素人の私が、5つ星ホテルで飲まれる日本酒を作れた理由

2019/4/28
2018年9月27日、山口のベンチャー企業「ARCHIS(アーキス)」代表の松浦奈津子は東京・銀座にいた。
山口生まれ、山口育ち、会社のオフィスも山口という生粋の山口県人である松浦は、めったに上京しない。この日は特別なパーティーを主催していたのだ。
2016年秋、松浦はある日本酒をプロデュースした。その名は「夢雀」。名前を知っている人はいても、飲んだことがあるという人はまれだろう。750ミリリットルで8万8000円。日本で最も値が張る日本酒だ。
(撮影:川内イオ)
リリースしてすぐにドバイの5つ星ホテル「アルマーニホテル・ドバイ」で1本約60万円、香港のマンダリンオリエンタルホテルでは1本約20万円で扱いが始まり、話題を呼んだ。
それから2年。この日は2018年に仕込まれた「2018年 夢雀」のお披露目会だった。それにもかかわらず、パーティーのオープニングでは「2016年 夢雀」の樽で鏡開きが行われた。なぜか?
会場で、副社長の原亜紀夫がした前代未聞の発表に、その答えがある。2016年に1000本だけ発売された夢雀を、今年から18万8000円に値上げすることを明かしたのだ。
日本酒のなかにも、わずかながら熟成を売りにするものはある。だが、これだけのプレミアムが付くのは恐らく史上初。この「プレミアム夢雀」は松屋銀座や高島屋で扱いが始まっている。
2年前に続き、またも日本酒業界をざわつかせた松浦だが、実は酒づくりに関しては、まったくの門外漢。夢雀のプロデュースは、彼女が進めるたくさんのプロジェクトのひとつでしかない。
(撮影:川内イオ)
アーキスの代表として社員15人を抱え、飲食店5店舗を運営するほか、地域商社として山口県の食材を東京のレストランにおろす事業もスタートした。
さらに古民家の再生を手掛ける一般社団法人「おんなたちの古民家」代表理事、山口市阿東徳佐の農家4戸を主体とする企業組合「アグリアートジャパン」の理事を務めている。
松浦はそのすべてに全力でかかわっている。それは、彼女のSNSを見ればわかる。
ある時は、運営する飲食店のどこかで店頭に立っている。ある時は山口県観光連盟や山口県立大学と連携して、韓国の学生を古民家に案内している。
山口市阿東徳佐の田園地帯で「田楽米の稲刈りフェス」を開催したり、山口大学で始まった「山口女性大学院」第1期の受講生として、机に向かう日もある。
松浦奈津子は何者なのか?
スーパーパラレルキャリアとも言える彼女の最初の一歩が、山口で発行されているフリーペーパーの編集部から始まったことはあまり知られていない。

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