集めるストーリー」を作るワークショップを実施。その様子をお伝えする。

顧客は誰で、何を求めているのかを明確にする

採用マーケティング戦略を立てるために、まずつくるのが骨組みです。
マーケティングでいう「顧客の特定」と「顧客ニーズの理解」、採用に置き換えると「採用したいターゲットと採用基準」を明確にし、「その人はどんな会社に入りたいと思っているのか」を言語化するところから始めます。
その上で、顧客に売れる仕組み、つまり「ありたい組織像」を表現し、最後に「手の打ち方」を考えていく。他社での成功事例をまねするような一手から入るのはNGです。
まずは、最初の顧客特定と顧客ニーズの理解を言語化するために、参考となる事例を2つご紹介します。
1つ目はゲーム実況の生配信や録画ができるアプリなどを提供している株式会社ミラティブの事例。

CASE 1 株式会社ミラティブ

ミラティブ社は組織コンセプトを「支えあうプロ集団」と定め、ターゲットを「経験と実績を積んできた超一流、それでいてお互いを尊重できるエモい人」「少数精鋭で数十億人に価値を提供するようなチームを理想としている人」と設定しました。
その上で、そうしたターゲットが求めている要素は、「プロ集団が支え合う刺激的な環境、グローバル展開できるポテンシャル、高水準の待遇、情報がオープンで性善説を前提としたカルチャー」などだと考えました。
ターゲットが求める環境であることを証明するために、ミラティブ社がたどり着いた採用戦略の打ち手が、「ミラティブがあなたにとっていい職場になりうる理由」を説明した「候補者への手紙」をWeb上で公開すること。
採用候補者への手紙はこちら
「情報がオープンである」と言い切るためにも、全社員の平均昇給額を含めて、すべての要素を公開することで体現したのです。
仲間やユーザーに向き合う姿勢、グローバルや新規事業について、性善説カルチャーや待遇についてなど40枚ものスライドで伝えています。
続いて紹介するのは、医療・ヘルスケア分野の課題を解決する、弊社メドレーの事例です。

CASE 2 株式会社メドレー

メドレーが来てもらいたいのは「社会的意義を感じたい人」や、医療の領域は長い年月をかけて向き合う必要があるので「長期視点で物事を考える未来志向な人」。そして、細かい作業の積み重ねが必要な仕事なので「日常の凡事を大切にできる人」です。
その上で、会社の実態や伝え方を整理するために、このフォーマットを活用して細分化し、ターゲットが会社に求めていることは何かを丁寧に拾っています。
その結果、打つべき一手として実行しているのが「入社理由ブログ」です。これは社員がリレー形式で入社理由を書いていくのですが、累計50万PVを超えました。

「仲間を集めるストーリー」の作り方

こうした事例を参考に、自社のターゲットを明確にして、ターゲットが企業に求めていることも言語化できたら、次はその「ありたい組織像」を表現して「仲間を集めるストーリー」を作っていきます。
「ありたい組織像」を表現するにあたり、いくつかのポイントがあります。まず前提として理解すべきは、そもそも候補者には会社の背景知識や課題意識が少ないこと。
主観的な熱量と客観的な視点のバランスをとりながら、「取り組む課題やサービスの魅力」について考えてください。
次に、「市場内での競合優位性」を考えるにあたって注意すべきは、話す側は市場内での自社の立ち位置がわかっていますが、聞く側は全体像が見えていないことです。
市場を俯瞰して見たときに、どこに自分たちがいるのかを分かりやすく説明するストーリーを作りましょう。
こうして、取り組む課題や競合優位性をまとめたら、次はそれを証明する実績が必要です。ここが落とし穴になりがちで、やろうとしていることは素晴らしくても実体が伴っていないケースが多いんですね。
仮にまだ実績が無いのだとしたら、自分たちは今どの立ち位置にいるのかを説明するようにしてください。
最後は、「文化や価値観、待遇や環境」。ここでの大切なポイントは、ターゲットをより明確に打ち出すために、自分たちに「合う人・合わない人」を伝えること。それによって、ストーリーにより一貫性を持たせることになります。
加藤氏の説明を受けて、参加者はそれぞれ自社のターゲットとなる人材を特定し、仲間を集めるストーリーを考えた。

ワーク終了後、参加者の中から代表者7名がステージ上で発表。どのプレゼンも非常にクオリティが高く、指摘をするのが難しいくらい良いストーリーだったと加藤氏。

その中でも、一番優れたストーリーを作ったのが、法人向け・ぷち社食サービス「オフィスおかん」などの事業を展開している、株式会社おかんの手塚ちひろ氏だ。
株式会社おかん 手塚ちひろ氏
このストーリーの優れたポイントは、「よく誤解されるけれど、実はこういう会社です、こういう市場です」と候補者を引き込みやすい伝え方をしている点や、全ての項目で軸が通っていること。

改善ポイントがあるとしたら、「それを証明する実績」で語られている離職の割合についてだと加藤氏は言う。

国内で離職問題に取り組むサービスの多くがモチベーションに着目して設計されているが、実はモチベーションが理由で離職する割合は全体の2割、といった説明から入った方が分かりやすいそうだ。

細かい部分だが、市場での他社との比較を丁寧に説明することが鍵を握っている。

「おかんのように小さい企業は、人員数の面でも資金力でも他社に負けてしまうことが多々あります。リソースがないのならマーケティング思考で採用活動をしたらいいのではないかと思っていたので、今日参加してとても納得しました。お金がなくても人海戦術ができなくても、きちんとターゲットを設定してフレームワークに沿ってストーリーを作れば、求める人材を採用できるのかもしれない。そんな自信がつきました。」(手塚氏)

労働力市場や、働き方・情報収集の仕方の変化などにより、これからさらに企業の人材獲得競争は激化していく。

そんななかでも、競争優位性の源泉となる優秀な人材を採用するためには、採用戦略に「マーケティング思考」を取り入れることが必須となるだろう。

旧態依然とした人事部・採用活動では、この先生き残れない。今回、前後編でご紹介したさまざまなフレームワークを活用して、ストーリーを組み立てて発信する、採用戦略の大幅アップデートを試みてはいかがだろう。
(編集:呉琢磨、文:田村朋美、写真:岡村大輔、デザイン:堤香奈)