【新】堀場製作所グローバル化の立役者、堀場厚の人生

2019/5/18
【堀場 厚】「京都式経営」が成功する理由
堀場製作所では、社員たちにどんどん失敗しろと言っています。しかし掛け声だけでは何も変わりません。そこで人事評価の仕組みを変えることにしました。
ひとことで言えば、減点評価を廃止したのです。減点評価のもとでは、何もやらない人が、最も点数が高くなります。
そこで私たちの会社では、加点評価に切り替えました。つまり何かにチャレンジして失敗した人のことを、何もやらなかった人よりも高く評価します。
評価によって「やらざる罪」を問うという仕組みです。
【堀場 厚】負けた経験は、人間を強くする
これは偏見かもしれませんが、スポーツに真剣に打ち込んだ経験のない人は、「誰でも努力さえすれば、それなりの結果が得られるものだ」という感覚を持っているように思います。
裏を返せば、「うまくいかないのは努力が足りないからだ」ということになります。
でもスポーツをしていると、「いくら努力しても結果に結びつくとは限らない」という厳しい現実を認めざるを得ない。
【堀場 厚】挑戦するなら一番難しいところから始めよう
父に「アメリカに行きたい」というと、予想通り許してもらえました。というのも、我が家は「手を挙げればやらせてもらえるが、挙げなければやらせてもらえない」という家だからです。
私は小さいころから両親に、「ああせい、こうせい」と言われたことはほとんどありません。そのかわり、自分で「やる」と手を挙げたことは応援してもらえる。
ひとことで言えば自主性を重んじるのです。
これはいまの堀場製作所のあり方と同じです。
【堀場 厚】アメリカ留学は地獄の始まりだった
カリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の工学部電気工学科の3回生に編入した私は、同時にホリバ・インスツルメンツ社に出向になりました。
ところが、UCI入学は、私にとって地獄の始まりだったのです。なにしろ授業についていけない。
【堀場 厚】チャレンジした結果の失敗は財産になる
あるとき一人で操縦するソロ飛行訓練をしていたら、悪天候のため、着陸を予定していた空港に着陸許可が下りないという連絡が無線で入ってきたのです。
まずいことに、燃料がだんだん足りなくなってきてしまった。
このままではあと30分ほどで燃料切れです。管制塔は「別の空港に行け」というのですが、それまでにおそらく墜落してしまうでしょう。
【堀場 厚】創業家社長と生え抜き社長、どちらがよいか?
二世の経営者というのは環境的には恵まれている一方で、やはり独特の大変さがあると思います。
つまり、「うまくいって当たり前」、うまくいかなかったら、「やっぱり2代目だから」と言われてしまう。基本的に褒められることはありません。
【堀場 厚】本社の人間にはわからない、関連会社の苦労
あるとき海外の会議で、父が外国人に対して成績の悪さを攻め立てたことがありました。するとその責任者が部屋へ戻って、段ボール箱にデスクの私物を詰めている。それでうちの父が、
「あれ、何してんの?」
と聞くので、私が、
「彼、たぶん辞めるよ」
と言うと、
「ええっ! あれぐらいで辞めるの?」
と驚いている。
「あれぐらいって、あれは、彼の努力を無視して彼のプライドをひどく傷付けたから、もう辞めるよ」
そこで私が30分ぐらいかけて父の対応理由を説明して説得したところ、退職を思いとどまって段ボール箱から荷物を出してくれたということがありました。
それからというもの、父は僕に海外に関しては言わなくなりました。
【最終話・堀場 厚】仕事は「おもしろおかしく」をモットーに
入院中は、実にいろいろなことを考えました。
筋肉というのは、廃用性萎縮といって、使わないでいるとどんどん衰えていきます。そのスピードときたら恐ろしいもので、なんと1日で1パーセントがなくなる。
ということは、30日間じっとしていたら、3割が失われてしまう。
そのとき気づいたのは、人間の体も会社の経営とよく似ているということです。私が怪我をしたのは左足首だけ。
ほかは全部健康なのです。ところが片方の足首が悪いだけで、全身がなんとなくおかしくなってくる──。
連載「イノベーターズ・ライフ」、本日、第1話を公開します。
(予告編構成:上田真緒、本編構成:長山清子、撮影:久保田狐庵、デザイン:今村 徹)